1. トップ
  2. 「身勝手だ」新・月9『海のはじまり』"主人公の元カノ"に賛否両論が巻き起こるワケ

「身勝手だ」新・月9『海のはじまり』"主人公の元カノ"に賛否両論が巻き起こるワケ

  • 2024.7.17

新月9ドラマ『海のはじまり』が話題だ。主人公・月岡夏(目黒蓮)が、学生時代の恋人・南雲水季(古川琴音)が亡くなってしまったことを知る。葬儀の場で会った水季の娘・海(泉谷星奈)が、実は自分の子どもである事実を突きつけられる夏。SNS上では、父親である夏にすべてを打ち明けず、中絶手術をすると嘘をついて、内緒で海を産んでいた水季に対する賛否両論が見られる。

undefined
(C)SANKEI

水季が「身勝手だ」と非難される理由

学生時代に付き合っていた夏と水季。その関係は良好だったが、ある日、中絶手術同意書を持った水季が夏の暮らすアパートへやってくる。

予期せず妊娠してしまった水季は、夏の意見は聞かず相談もせずに、中絶することを決意した。あなたはサインさえしてくれればいいというような態度が、SNS上での彼女への非難に繋がっているように思える。

夏は、恋人を妊娠させた責任を受け止め、中絶以外の選択肢を提示しようとした。しかし、水季の心は揺らがない。産むのもおろすのも、私にしかできないことなのだから、私が決めていいでしょう、と言われた夏は、水季が示す同意書にサインをするしかなかった。

その後、水季は病院を訪れ、手術を受ける。しかし、それは“フリ”だったのだ。直後、彼女は大学を辞め、夏にも一方的な別れを告げている。納得できる理由もないまま、夏の前から姿を消した水季。その間に、彼女は娘の海を出産していたと思われる。

第2話放送時点では明かされていないが、水季はなんらかの病気で亡くなってしまったという。のこされた海は、祖母にあたる朱音(大竹しのぶ)とともに暮らすことになるが、水季の葬儀の場で出会った夏のことを気にしている。彼が自分の父親であり、水季が言っていた「夏くん」であることを知ると、すぐさま、その事実を受け入れる様子を見せた。

妊娠した瞬間に、頑なに夏を遠ざけるような態度を示した水季。もちろん、海を出産したこと、育てていたことも、彼女自身が夏に打ち明けることはなかった。夏がすべてを知ったのは水季が亡くなったあとで、しかも、親族である朱音から知らされたのだ

SNS上では、水季の態度があまりにも身勝手すぎること、朱音による夏への接し方が冷たすぎることなどが、非難の対象になっている。

なぜ水季は嘘をついたのか?

そもそも、なぜ、水季は夏に嘘をついたのか?

彼女があそこまで頑なに、自分から夏を遠ざけたのには、理由がある。そしておそらく、制作側は意図して「水季に非難が集まるようなストーリー展開」にしている。

まず、水季の妊娠が発覚し、中絶手術同意書を持って夏のもとを訪れたのは、彼が就職活動をしている時期だった。無難にやるべきことをやり、人生に波風を立てず、ごく普通に生きていきたいと夏は言っていた。

それを聞いた水季は、ギリギリまで迷わせていた針を、完全に「夏には相談しない」に振らせたのではないだろうか。同意書を持参していたのだから、彼女のなかで中絶すること自体は決めていたのかもしれない。しかし、夏に事実を打ち明け、その反応によって、出方を決めようと窺っていた可能性はある。

その後、水季は病院へ向かっている。このときに、中絶手術は受けず、出産することを決めたと思われる。夏にそれを打ち明けず、大学を辞めて恋人関係まで断ち切った理由は、おそらく「出産以外の重い現実」を背負ってしまったからではないか。

つまり、水季自身が、命に関わるような病気を患っていることを知ってしまったと考えられる。子どもができたことにくわえ、将来的には自分の死さえ夏に背負わせてしまうことを避けたい、と思った水季は、何も言わずに丸ごと姿を消す道を選んだ。

夏の現在の恋人である百瀬弥生(有村架純)が、職場の後輩に「(婦人科検診は)行っておきな。でも病院は嫌だよね、わかるよ」と言っているシーンがある。これは後に、弥生自身が中絶をした過去があることを示唆した場面であるとわかる。しかし、婦人科検診というワードから、水季が若くして亡くなった病気の存在も生々しく連想させる。

賛否両論が起こる作品には、得てして、制作側の意図が隠れている。視聴者にそう思わせる、なんらかの「ストーリー上の仕掛け」がある。

これだけ非難が集まっている水季だが、彼女にはちゃんと、優しい母親の一面がある。娘である海が、夏に対して一切ネガティブな印象を抱いていないのが、その理由だ。

離れたどこかに存在する父のことを、いつか会える人と信じて待つことができたのは、海がいつも母親である水季から、夏の人となりを聞いていたからだろう。

この『海のはじまり』は、人が父となり、母となることを決め、家族をつくる過程を丁寧に描くことで、あらためて「愛とは何か」に迫る物語だ。夏が、弥生が、そして海が、どんな選択をするかによって「家族の形」が変わっていく。それは、これまでに前例がない新しさを秘めているからこそ、賛否両論を生んでしまうのだろう。



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_