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岡本多緒さん、ポッドキャストで環境問題を発信。「気候危機は他人事じゃない」

  • 2024.3.26

パリコレクションをはじめ世界中でモデル「TAO」として活躍してきた岡本多緒さん。俳優や映像作品の監督としても国内外で活躍する傍ら、サステナブルに気を配ったファッションブランドをパートナーと共同で設立し、2023年には活動拠点を日本に移しました。気候危機やヴィーガニズム、環境問題など社会課題について発信する番組をポッドキャスト上に開設し、啓発にも熱心に取り組んでいます。様々な形で発信を続けるその思いについて伺いました。

●サステナブルバトン4-12

グレタさんの言葉に突き動かされ

――岡本多緒さんが2020年5月に開設したポッドキャスト上の番組「エメラルド プラクティシズ」では、気候変動などの環境問題のほか様々な社会課題について発信していますね。

岡本多緒さん(以下、岡本): 11年間、ニューヨークで暮らした後、仕事のきっかけで2019年にカリフォルニアに引っ越したら、環境問題や地球温暖化に関心が高い人が多い街だなと感じたんです。すばらしい自然に溢れている一方で、毎年のように大規模な山火事が起き、街中を歩いていると火事による灰が降ってくることもありました。地球温暖化による少雨や干ばつなどの異常気象が山火事の一因とされ、「気候危機は他人事じゃないんだな」と肌で感じやすい場所なのだと思います。

朝日新聞telling,(テリング)

ちょうど転居したその年の9月に、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが国連で行った“涙と怒りのスピーチ”を目にし、「彼女はかつての私だ」と感じて彼女の言葉が胸に刺さりました。私も子供の頃、漠然と「なぜこんなにモノに溢れているんだろう」とか、「このごみはどこに行くのかな」など、たくさんの疑問を抱えていたんです。学校でゴミの分別をきちんとやらない男子とけんかになったこともありました(笑)。

グレタさんの言葉を聞いて、私は自分の夢を追いかけるうちに、いつしか環境を汚す側になっていたとハッとしました。飛行機で世界中を飛び回ってたくさんのCO2を出し、世界で2番目に環境へダメージがあると言われるファッション業界でキャリアを積みかさねてきたわけですから。この先、私が少しでも地球環境に良いアクションをするにはどうしたらいいかを考えるなかで、皆さんと一緒に正しい知識を学べる場を作りたいなと。そこで、モデルで環境活動家の小野りりあんさんと「エメラルド プラクティシズ」を立ち上げたんです。

――その番組をやっていて手ごたえを感じたり、嬉しいと思ったりするのはどんな時ですか?

岡本: 一番嬉しいのは、聴いてくださった方が次のアクションを起こしてくださるときです。今回、この「サステナブルバトン」のバトンを繋いでくださった国際環境NGO「350 Japan」リーダーのは、ポッドキャスト創設時からアドバイザーのような形で関わってくださっています。日南子さんから、「ポッドキャストが放送された後、350 Japanのボランティアに登録してくださる人が必ずいる」と聞かされるとよかったなと思います。

日南子さんは、俳優をされていたこともあり、お話が上手で表現力も豊か。専門的で難しくなりがちな気候変動の問題や用語もすごく分かりやすく解説してくれるので、ついつい頼りにしてしまい、「エメラルド プラクティシズ」のゲスト最多出演者です(笑)。私はと言えば、ホストなのに知識不足を実感することもありますが、皆さんと一緒に知識を深められるよい機会だなと捉えています。

朝日新聞telling,(テリング)

――普段の生活では、どのようなエシカルなアクションを?

岡本: 「エメラルド プラクティシズ」を始めてから、食事を残さず食べるようになりました。以前は、お腹いっぱいだからと残すこともありましたが、食品ロス問題も深刻ですし、なにより食材や料理を作ってくださった方々のことを思うととても残す気になれなくて。

ほかにも、使い捨てのものやプラスチック製品は極力使わなくなりました。電気の契約を再生可能エネルギーを基にする電力会社へと変えるパワーシフトを実施しましたし、家ではコンポストも実践中です。そうそう、様々な活動の呼びかけについて、よく署名をするようになりました。かつては、「自分とは関係ない」と思っていた社会問題も、知れば知るほどつながっているんだと分かってきたからです。「歯磨きするように署名をしよう」と聞いたことがありますが、1つひとつは小さな事も習慣づけていくことが大事なのかなと思います。

――これまで海外で“モデルのTAO”として活躍してこられた岡本さんが、昨年から活動拠点を日本に移されたのはなぜですか?

岡本: 理由は1つではありませんが、新型コロナウイルスのパンデミックのころ、アメリカでアジア人差別が深刻になったことは大きかったです。アジア人というだけで、街中でいきなり殴られる事件や店舗への襲撃事件なども起きていて、純粋に恐ろしさを覚えました。調べてみると、欧米では(19世紀末から20世紀前半にかけて白人がアジア人を脅威と見なして排斥する)黄禍論があったこと、白人社会で私たちアジア人がどう描かれてきたかなども見えてきました。「役者としてアジア人のイメージを伝えてきたけれど、もしかして間違った描写だったのではないか」と悩むようになりました。

朝日新聞telling,(テリング)

――米エンタメ界でのステレオタイプな人種観は時に問題になっていますよね。

岡本: ええ。とはいえ、演じることが嫌になったわけではなかったので、一度、アメリカを離れてみるのもいいのかなと思うようになりました。そのころ受けたアクティングコーチのレッスンも良い影響を与えてくれ、「あなたの選択がそのままあなたのキャリアになる」という言葉に、勇気をもらいました。キャリアというと、日本ではバリバリ働くとかいったイメージかもしれませんが、実際には仕事のビジョンに近い感じなんです。どんな作品に出るか、セリフのひとつまでも、すべて私のキャリアの選択になります。迷っていたときにかけられた言葉で、「他の場所で自分が伝えたいと思えるストーリーを演じよう」と一歩を踏み出す決め手になりました。

服の作り手側になって

――2020年10月には、パートナーのTenzin Wild氏とサステナブルなアウターブランド「ABODE OF SNOW(アボード オブ スノー)」もローンチしています。

岡本: ヒマラヤはサンスクリット語で、“雪の棲家”という意味。ABODE OF SNOWはその英訳です。夫にはチベット人の血が流れていて、彼は常々、「非政治的なカルチャーの文脈からヒマラヤの文化を伝えていきたい」と考えていました。そのなかで、ヒマラヤにつながるアウターブランドの話が出たのですが、当時、私はポッドキャストを始めたばかり。気候変動とか環境問題に敏感になっていたので、実はすごく反対したんです。服を新たに作ることは、自分が今発信していることに逆行すると感じたからです。

でも、チベットの文化を継承することは彼のライフワークですし、消えゆく自分のルーツの文化を伝えなければならないという使命感は私の理解を超えるものがあります。大切な思いを私のアクティビズムで否定するのは違うなと感じ、いつしか気が済むまでやってほしいと思うようになりました。

朝日新聞telling,(テリング)

――反対したのに、岡本さんご自身もそのブランドに参加しようと思ったのはなぜですか?

岡本: やるならしっかりエシカルにやってほしいと思ったからです。一番近くで厳しい目を持ち、アドバイザー的な立ち位置としてなら参加できると思いました。衝突することもありますが、それはよりよいものを作るために必要なこと。それに、「物作り=悪」ではなく、どうやって作るかを根底から見直すことが重要なのだと思います。受け継がれてきた文化や人との繋がりの中から始まるクリエーションを大切にしながら、自分が目指すものづくりにいかに落とし込めるか。そうした創造を楽しみながら、よりよいものを生み出すことに意義を感じるようになりました。

そのため、サステナビリティにはとてもこだわっています。リサイクルポリエステルなどの再生素材や、オーガニックコットンのほかに、チベットならではのストーリーを伝えるという点で、ヤクというヒマラヤの高地に生息する牛の毛を使っていますが、これがとてもサステナブルなんです。

――一般の羊毛などとの違いは何ですか?

岡本: ヤクは、草の上の部分だけ食べるので草地が荒れず、緑が適度に保たれるんです。また、利用できるお腹の毛は自然と生え変わるので、人間が刈る必要もありません。近年は、認証ウールも登場し状況は改善しているとはいえ、羊はたくさんのウールを取れるように遺伝子操作が行われたり、刈り取りの効率を優先させるあまり羊が乱暴に扱われたりといったアニマルウェルフェアに反することも行われてきました。

ですから、もし「ABODE OF SNOW」のヤク製品が人気になれば、羊と同じようなことが起きてしまうかもしれません。我々は売り上げの一部をヒマラヤ白内障プロジェクトに寄付もしているので、私たちの想いをたくさんの人に知っていただきたいのですが、大量生産に傾かないよう意識しなければいけないなと思っています。

こうして服作りに一から携わったことで、1つ1つの商品に対する感謝の気持ちや、そこに行きつくまでにどれだけの思いが詰まっているかを知ることができたことはとても良かったです。もっと前に知っていたら、私のモデル人生は違うものになっていたかもしれない……、そう思うくらい素晴らしい気付きをもらいました。

朝日新聞telling,(テリング)

循環型社会に向けて発信

――迷ったけれど、一歩ずつ踏み出してこられたのですね。

岡本: はい。つい最近までの私は、何事も間違えたくない、最短距離で目的地にたどり着きたいという気持ちが強かったんです。それを「成功」だと思っていたんですね。だから、日本に戻ることも心のどこかで「負けて帰る」ような気持ちがありました。でも、40歳を目前にして、自分の選択に少しずつ自信がついてきたこともあり、回り道をしながら目的地に着いたほうが圧倒的にいろんな景色が見られるんだなって思えるようになりました。

もし仮に悩んだとしても、それはたどり着くための必要なプロセスなのだろうなと。だから、無理に急がなくてもいいと思うし、「きっと大丈夫」と思える日がいずれは訪れると考えられるようになりました。実際、東京に戻るととても楽しくて。せわしないニューヨークと、自然が豊かでのんびりしたカリフォルニアのいいとこどりというか、バランスがいいなと思います。スイス生まれの夫は、日本で孤独を感じてしまうのでは……と心配しましたが、15年前に比べて日本はとてもダイバースになり、いろんな文化の人たちと交流することが可能になりました。それはとても良い変化でしたね。

――今後、挑戦したいことは?

岡本: 監督業をもっと深めたいです。日本に戻ってきたとき、関係者に見てもらうための私自身の資料映像がないことに気づき、「だったら、自分で作ってしまおう」と。そこで、ショートフィルムを企画、脚本、演技、監督をしてみたら、「もしかして私の道は、こっちだったかも」と思うほどワクワクしたんです。小学生のころ、男子から「仕切るなよ!」と言われていたほどですから、ディレクションするのは私の原点なのかもしれません(笑)。

朝日新聞telling,(テリング)

初監督作『サン・アンド・ムーン』は、友達の勧めもあり映画祭に出品し、東京国際映画祭では「Amazon Prime Video テイクワン賞」のファイナリストに選ばれるなど、評価していただけました。そもそも自分が監督や脚本まで手掛けるのは、自分が演じたい役を作ることへの1つの答えなんです。現在、都市の再開発をテーマにした3作目を企画中です。ポッドキャストで発信してきた環境問題を、俳優や監督という私の仕事を通して発信できたらすごくいいなと思っています。

――では最後に、岡本さんにとってサステナブルとは?

岡本: 英語本来の意味での「持続性」で考えると、どの時点での持続性なのかを考えなきゃいけないなと思います。豊かだけれど温室効果ガスが大量に出ている今を持続するべきなのか……。そんなことをぼんやりと考えていると、持続というよりは循環させていくことが大切なのかなと。サステナブル=持続というとコンサバティブな印象を受けますが、単に保つだけではなく循環させるために良い変化も取り入れたいですね。

温暖化が急速に進み、「地球沸騰」の時代とも言われますが、だからといって飛行機に乗るのを諦めたり、豊かなものを全部手放したりするのは難しいですよね。先ほども言ったように、物を作ることも全てが悪なのではなく、どんなもので作り、作った後はどう戻していくのかを考えていきたいです。

朝日新聞telling,(テリング)

●岡本多緒(おかもと・たお)さんのプロフィール
1985年5月22日生まれ、千葉県出身。14歳でモデルデビュー。2006年、渡仏してパリコレに参加。以後、「TAO」名義でミラノやロンドン、ニューヨークなどのトップメゾンのショーや雑誌、ワールドキャンペーン広告などで活躍。2013年、ハリウッド映画『ウルヴァリン:SAMURAI』でスクリーンデビュー、その後もアメリカを拠点に多数の作品へ出演。2023年、拠点を日本に移し"岡本多緒"として活動をスタートし、TBS日曜劇場「ラストマン-全盲の捜査官-」へゲスト出演。現在配信中のAmazon Prime Videoオリジナルドラマ『沈黙の艦隊 シーズン1~東京湾大海戦~』などに出演する他、自身で企画・脚本・監督・出演した短編映画『サン・アンド・ムーン』が第36回 東京国際映画祭 Amazon Prime Videoテイクワン賞のファイナリスト作品に選出されるなど、多岐に渡って活動中。ポッドキャストのホストを務めるかたわら、社会問題の啓発活動にも取り組んでいる。

■キツカワユウコのプロフィール
ライター×エシカルコンシェルジュ×ヨガ伝播人。出版社やラジオ局勤務などを経てフリーランスに。アーティストをはじめ、“いま輝く人”の魅力を深掘るインタビュー記事を中心に、新譜紹介の連載などエンタメ~ライフスタイル全般で執筆中。取材や文章を通して、エシカルな表現者と社会をつなぐ役に立てたらハッピー♪ ゆるベジ、旅と自然Love

■植田真紗美のプロフィール
出版社写真部、東京都広報課写真担当を経て独立。日本写真芸術専門学校講師。 第1回キヤノンフォトグラファーズセッション最優秀賞受賞 。第19回写真「1_WALL」ファイナリスト。 2013年より写真作品の発表場として写真誌『WOMB』を制作・発行。 2021年東京恵比寿にKoma galleryを共同設立。主な写真集に『海へ』(Trace)。

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