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【吉田羊さんの着物と12のアソビゴコロ】 第8回 時代をアソブ

  • 2024.3.27
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アンティーク着物を愛する吉田羊さんが、四季折々に着物のおしゃれを楽しむ様子を撮り尽くしたフォトエッセイ『ヒツジヒツジ』(宝島社)を発売。その至極の着こなしの数々から、「着物で遊ぶ」をテーマに切り取ったアソビゴコロあふれる着物語りを12か月にわたって綴っていきます。第8回で遊ぶのは「時代」。

こんにちは、吉田羊です。
着物スタイルだからこその「アソビゴコロ」をお伝えする連載です。
江戸、明治、大正ーー。大切に受け継がれてきたアンティーク着物。
着物を着ることで、その時代の文化や流行、風習に触れることができます。
柄に込めた思いを知ることで、まるでタイムトラベラーのように
その時代の人と対話をしているような気持ちにも。
想像の海に浸る着物の楽しみが今回のテーマです。

その時代、柄に込められた想いを現代に

幸福や平和への願いを込めた「青海波」柄、魔除けを意味する「麻の葉」柄、長寿を願う「松竹梅」柄ーー。こんなふうに着物の柄には必ず何かしらの意味が込められています。つまりアンティーク着物は、かつて誰かが大切な誰かを想って、柄に託して仕立てたものなわけで。柄からその想いを推し量る楽しみもあるんです。まさに、時をかける対話。ドラマ“ふてほど”(2024年1月期ドラマ『不適切にもほどがある!』をご覧いただきありがとうございます!)だけじゃなく、実生活でもタイムトラベルしています(笑)。時代時代で流行した柄もさまざま。当時の女性になり切って街を歩くことも、アンティーク着物の醍醐味です。

100年前の家族の姿を想像して。

こちらは大正時代のアンティークの振袖。松に鶴というめでたい図柄と、五つ紋が付いていることから花嫁衣装だったと思われます。100年前のものであるにもかかわらず、素晴らしいコンディション。お嫁にいく娘を思って仕立てられたことや、嫁いだ先でも大切に残されていたことが伝わってきますよね。私はこの着物を「紀伊國屋演劇賞」をいただいた時の授賞式で着用しました。合わせた帯は鳳凰柄の格上の帯に。着物に存在感がある場合は、それに負けないくらいの格でありながら、引き立ててくれるものを選びます。ルールが厳しい席のときは、着物と帯の格を同じくすることが基本。でも普段使いであればあえてカジュアルダウンして遊ぶこともありますね。

同時代感を着物で表現。

昭和初期に建てられたビルの中のギャラリーを訪ねる日。「西洋に憧れて、はたまたオードリー・ヘップバーンに憧れて、普段の着物にスカーフを合わせたご婦人もいたんじゃないかしら?」という発想から考えたコーディネート。
 
ビルと同じく昭和初期のアンティーク着物に、セピアカラーを意識して、ブラウンの小物を合わせました。西洋がテーマなので、足もとはヴィンテージの革靴に。帯は比較的新しめのユーズド。素材に革やレースが使われていて、存在感は着物ともマッチしました。色をリンクさせたのもポイントです。

江戸時代のユーモアを着る。

写真は親しくさせていただいている、江戸小紋の染め職人の方から「100年前の骸骨柄の型紙が見つかった」と連絡を受け、染めていただいた着物。当時の骸骨柄は現代のイメージとは違い、魔除けや再生の意味がありました。歌川国芳を彷彿とさせるひょうきんな骸骨柄は、江戸時代の流行や作り手のユーモアを感じさせます。私もここは思い切って、骸骨柄の帯を合わせ、骸骨づくめのコーディネートに。

知人の工房には江戸小紋の図柄の型紙は約2万種類もあるものの、刷り職人が減っていることや、需要が減ることで消滅してしまうものもあるとか。それを伺い、着物を着るということは「かつての時代が作った文化を継承していく」ことでもあると、改めて思うのです。次の100年後、「令和という時代に骸骨の型紙を復刻し、着ていた人がいたらしい」と私の着物を手にした誰かが語る姿を想像しながら。

 

キモノ語り:Yoh Yoshida edit & text:Masaki Takeda(mineO-sha)
photograph:Yuki Kosuge & Koji Fujii(ともにmodel)、Kozue Hanada(still)
 
※人物カットはフォトエッセイ『ヒツジヒツジ』(宝島社)から
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

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