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「39歳に次の出会いはない」今夜放送『9ボーダー』が巧妙に描く、“現代日本特有”ともいえる「若さ至上主義」のやるせなさ

  • 2024.5.17

恋愛なんて必要ない、結婚なんてせずとも一人で生きていける。時代が令和に移り「恋愛至上主義」「結婚しなくちゃ幸せになれない」といった価値観は遺物となりつつある。それでも、人の心は変化するもの。ドラマ『9ボーダー』で言及された「39歳に次の出会いなんてない」に、まざまざと現実を突きつけられる。

「もう39歳」……次の出会いはない?

ドラマ『9ボーダー』(2024/TBS系列)は、会計事務所を経営している長女・大庭六月(木南晴夏)、飲食店プロデュース業に勤めていたが理由あって現在無職の次女・七苗(川口春奈)、そして進路に迷い中の三女・八海(畑芽育)の三姉妹を中心に描かれるヒューマンラブストーリー。

本作の3話にて、夫・成澤邦夫(山中聡)との離婚になかなか踏み出せずにいる六月の、とあるセリフがある。

「もう39。次の出会いなんてないよ」

「39は恋愛市場に放り出されたら、ほぼ次の出会いはないし、あったとしても10人中1人くらい。金か容姿か強運の持ち主だけ。しかもそこに辿り着くには、ものすごく傷つかなくちゃいけない」

34歳の筆者は、このセリフを聞いた瞬間にメモをとった。39歳である六月からすれば、34歳は「まだ」の範疇に入るのかもしれない。それでも、手放しに若いとも言えず、まさに恋愛市場に放り出されて行き場を失っている焦りとやるせなさを感じつつある。

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金曜ドラマ『9ボーダー』第4話より (C)TBS

マッチングアプリや街コン、相席タイプの居酒屋やカフェなど、出会いの場はたくさん用意されているように思える。それでもなぜか、それらは全世代に開かれているわけではない。20代の若い女性か、はたまた金・容姿・強運のいずれかを持った選ばれた女性じゃないと、門戸さえ開けてもらえない

恋愛なんて要らない、一人でも十分に自分を満たして、自立しながらこの先の人生を歩いていける。心身ともに豊かな人は、心の底からそう思えるのだろう。

その通り、一人でも楽しく生きていけるさ! という気持ちと、そう割り切るにはまだ早いのでは……とマッチングアプリを開く未練がましさが、まだ共存している。

「若さ至上主義」から抜け出せない日本

そもそも、なぜ「39は恋愛市場に放り出されたら、ほぼ次の出会いはない」と思わされてしまうのか。この感覚はきっと、男性には薄く女性特有のものだ。年齢を重ねれば重ねるほど、相手と出会える機会や確率は目減りしていき、回復させられない。

男性だって加齢によって失う“価値”はあるはずだが、安定した仕事や経済力、優しく穏やかな心があれば、たとえ体型や髪型に少々の“難”があらわれようと、女性ほどは取り沙汰されないはず。独特な「若さ至上主義」とも言える価値観は、日本特有のものなのだろうか

アイドルグループの低年齢化を見てみても、女性の“価値”に若さが組み込まれているのは、自明の理と言えるだろう。小学生や中学生がアイドルとしてステージに立ち、テレビに映り、もてはやされている。25歳近くになると「そろそろ引退か」と誰もが思い、30歳間近でアイドルを卒業すると「ようやく」というムードが漂う。

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金曜ドラマ『9ボーダー』第4話より (C)TBS

『9ボーダー』は、19歳・29歳・39歳それぞれが、次の年代を視野に入れた「ボーダーライン」に立ったときにぶつかりがちな壁を描いている。仕事、恋愛、人間関係など壁の種類は数多あるが、年齢ごとに抱える悩みの様相が変わってくるあたり、生きていくうえで加齢からは避けられないのだという事実を思い知らされる。

本来なら、年齢なんて関係なく、自分の生きたい人生を生きたい。「もう〇〇歳なんだから」と周囲や世間から突きつけられる指標は、自分の人生には関係ないはずだ。それなのに、年齢はただの印だ、とサッパリ割り切れない自分もいる。

『9ボーダー』の登場人物たちは、どこまでもついてまわる「年齢による壁」に、どう向き合っていくのだろう。


番組概要:TBS系 金曜ドラマ『9ボーダー』 毎週金曜よる10時

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_