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”好き”という感情が分からない。周りから取り残されたみたいで不安です…どうしたらいい?【お悩み#59】

  • 2024.3.29

は〜いみなさん、ごきげんよう!満島てる子です。

先日の3月14日、木曜日。日本の歴史が大きく動いたことを、みなさんはご存知かしら。
「結婚の自由をすべての人に」訴訟。「同性婚訴訟」と名指されることもあるこの裁判では、6つの地方裁判所からスタートし、婚姻の平等を求め原告たちが各地で声を上げてきました。

その北海道訴訟の、高等裁判所判決。裁判長が述べた判決の内容は、目覚ましいものでした。
「同性同士のカップルが結婚できないという、日本の現状はおかしい。複数の意味で(憲法24条1項、2項、憲法14条)憲法違反である」と、原告たちの主張をほぼまるまま肯定した内容が、かつてなくはっきりと明言されたのです。

Sitakke
ライター・満島てる子

詳しい内容は、ぜひこちらのYouTubeをご覧いただければと思うんだけれど(あたしがコメンテーターとして出演したHBC「今日ドキッ!」の内容です!

⇒「社会の中にいないようなものにされてきた…」同性婚訴訟、札幌高裁の違憲判断に原告同性カップル「前向きな励まされる判決」

震える手でメモを取りながら感動を抑えきれないあたしが、この日傍聴席にいました。
普段から性的マイノリティに関する情報発信を「さっぽろレインボープライド」の実行委員として行なっている身としては、自分たちの活動が連鎖となってひとつの実を結んだような気がして、この日はすっごく嬉しかったのよ。

ただ帰り道で思ったことは、単なる喜びだけではなかったの。
これからの課題も感じたというか、このニュースをきっかけに、「同性愛」「マイノリティのカップル」だけではない性のあり方•人々の生き方も、「当たり前」のものとしてもっと可視化されていってほしいなぁって。そうも思ったのよね。

今回は、そんなあたしの気持ちにもリンクするお手紙が来ていました。
ご紹介します。

読者のお悩み:”好き”という感情が分からない。

Sitakke
Sitakke

「いつも楽しく」読んでくれてるなんて……!なんて物書き冥利に尽きるお声がけ。
バジルさん、このお悩み相談ルームに遊びに来てくださって、本当にありがとうございます!

うんうん、なるほど。
誰かに好きという感情を抱いたことがないということだけれど、もしバジルさんとお会いできるのなら、その感覚についてぜひ直接たくさんお話したいぐらいだなぁ。伝えたいこといっぱいある。

例えばね、この世の中でとってもカジュアルに使われている「好き」という言葉、そしてこの言葉が指している状態。
これって実はね、もっと細かく分解することが本当はできるはずなの。

日本でもようやく広がり始めた考え方だけれど。

誰かが誰かに対して持つ「好き」は、まず2つの異なる方向性に分けることができます。
ひとつは、相手に性的な魅力を抱くという「セクシュアル」な方向性。もうひとつは、相手を親しみでもって恋慕する「ロマンティック」な方向性です(あたしの場合、この2つの「スキ」がいずれも男性に向くというわけね)。

この2つの観点を使うことで、近年可視化されてきた性のあり方も存在します。それが「アセクシュアル」と「アロマンティック」。
それぞれ、他人に性的感情/恋愛感情を持たないというひとつのセクシャリティ。自分のアイデンティティとして名乗りをあげる人も、最近少なくないのよね(統計では人口の1%とも)。

性的な感情は抱かないけれど、誰かにロマンティックな気持ちを抱く人もいれば。相手をセクシーに思ったりはするけれど、恋愛感情は湧かないという人もいたり。どちらも無いよという人もいて。「好き」を持たないと一口に言っても、実にさまざまタイプの当事者が日常を送り、この世界に事実生きています。
「Aro/Ace」という名前で調べると、そうした人たちのコミュニティや、ピアサポートの会にも出会えるの。

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そう、バジルさん、あなたにまず伝えたいのは、周りには今いなくても、あなたと同じような感覚を抱いたり、似たような経験をしている人は確実にいるってこと。
これを知るだけでも、あなたの今抱いている違和感や不安感、もしかしたらかなり緩和されるんじゃないかしら。

もちろん、ここであたしはバジルさんのことを「アセクシュアル/アロマンティックだ」と勝手に診断したいわけではないんだけれど。
もしかしたらこの言葉たちとの出会いが、あなたの生き方を少し楽にしてくれるかもしれないとは、割と真剣に思ってるのよね。

時間があれば、ジュリー•ソンドラ•デッカーの『見えない性的指向 アセクシュアルの全て』(2019年/明石書店)を読んでみて。めちゃくちゃわかりやすい文体で、より詳細な情報を手にできるはずだから。

バジルさんに向かって「大丈夫!仲間はいるのよ!」と、大きな声でエールを投げかけたくなるあたしが、雪解けを迎えつつあるすすきののはずれにいるのでした。

あたしなりのAnswerは…

でもおそらくね、仲間がいるってだけでは解消されない不安やモヤモヤっていうのも、この世の中にはある気がするのよ。

だってさ、メディアやSNSを見ててもすんごいじゃん。
登場人物が恋愛やセックス、時にお付き合いをしてストーリーが進んでいくことが多かったり。
インフルエンサーが、そうした経験を前提とした話題で話し、フォロワーとワイワイ盛り上がっていたり。

この世の中ってなんだか、やっぱりどこか「惚れた腫れた」が中心軸にあって、誰かと「カップル」だったり「ふうふ」だったりすることがより良いものとされているような風潮、あるように思うんです。そしてその風潮に、あたしたちは普段の思考パターンまでふくめ、割とまるまま飲み込まれがち(これを「ロマンティック•ラブ•イデオロギー」なんて言ったりするけどね)。

だから、独り身のマイノリティとして生きていることや、なんならアセクシュアル•アロマンティックであることを、バジルさんも語ってくれているように、時に「自分だけ取り残されているのでは」と感じちゃうのって、もし素敵なコミュニティに属すことができていたとしても、きっとあるんじゃないかなぁ。

シングルのゲイであるあたしも、実はそう。今だって十分幸せなはずなんだけれど……恋人がいないこと、好きな人とつながれないことを、どこかおのれの罪みたいに考えちゃうことがあったりするんだ、正直なところね。

……なんだか一人語りになってしまったわね、ごめんなさい。苦笑
でも、比べるものは比べてしまうと思うのよ。理由こそ多々あれど「自分だけ相手がいない」ということに不安を抱く気持ちって、「そんな考え捨てればいいじゃん」と他人に言われたからって、おいそれと捨てられるものじゃない。

だからね、バジルさん。
まずあなたには、これからぜひいい仲間を見つけてほしい。でも、見つかったとしても消えない不安があるんだって、その後わかってくることになるかもしれない。あたしは正直そう思う。

そんな決して明るいとは言えない気持ちになって、自分にかげりを感じた時のためにも。
なんなら、今まさに抱いているスッキリしない気持ちを、吹き飛ばすためにも。

あたしはあなたに、こんな歌をおすすめしておこうと思います。

「ラ•カージュ•オ•フォール」というミュージカルの代表歌として知られるこの曲。タイトルの意味を日本語にすれば「私は私」とでもなるのかしら。
パートナーたちから拒絶され、孤独と絶望のふちに立たされたひとりのドラァグクィーン、ザザ。彼女がそれでも希望を胸に披露する熱唱は、多くの人のこころに突き刺さり、長らくLGBTQのアンセムとして愛されてきました。
様々なアーティストたちによるカバーでもよく知られています(今回は最も有名なGloria Gaynorバージョンを)。

「自分は自分よ、賞賛も哀れみもごめんなの」「あたしらしくいるってだけで、何かを弁解する必要があるわけ?」と、背中をしっかり押してくれる歌詞は、きっとバジルさんにも響くはず。

あたしは特にね、人生をトランプにたとえながら「自分の手札は自分で配るの。1(ace)を引いたり、2(deuces:ポーカーの用語だと「ワンペア」とも訳せる)の時もある。」って歌うところが好き。ひとりだろうがペアだろうが、自分らしく生きたいと望む気持ちって、みんな根のところは変わらないんだよなぁって気持ちにさせてくれるから。

バジルさん。あなたがこれから歩んでゆく道は明るかったり暗かったり、時によって様々だと思います。いつか恋をするかもしれないし、しないかもしれない。そんな自分を「大丈夫かな」って、再び案じる瞬間もあると思う。

そんな時はこの曲、よかったら思い出してください。
きっとあなたを導く道標として、力強いメッセージを都度くれるはずだから。

あたしもなんだか、この文章を書くことで救われた気がする。ありがとう!
バジルさんにそう願っているように、あたしもあたしらしくいることを諦めず、これからを歩んでいこうと思います。
おたがい、それぞれの幸せを生きていこうね!
あなたのことを、これからも西創成の地から応援し続けていますよん。

Sitakke
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ま・と・め♡

というわけで、今回はアセクシュアル/アロマンティックについて紹介しながら、最近ひとりのゲイとしてずっと悶々としていた気持ちの吐露までをもさせていただきました。笑

ちょっとずつ、この社会は変わってきている気がするの。
同性婚訴訟は、それを象徴するひとつの希望の光、とはいえ、様々な意味での生きづらさが、そこかしこにまだまだ実は潜んでいるようにも思うんだよね。

ひとりでも多くの人が「自分はこれでいいんだ」と、己の人生をプライドと共に進めるようになるために。あたしも自分なりの発信を続けていこうと思います。
ではでは皆さん、Sitakkeね〜!

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文:満島てる子
イラスト制作:VES
編集:Sitakke編集部 ナベ子
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満島てる子:オープンリーゲイの女装子。北海道大学文学研究科修了後、「7丁目のパウダールーム」の店長に。LGBTパレードを主催する「 さっぽろレインボープライド」の実行委員を兼任。 2021年7月よりWEBマガジン「Sitakke」にて読者参加型のお悩み相談コラム【てる子のお悩み相談ルーム】を連載中。お悩みは随時募集しています。

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