1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。CASE11 鰤岡和子〈WOLD PASTRIES〉主宰

食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。CASE11 鰤岡和子〈WOLD PASTRIES〉主宰

  • 2024.4.1

おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。
食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。

鰤岡和子 〈WOLD PASTRIES〉主宰

ぶりおか・かずこ/1975年生まれ。美容師を経て、都内のカフェで菓子作りを学び、2006年に独立開業。2016年より〈WOLD PASTRIES〉の店名で、卸しやイベントでの販売を行う。『タルト フレッシュ&ベイクド』(河出書房新社)の著書も。

家族の成長と、働き方に合わせながら辿り着いた家。

独立開業、結婚、出産。若き日々を駆け抜けた鰤岡和子さん。子供の成長を見守りながら、家族の核であり続ける夫婦理想の家を、東京都下の、自然豊かな丘の上に造った。

キャビネットの前面から挿し込むエプロンフロントのシンクがキッチンのアイコンに。大きな窓と収納も贅沢。時計は、家族3人で旅したポートランドで購入したもの。

山の斜面に立つ、木造2階建ての一軒家。向かい合うように、別棟の小さな菓子工房が立つ。裏山や畑を含めて、敷地は300坪以上。町田市郊外にある家の周辺は、東京都内と思えない長閑さだ。庭にも柚子や梅、すももと様々な木々が植わっている。
「元からあった木もあれば、私たちで植えたものも。花が咲いて葉が繁り、実をつける。年中にぎやかで楽しいんです」と、数日前、子供たちと収穫したという柚子の山を見せてくれた。
鰤岡和子さんは、かつて神奈川県相模原市で〈ひなた焼菓子店〉という店を営んでいた。一人で開いた店を移転し、家具店を併設するカフェにしたのが2011年。夫で家具職人の鰤岡力也さんと出会ったからだ。

人生の、次のステージへ。夫婦で探した理想の地。

照明は「和洋折衷感が気に入って選んだ」と話す仏〈ラファブライト〉のもの。セブンチェア、Yチェアなどの名作椅子が、力也さん一作目のテーブルを囲む。
キッチンと同じ米〈コーラー〉社製のシンクを洗面所にも。
友人の建築家と相談し作り上げた“現代のカントリースタイル”。古い日本家屋の立派な柱も生かされている。

「カフェが好きで菓子職人になったので、それは楽しく、忙しくも充実していましたが、私生活はおざなりに。家にも包材などの段ボールが山積みで、寝に帰るだけで」
娘が生まれた後もしばらく同じ生活を続けていたが、「子供と向き合う時間も必要」と、新しい住まいと働き方を模索し始める。八ヶ岳の麓から房総半島まで、様々な土地や物件を見て、辿り着いたのが今の家だ。築七十余年の再建築不可物件を、3年以上かけてフルリノベーションした。
「家造りは、ほぼ夫にお任せでした。信用していますから」と話す和子さんだが、キッチンについては、譲れない点を伝えた。緑が見える窓があること。そして、カフェ時代の器が収まる収納を設けること。力也さんのこだわりは、アメリカの農場の作業場に用いられる、ホーロー製のファーマーズシンクを取り入れたことだ。木製のシステムキッチンやタイルと組み合わせて白で統一し、古きよき時代と今の空気が交じり合うカントリースタイルが完成した。カウンターの高さは、身長差32センチの夫婦の間で希望が割れる。「夫は〝このキッチンでは自分も料理するから〟って、粘ってましたけど」と笑う和子さんの意見が、最終的に採用された。
カントリースタイルは、家造り全体のテーマでもある。力也さんの憧れでもあり、古い梁が残る建物、周囲の環境と、条件も揃ったからだ。床、天井、壁には針葉樹の材を用い、窓の外に広がる里山の景色とリンクさせながら、品よく仕上げた。採光は北側の天窓から。直射を避けつつ、暗くならないよう木張りの天井にニスを塗ることで、光量を調節している。
リビングに置かれたテーブルは、力也さんの最初の作品だ。
「前の店では、菓子の陳列台として使っていて。夫の原点であり、自分たちの暮らしの真ん中にあり続ける大事な存在です」
ほか、ソファや椅子、本棚などもほぼ力也さんの作品。「壁付けの照明など、気付くと見本として持って行かれちゃうんです」と、和子さんはまた笑う。

1階と2階を合わせて106.85㎡。1階にはゲストルームも1室設けた。2階には、約8畳のメインベッドルームに加え、見晴らしの良いバルコニーがある。

思い思いに過ごす家族の記憶を紡ぐ家。

引っ越しから8年、娘は大きくなり、力也さんの多忙ぶりには年々拍車がかかり、完成した家で家族団らんという時間は、実は少ないのだという。
「でも私が工房にいるので、娘が友達と安心してうちで遊べる。プチ学童と化しています」
果実の収穫を一緒にしたり、夏は大きなプールで遊んだりと、子供たちにとっても最高の環境だ。「自分自身、年を重ねるにつれ、ものより体験が大事に思えてきて」と、最近は母娘で登山にハマっているという。
貴重な家族の時間は、思い思いの作業に没頭しながら空間を共有することも多いという。力也さんのテーブルで、試作のお菓子を囲んで。お菓子もまた、周囲の自然の移ろいを捉えながら、豊かに進化を続けている。

試作のお菓子が家族の時間の真ん中に。

自然豊かな場所に自宅兼工房を構えてから「お菓子作りのスタンスも少しずつ変わっている」と、鰤岡和子さん。写真は庭で採れた柚子で試作したタルト。コーヒーは、イベントを一緒に行ったこともある広島の〈マウントコーヒー〉の豆をドリップする。夫の力也さんと一人娘が、頼れる試食担当。

ESSENTIAL OF KAZUKO BURIOKA

変わるもの、変わらないもの。住まいの一角の仕事場で。

( FACTORY )
住まいとは別に設けた小さな工房。
和子さんの希望で、別棟にした工房。家族が寛ぐ家の玄関から数歩で行ける庭先にあり、こもれば一人作業に没頭できる。最高の職環境。

( KNIFE )
製菓の師匠から受け継いだナイフ。
実は甘いものが苦手で、「カフェをやるなら」と消極的に修業を始めた和子さんに、菓子のおいしさを教えてくれた師匠。譲り受けた道具は宝物だ。

( GARDEN )
庭に畑。四季折々、自然の食材庫。
庭の木に実る果実も、畑で栽培するハーブも、好きなように使える。「摘む時期やタイミングで香りや味わいが変わり、発見は多い」と和子さん。

photo_Taro Hirano,Norio Kidera illustration_Yo Ueda text & edit_Kei Sasaki

元記事で読む
の記事をもっとみる