1. トップ
  2. 見逃し配信が“脅威の再生数”に到達…ドラマ『アンメット』が終了後も脚光を浴び続けるワケ

見逃し配信が“脅威の再生数”に到達…ドラマ『アンメット』が終了後も脚光を浴び続けるワケ

  • 2024.7.8

杉咲花主演ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』が、最終回を迎えたあとも話題になり続けている。ここまで多くの視聴者の心を掴んだ理由を、あらためて考えてみたい。

undefined
ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(C)カンテレ

ものづくりに妥協しない。実力派で固められたキャスト

映画『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)や連続テレビ小説『おちょやん』(2020)などの代表作はもちろん、近年『市子』(2023)、『52ヘルツのクジラたち』(2024)、『朽ちないサクラ』(2024)など、出演作が次々と話題になる俳優・杉咲花。

彼女が『アンメット』の主演というだけでも、放送前から話題性は高かった。それに加え、地上波ドラマにメインキャストとしてレギュラー出演することは稀である若葉竜也が、物語の根幹を握る医師・三瓶友治役で起用されている。彼らは視聴者の想像をはるかに超えてくる形で、ひとつのドラマに真摯な態度を示し続けた。

undefined
ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』第11話より(C)カンテレ

医療ドラマの性質上、手術シーンが多くなることを鑑み、差し替えではなく自ら手術シーンを演じる姿勢。記憶障害を持っている主人公・川内ミヤビ(杉咲)の書く日記のページに連なった文字も、杉咲本人の直筆だ。

一つひとつのシーンに手を抜かず、違和感があれば言葉にして話し合う体制が取られていたことが、ドラマ公式SNSや、演出・Yuki SaitoのSNSからもみてとれる。妥協のない環境でつくられた作品だという事実は、そのまま視聴者の抱く信頼に繋がる

くわえて、杉咲花と若葉竜也は『おちょやん』や『市子』でも共演している。お互いの演技に対するアプローチはもちろん、ものづくりに対する視座も共有しているからこそ、地盤の強いドラマづくりが実現したとも言える。ちなみに、三瓶友治役として「若葉竜也しかいない」と感じ、本人に電話までしたという杉咲のエピソードも、制作発表会見で披露されている。

メインキャストの2人はもちろん、脇を固める俳優たちも実力派揃いだ。

ミヤビの主治医・大迫紘一役に井浦新、看護師長・津幡玲子役に吉瀬美智子、救急部長・星前宏太役に千葉雄大、麻酔科医・成増貴子役に野呂佳代、かつてミヤビに想いを寄せていた脳外科医・綾野楓役に岡山天音と、実力はもちろん、キャラクターのバランスとしても絶妙だ。少しずつミヤビと三瓶の信頼関係がつくられていく過程が、より際立ってみえる所以にもなっている。

リアルな人物造形と豊かな演出

原作漫画の魅力に基づいた、リアルな人物造形にも惹かれる。

たとえば星前は、救急部長でありながら、脳外科はもちろん別の専門領域にまつわる知識も豊富だ。患者の病状を総合的に判断できるように、という彼の信念に起因している。手術の練習のため、日頃から利き手ではない左手を使うようにしており、彼が食事をしているシーンではたびたび左手で箸を扱っている描写がみてとれる。

undefined
ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』第8話より(C)カンテレ

脇を彩るキャラクターを、ただの脇役という枠にはめたまま終わらせない。一人ひとりが意思を持った人間であり、思いや考えは持続している(=昨日が明日に繋がる)という本作の理念を、言葉のない場面でも体現している。

くわえて、時間をぜいたくに使った豊かな演出も、本作の深い味わいの源だ。たとえば、記憶障害になって以来、初めて脳外科手術を担当し終えたミヤビが、極度の緊張から解放され手術室にいる面々を見回すシーンがある。

彼女は脳外科医ではあるが、記憶障害を患っていることから、手術の執刀は難しい。しかし、記憶はなくても手術はできる、と信じた三瓶の計らいはもちろん、多くの仲間たちの手助けによって執刀が実現した。

この瞬間、ミヤビの胸中にあった想いを、言葉にすることはできないだろう。形にできない感情を、時間と、表情と所作、わずかな目線の動きであらわしてみせた杉咲花。彼女の魅力を増幅させるような演出と相まって、本作においても記憶に残り続けるシーンとなった。

最終回の放送を終え、見逃し配信も異例の再生回数を記録しているという。これからも語り継がれる『アンメット』のおもしろさを、ぜひさまざまな角度から味わってほしい。

 

『アンメット ある脳外科医の日記』
全話見逃し配信中
[TVer]https://tver.jp/series/srwy1lb14d
[放送枠]毎週月曜よる10時(カンテレ・フジテレビ系全国ネット)
[出演者]杉咲花、若葉竜也、岡山天音、生田絵梨花、山谷花純、尾崎匠海(INI)、中村里帆、安井順平、野呂佳代、千葉雄大、小市慢太郎、酒向芳、吉瀬美智子、井浦新
[原作]子鹿ゆずる(原作)・大槻閑人(漫画)


ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_