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ネットの「味の素論争」に、専門家が出した答えは?「うま味調味料」の正しい使い方【大学教授が解説】

  • 2024.3.22
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いわゆる「味の素論争」を始めとする、「うま味調味料」の安全性についての議論。うま味調味料は体に悪く、危険なものなのか、安全なのか、科学的に見た実際のところを、わかりやすく解説します。
いわゆる「味の素論争」を始めとする、「うま味調味料」の安全性についての議論。うま味調味料は体に悪く、危険なものなのか、安全なのか、科学的に見た実際のところを、わかりやすく解説します。

Q. 「うま味調味料」は結局危険なのでしょうか? 安全なのでしょうか?

Q. 「ネットを見ていると『うま味調味料は危険だ』と、それらを使わない料理にこだわっている人もいるようです。一方で、そういった意見を否定して、『味の素』などのうま味調味料を活用しているプロの料理家の方もいるようです。

結局、うま味調味料に危険性はあるのでしょうか? なるべく使わない方がいいのでしょうか? 本当のところを教えてください」

A. 安全です。他の食品と同じように、極端に摂りすぎなければいいだけです

いわゆる『味の素論争』と言われるご質問だと思いますが、うま味調味料の危険性・安全性について解説する前に、まずよく理解しておいていただきたいことが2つあります。

第一に、どんな食品でも過剰摂取すれば健康を害する、という点です。たとえば、私たちが生きていくために不可欠な水ですら、飲み過ぎは体に害を及ぼします。

ですから、うま味調味料について考える場合も、極端なケースを前提にするのではなく、普通においしく調理に使用するレベルで危険なのかどうかを考えることが大切です。

第二に、自然のものなら安心・安全という考えは改めるべき、という点です。食べ物は本来、私たちが生きていくために必要な栄養源となるものです。おいしく楽しく食べて、健康維持に役立てることができます。

ところが近年は、とくに「○○を食べると体に悪い」等、特に加工食品を対象に危険性をあおって否定し、その一方で、「無添加」を強調した自然食品をすすめる風潮が見られます。筆者はこうした考えこそが危険だと思います。

「天然のもの」「自然食品」は体にいいというイメージを持たれやすいかもしれませんが、そもそも自然には、毒や未知の成分がたくさん存在しています。

先人たちがそうした危険なものを避けて食べられるように、素材を選び、適した調理法を考えてきてくれたからこそ、今の私たちが比較的安心して自然のものを食べられているだけです。

もし無知なまま自然のものを口にしたら、命を落とすこともあると心得るべきです。その一方で、含まれている成分が明確な食品添加物や調味料などは、あらかじめ安全性試験が行われています。

一定の規格や基準が定められたうえで、使用が認められていますので、得体の知れない天然素材よりも、よほど安全であり、健康被害につながる可能性は限りなく低いと考えるべきです。

以上2点を踏まえたうえで、「うま味調味料」が危険ではない理由を説明しましょう。

例えば、よく論争の中心となる製品である『味の素』の主成分は、「グルタミン酸ナトリウム」です。これは、昆布などに含まれる旨味成分のグルタミン酸と食塩の塩化ナトリウムが合わさったような成分です。

この製品の歴史は、1908(明治41)年に、東京帝国大学の池田菊苗教授が、昆布の旨味成分がグルタミン酸であることを発見したことから始まります。

ドイツに留学した際に、ドイツ人の体格と栄養状態の良さに驚き、「日本人の栄養状態を改善したい」と強く願うようになり、食品成分の化学的研究に取り組んだのがきっかけだそうです。

そして、それを工業化に成功したのが、味の素株式会社の前身である「鈴木製薬所」の二代目、鈴木三郎助氏でした。

「グルタミン酸を食べると危険」という説が登場したのは、およそ60年前のことです。1960~1970年代のアメリカで中華料理を食べた人々が、食後に眠気、顔面の紅潮、掻痒感、頭痛、体の痺れなどの症状を訴えたと報告されました。

グルタミン酸ナトリウムを使用していた中華料理店で起きたことから、「チャイニーズ・レストラン・シンドローム(中華料理店症候群)」と呼ばれました。

その一方で、脳科学研究において、脳の中で機能する神経伝達物質の一つがグルタミン酸であることも明らかになりました。そのため、食べたグルタミン酸が脳に入って、脳の働きを乱すのだろうと言われるようにもなりました。しかし、この説はいまでは完全に否定されています。

そもそもグルタミン酸を食べても、脳には到達しません。末梢血と脳の間には「血液脳関門」と呼ばれるバリア構造があり、グルタミン酸はこれを通り抜けられないからです。

また、グルタミン酸は、タンパク質を構成するアミノ酸の一種ですから、食べて摂取した大部分は、筋肉や骨を形作るタンパク質の原料として利用されます。

一部は、他のアミノ酸に変換されたり代謝されて、エネルギー源としても利用されます。つまり、適量のグルタミン酸は、私たちの体に有益なものなのです。

さらに、グルタミン酸は、昆布以外にも、チーズ、トマト、魚介類など、私たちが「旨い!」と感じるほとんどの食材に入っています。もしグルタミン酸が危険だというなら、私たちはこうしたおいしいものを何も食べてはいけないことになってしまいます。

グルタミン酸が危険だと思い込んでしまって疑わない人には、ぜひその間違いに気づいてほしいと思います。

なお、製品の『味の素』には、グルタミン酸だけでなくナトリウムも含まれていますので、食塩(塩化ナトリウム)と味の素の両方を使う場合は、ナトリウムが重複してしまうので控えめに使うなど、「適量」を心がけて、おいしく食を楽しむのがいいでしょう。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。

文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)

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