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福地桃子が可憐に“千尋”デビュー! 日英同時上演の舞台『千と千尋の神隠し』は歴史的快挙

  • 2024.3.20
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2022年に舞台化された宮﨑駿監督の『千と千尋の神隠し』が、2024年は日英で同時上演。海外で4カ月もの間、日本のプロダクションが日本語で公演を行うのはほぼ類を見ない快挙です。話題の舞台を、今回千尋役デビューした福地桃子さんの主演回を通してリポート!
2022年に舞台化された宮﨑駿監督の『千と千尋の神隠し』が、2024年は日英で同時上演。海外で4カ月もの間、日本のプロダクションが日本語で公演を行うのはほぼ類を見ない快挙です。話題の舞台を、今回千尋役デビューした福地桃子さんの主演回を通してリポート!

2022年に橋本環奈さん、上白石萌音さん主演で初演、話題をさらった舞台『千と千尋の神隠し』。その2024年公演が3月11日、東京・帝国劇場で開幕しました。

4~8月にはイギリス・ロンドンでも同時上演され、日本の演劇史に新たな1ページを加えることになる舞台を、新たに千尋役をつとめる福地桃子さんの出演回を通してご紹介します!

ロンドンの大劇場で4カ月間上演という“快挙”

舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部
舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部


2001年の公開以来、国内外で愛されてきた宮﨑駿監督のアニメーション映画『千と千尋の神隠し』。神々の世界に迷い込んだ少女の冒険物語は、『レ・ミゼラブル』オリジナル版などで知られるジョン・ケアード氏の演出で舞台化され、2022年、東京・帝国劇場で開幕しました。

初演舞台はたちまち大評判となり、翌23年の名古屋公演を経て、今年は東京・名古屋・福岡・大阪・札幌の5都市で上演。そしてそれに並行して、4月からはロンドンでも引っ越し公演(日本のカンパニーが現地に赴いて演じる公演)が実現します。

『千と千尋の神隠し』ロンドン公演宣伝ビジュアル
『千と千尋の神隠し』ロンドン公演宣伝ビジュアル



驚異的なチケット売り上げの大人気

場所は座席数2300超の大劇場、ロンドン・コロシアム。イングリッシュ・ナショナル・オペラの本拠地として知られる、壮麗な劇場です。現地の製作会社「PWプロダクションズ」との共同製作で7月までの上演を予定していましたが、驚異的なチケット売り上げに伴い、8月まで延長。計135回の公演が行われる予定です。

ロンドン・コロシアムの内観。撮影者:Guy de Laubier
ロンドン・コロシアムの内観。撮影者:Guy de Laubier


東宝演劇の作品はこれまでも海外で上演されてきましたが、主に現地のプロダクションに上演権をライセンスし、現地キャスト・現地語で上演……という形で行われており、今回のように、日本で上演したプロダクションが現地に赴き、日本語で4カ月もの公演を行うのは、東宝にとって初。日本の演劇界全体を見回しても、ほとんど類を見ない挑戦です。

舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部
舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部


隣国の韓国では近年、国をあげた“コンテンツ産業支援”を背景として、新作舞台が続々誕生。産業としての勢いは目覚ましいものがあり、日本でも国際的な競争力を持つコンテンツが嘱望されていただけに、今回の快挙には演劇界のあちこちから「こんな日が来るとは……」と深い感慨の声が聞かれます。

観客のイマジネーションを刺激する、見どころ満載の舞台

そんな中で開幕した、2024年版の『千と千尋の神隠し』。

静寂の中、青空と地平線が映し出された幕に向かって、花束を握りしめた千尋がとぼとぼと歩いてくる姿から、物語は始まります。車で引っ越し先に向かう途中、森の中に迷い込んだ一家は、不思議なトンネルを発見。興味津々の両親にしぶしぶ続いて、千尋が中へと入っていくと……。

ここで幕が上がり、盆舞台が回って“異世界”があらわれます。

舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部
舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部


盆の上の舞台装置は、面が変わるたびに屋台になったり、神々のための湯屋「油屋」の表玄関になったり。原作映画の世界をリアルに再現しつつも、100%作り込むのではなく、あえて観客の想像に委ねた部分もあり、かつて『レ・ミゼラブル』で“盆舞台+イマジネーション”を駆使し、一世を風靡(ふうび)したケアード氏らしい演出です。

舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部
舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部


不思議な世界にひしめくのは、個性豊かなキャラクターたち。2年前の舞台『イントゥ・ザ・ウッズ』では“赤ずきんちゃん”を演じていた羽野晶紀さんは、今回驚きの“おばあちゃん声”を駆使し、湯婆婆を怪演(夏木マリさん、朴璐美さん、春風ひとみさんと交互出演)。

舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部
舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部


新キャストとしてハクを演じる増子敦貴さん(GENIC)は、シャープな動きでキャラクターの神秘性を印象づけます(醍醐虎汰朗さん、三浦宏規さんとの交互出演)。謎めいた存在として人気のキャラクター・カオナシは、中川賢さんがコンテンポラリー・ダンスの要素を取り入れた動きで体現(森山開次さん、小㞍健太さん、山野光さんとの交互出演)。台詞のほとんどない役柄に一層の奥行きが加わっています。

舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部
舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部


アンサンブルキャストの、八面六臂(ろっぴ)の活躍も見逃せません。神様や油屋のスタッフとして登場したかと思えば、道を照らすカンテラとしてユーモラスかつ美しいダンスを見せたり、黒衣としてパペットを自在に操ったり。特に数人がかりで滑らかに操る白竜は、トビー・オリエ氏の精緻なデザインもあいまって、まさに命が吹き込まれたよう。オクサレ様の体に刺さったあるモノを、千尋と皆が引き抜くくだりもエネルギーにあふれ、見どころの1つとなっています。

“10歳の少女”の成長を丁寧に、みずみずしく演じる福地桃子さん

観客を異世界にいざなう主人公・千尋をこの日、演じたのは福地桃子さん。続投の橋本環奈さん、上白石萌音さん、やはり新キャストの川栄李奈さん(3月27日にデビュー予定)と回替わりで、長期公演に挑んでいます。

舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部
舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部


昨秋、初舞台となった『橋からの眺め』では、少女から大人の女性への過渡期を鮮やかに演じ、悲劇の発端となってゆく役どころで存在感を放っていた福地さんですが、今回は冒頭の心もとない足取りからして、いかにも消極的な小学生。

そんな彼女が両親を助けるため未知の世界に飛び込み、「鈍くさい」と言われながらも懸命に働く姿はなんとも健気で、心を寄せずにはいられません。決して一足飛びではなく、1つ1つの出来事をしっかりと受け止めながら成長してゆく千尋として、ラスト近く、髪を結び直すくだりでの、冒頭とはまるで違うオーラが強い印象を残します。

舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部
舞台『千と千尋の神隠し』写真提供:東宝演劇部


4月からのロンドン公演には、4人の千尋役が順に渡英し、出演する予定。シェイクスピアを生んだ国であり、伝統的に台詞で構築された演目が好まれるイギリスでは、主人公とカオナシたちが無言で電車に乗るといった詩的なシーンも少なくない本作は新鮮に受け止められる可能性が大ですが、そんな中で4人の千尋たちも新たな発見をし、さらに役を深めてゆくことでしょう。

将来的にはブロードウェイでもぜひ、とラブコールがあがりそうな本作。海外で日本の演劇というととかく歌舞伎など古典芸能がイメージされがちだった中で、日本の演劇の代名詞といえば『千と千尋の神隠し』、という日が遠からず、訪れるかもしれません。

公演情報

舞台『千と千尋の神隠し』3月11~30日=帝国劇場。4月に御園座、4~5月に博多座、5~6月に梅田芸術劇場メインホール、6月に札幌文化芸術劇場hitaru、4~8月にLondon Coliseumでも上演。

舞台『千と千尋の神隠し』
舞台『千と千尋の神隠し』



文:松島 まり乃

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