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「デジタルタトゥー」「炎上」現代の“間違えたら戻れない”社会とリンクする...NHKドラマ『虎に翼』

  • 2024.6.22

連続テレビ小説『虎に翼』第12週「家に女房なきは火のない炉のごとし?」において、主人公・寅子(伊藤沙莉)の母・はる(石田ゆり子)が亡くなった。

戦災孤児の一人・道男(和田庵)のことを最後まで気にかけていたはる。そんな道男の存在をきっかけに、いまだ拭いきれていなかった、よね(土居志央梨)の寅子に対する葛藤が浮き彫りになる。

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(C)NHK

よねが寅子を許せない理由

上司・多岐川(滝藤賢一)とともに、家庭裁判所の仕事に奔走するなか、寅子は戦災孤児の道男と知り合う。ひょんな流れから寅子の自宅で面倒を見ることになった道男について、寅子はよねに「このまま引き取るべきかどうか」と相談するが、よねの反応はつれない。

これまでも、よねは寅子との再会を手放しに喜びはせず、繰り返し「もうここには来るな」と会うことを拒んできた。

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(C)NHK

なぜ、よねは寅子につらくあたるのか?

よねは、過去に法曹界から離れたことのある寅子のことを、いまだに許せていないのだ。寅子にもさまざまな事情があったことは、よね自身も頭では理解できているはずだが、理屈だけでは処理しきれない感情がある。よね本人が、その御しきれない感情に苦しんでいる節がある

ともに女性でありながら、弁護士を志した仲間。片や試験に合格し、晴れて弁護士となった寅子と、何度挑戦しても不合格で涙を飲み続けた、よね。その不合格の理由も、おそらくは「突飛な格好(男装)をしているから」と、本筋から外れたものである。

弁護士資格を持っているにも関わらず、いったん法曹界から離れ、別の人生を歩もうとした寅子が、また同じ土俵に帰ってこようとしている。その事実に対し、よねは素直に喜べない。

戦争の影響で苦しんでいる子どもたちを救いたい、その思いは共通しているはずだが、二進も三進もいかないことがあればまた逃げ出すのでは? と、寅子に対する疑いを止められないのだろう。

「間違えたら戻れない」社会の始まり

よねは寅子を許せていない。その構図はまるで、一度だけ選択を間違えたり、道を外れたりした者が、世間から糾弾される様子と似ている。

間違えてしまったら、そう簡単には戻れない。インターネットやSNSが発達した現代はとくに、何か問題を起こせばすぐに誹謗中傷の波が起こる「炎上」と呼ばれる現象、そして、なかなかその過去が消えずにインターネット上に残り続ける「デジタルタトゥー」という言葉もある。

弁護士を辞めたことのある寅子は、きっとこの先も、よねから許されることはないのかもしれない。寅子自身も、一度逃げた身である自分のことを負い目に感じながら、生きていくのかもしれない。

「間違えたら戻れない」社会の始まりだ。

しかし、救いがないわけではない。不遇な育ちで、自分の力だけではなんともできない境遇で戦災孤児となってしまった道男。自分と同じような立場の子どもたちをまとめて、命を繋ぐためにスリを繰り返していた。

寅子の家に来てからも、問題行動がなくなったわけではない。しかし、寅子をはじめ、はるや花江(森田望智)に出会えたことで、彼は更生しようとしている。司法の判断を受け「許される道」に踏み出そうとしている。

一度間違えても、誤った道に進んでも、立て直すことはできる。誤解が生じたとしても、理解を示し合うことはできる。寅子とよねも、いつか歩み寄ることができる……と、希望を持って次週を待ちたい。



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧 Twitter):@yuu_uu_