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SFの世界が現実に? 北大が究極の3D映像技術「電子ホログラフィ」の開発に挑戦中!

  • 2024.3.26

北海道で暮らすあなたの日常に、もっと知的好奇心を!

ちょっとマニアックだけど、なんかワクワクしてくる。なるほど深くて面白い。新連載「どさん好奇心(どさん・こうきしん)」では、日常に潜むそんなアレコレの探求に励む、北海道在住の教授たちにお話をお聞きします。

SFの世界が現実に? 北大が究極の3D映像技術「電子ホログラフィ」開発に挑戦!

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イメージ

ZOOMやLINEなど、ビデオ通話がすっかり日常に溶け込んだ昨今。便利にはなったけど、画面越しだと一緒にいるのとはやっぱり違う……
SF映画みたいに、目の前に相手の3Dバーチャル映像が現れて、リアルタイムでコミュニケーションできたらいいなぁ……なんて考えたこと、ありませんか?

実はすでに、そんな革新的な未来の実現を目指した産学連携プロジェクトが、株式会社KDDI総合研究所を中心に進められており、北海道大学もそのメンバーとして参加しているんです!
プロジェクトの核となるのは、3D映像技術「ホログラフィ」の実用化。実現により将来、新たに可能となる体験や可能性など、北大に行って教えてもらいました!

あなたがホログラフィ技術で実現したいことはなんですか?

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「計算機合成ホログラム」を研究する、北海道大学大学院情報科学研究院メディア創生学研究室 坂本雄児教授(写真左)と修士1年の榊原汰一さん(同右)にお話をうかがいました!

実際の見え方を物理的に「完全再現」

ー坂本教授が研究している「ホログラム」とはどんなものですか? 何となく、空間に浮かぶ3D映像をイメージしますが。

空間に浮かぶ3D映像すべてが「ホログラム」というわけではありません。むしろ一般的に想像されるもののほとんどは、“真の意味”でのホログラムとは異なると言っていいでしょう。
まずこちらをご覧ください。

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–蝶の標本……ですよね?

実はこれ、3Dに見える一枚の画像なんです。標本をレーザー光で撮影し、ガラス板に記録されたもので、蝶の実物はここにはいません。
ーえ! どうみても蝶そのものですし、見る角度を変えると影の見え方も変わります。 不思議!
これが「ホログラム」です。「干渉縞(かんしょうじま)」という模様で構成されている一枚の画像で、この干渉縞は立体的な光の情報をすべて記録できるという特性があるので、元の物体とまったく同じ見え方を再現できます。「ホロ」にはギリシア語で「完全」という意味があります。

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坂本教授の講義スライド

このホログラムを生み出す「ホログラフィ」の技術自体は、50年以上前に発明されているんです。発明者は1971年にノーベル物理学賞も受賞しています。ただ、撮影に大規模で複雑な装置が必要となる上に、静止画しか製作できないことがネックで実用化があまり進んでいなかったのです。

デジタル化で動画の製作を可能に

ー 私が「ホログラム」という言葉からイメージするのは動画や映像です。
そうですよね。それを実現するのが我々がいま挑戦している「電子ホログラフィ」という技術です。複雑な計算によって生成するので「計算機合成ホログラム」ともいいます。ホログラムを構成する干渉縞をデジタルデータで生成し、動画として表示させることを目指しています。

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電子ホログラムの表示イメージ図(坂本教授作成)。スクリーンより奥にあるように表示させることも可能です。

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将来的にSFの世界が現実に?(画像は編集部によるイメージ。研究目標を正確に表現するものではありません)

ー本物にしか見えない映像を3D表示できるってことですね!スゴい!

既存の3D表示技術との違いは他にもあります。まず専用のメガネやゴーグルは不要で裸眼で見ることができます。さらに、既存の技術ではピントを合わせる際、目に負担がかかり、疲労感や酔いが発生することがあるのですが、電子ホログラフィは、その心配はありません。 人の目が物を立体だと認識するのは、いくつかの生理的要因からなのですが、電子ホログラフィはそれらの要因を完全に満たします。原理的には究極の3Dと呼べます。

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メディア創生学研究室 坂本雄児教授(写真左)と修士1年の榊原汰一さん(同右)

活用の可能性に夢が広がる

ー究極ってカッコいいですね! どう活用できそうですか?

3DTV、言い換えれば「ホログラフィックTV」は将来的に実用化したい具体像の一つです。
WEB会議に活用すれば、相手が目の前にいる感覚でコミュニケーションも活発になるでしょうし、立体的なモデルを共有し、いろんな角度から見ることも可能です。遠方に住む家族、例えばおじいちゃんやおばあちゃんとリアルタイムで通信できれば、同じ空間にいる感覚を味わえて、心の距離がぐっと近づきそうです。
自動車の運転サポートにも使えると考えています。真冬、悪天候でホワイトアウトすることって、北海道の峠ではよくあるじゃないですか? そんな時、レーダー前方を撮影し、距離感も実際と同じように、好天時の様子をリアルタイムで、フロントガラスに映し出すことができたら、障害物を避けられて良いなと考えたんです。

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ゲームの世界に入り込むことも可能に?(画像はイメージ)

また、ホロルーム、つまり空間全体をホログラフィで構成することも可能です。自宅にいながら森林浴気分を楽しむなんてことができます。
映画やゲームに使えば、臨場感たっぷりで楽しいでしょうね。CGでつくった仮想の物体を表示させることもできるので、憧れのアニメやゲームのキャラに会えるのも夢があるでしょうし、他にも活用できそうなことがいくらでも考えられるので、想像が広がります。

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多種多様なアイデアが出されました!

ー夢がありますよね! 近いうちに実用化される見込みなんでしょうか?

すでに実験室レベルでは,通信で遠くにホログラム動画を送るところまでは、実現できています。 ただ、先に挙げたようなことを実現できるのは、残念ながらまだ先になりそうなのが正直なところです。私が生きている間には難しいかもしれません(笑)

超えなければならない大きな課題がいくつかあります。一つは、表示デバイスに関して。電子ホログラフィでは、1mmのおよそ1/1000、数μm(マイクロメートル)間隔の微細なホログラムデータを表示できる非常に高解像度のデバイスが必要です。仮にTVサイズ(52インチサイズ)のモニターなら、1000K程度。現在使われているモニターは最大でも8K程度の画素なので、かなり遠いです。

さらにホログラムデータの生成には非常に複雑な計算が必要で、仮にスーパーコンピュータ並みの高い演算能力を誇るコンピュータでも即座に変換することは困難で、単純で小規模なものでも数秒から数分、複雑で大きなものでは数時間かかります。

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榊原さんが開発中のヘッドマウントディスプレイ型の、電子ホログラフィの試作機。星が回転していて、まるで街中で見るイルミネーションのようでした!

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榊原さんの研究室にて

他に、データが莫大になり伝送が困難なこと、伝送できたとしてもタイムラグが生じることも課題です。遠く離れた人と場を共にしているようなリアルな感覚を与えるにはリアルタイム通信が望ましいですが、簡単なことではありません。
ただ、近年の技術の進歩は目覚ましく、一昔前には想像できなかった勢いで進んでいるので、もしかしたら、という思いもあります。実現に向け、令和4年度より産学連携プロジェクトも進めています。

「Beyond5G」を象徴する体験の実現を目指した共同研究

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プロジェクトの概要図

このプロジェクトは、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の委託研究として約4億円の支援を受け、株式会社KDDI総合研究所などと共同で取り組んでいます。背景には、現状の5Gからさらに高速・安定・大容量の通信が可能になった 「Beyond 5G」の社会の成立を想定しています。

ホログラムによる自然な立体映像に加えて、立体感のある音声、力触覚など、今以上に多量の情報(高度マルチモーダル情報)がやり取りできる社会に向けて、北大では電子ホログラムのデータの計算と電子ホログラフィの表示装置を、KDDIでは伝送技術などを、各企業・大学で分担して取り組んでいます。

令和4年度の研究開始から、榊原さんのヘッドマウントディスプレイ型やルーム型の電子ホログラフィ装置が開発されてきました。

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3Dデータ取得の様子(データは株式会社クレッセント提供)

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榊原さんは2024年1月にアメリカの学会に参加。「ヘッドマウントディスプレイを持参してデモをしたところ、多くの人から良い反応をいただきました。もっと研究成果を出して国際学会で発表したいと思いました!」

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「まずはメディアを通して、私たちがどんな研究をしているか、皆さんに知ってもらうことも、成果の一つ」と坂本教授。

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最後に、これからの“野望”について、榊原さんと坂本教授が、笑顔で話してくれました。
「ホログラムを使った画像や映像を見た人から『本物みたいですごい!』という感想が出てきたとしたら、我々、研究者の“負け”なんです(笑)」
「はじめにお見せした蝶の標本ように、最初から違和感なく、完全に『本物』だと思ってもらえるものじゃなきゃ。私たちはそういったものを目指して研究しています!」
一歩ずつですが、着実にその未来に近づいているとおもうとワクワクしますね!

あなたなら、ホログラフィ技術で何を実現したいですか?

※本記事で紹介されている成果の一部は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究(JPJ012368C06801)により得られたものです

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文: にの瀬
編集:ナベ子(Sitakke編集部)
取材日:2024年2月

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