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『パレード』「新聞記者」「余命10年」の藤井道人監督が長澤まさみを主演に迎えたヒューマンドラマ

  • 2024.3.19

sweet誌面で映画や小説・漫画を毎号紹介している物書き・SYOさんが今月の推し映画を紹介する連載【ものかきSYOがスウィートガールに捧ぐ今月の推し映画】

vol.14の今回紹介する映画は、現在Netfrixで配信中の長澤まさみ、坂口健太郎、横浜流星、森七菜、寺島しのぶ、田中哲司、リリー・フランキーら豪華キャストが共演した藤井道人監督作『パレード』。

浜辺に打ち上げられて目を覚ました報道番組制作者・美奈子(長澤)。はぐれてしまった幼い息子を探すが、出会った人々に話しかけても反応はなく、触れても何も感じない……。そんなときに声をかけてきた青年・アキラ(坂口)に連れていかれた先で、美奈子は自分が死者となったことを知る――。死者の目線で生者を想う、感動ファンタジーだ。

『ゴースト/ニューヨークの幻』や『黄泉がえり』、『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』等々、切ない幽霊ものはこれまでの映画でも描かれてきたが、『パレード』はまたひと味違う作品だ。美奈子たちがいる場所は、生者の世界と死者の世界の狭間。この世に未練を残し、“その先”に行けない人々が集まるエリアであり、月に一度「会いたい人を探す」パレードを行っている。もしこの世界で再会できたとしたら、それは相手も亡くなっているということだし、生者の居場所が分かったとしても気づかれることはない。どうしたって切なく、さらにこの世界で新たに出会った人々同士にも“別れ”は訪れる――という点が特徴的。未練が解消されたのだから喜ぶべきことだが、哀しみがゼロかといえばそうではない。藤井監督が自身の身に起こった“喪失”を盛り込んで書き上げた本作は、生者と死者の間や生者/死者同士――様々な形での出会いと別れを群像劇スタイルで映し出していく。

さらにはそこに「映画を作る喜び」が入ってきて、作品は時空を超える――といった願いまでも込められているよう。劇中で「映画を撮ることで人々が繋がり、映画を観ることで他者に伝わっていく」という様子が描かれ、その構造が『パレード』自体とオーバーラップするというメタ要素もある(本作を観ている私たちの心にも、他者の人生がインプットされる)。世界観が独特なこともあり、こうして言語化すると複雑な映画に見えてしまうかもしれないが、俳優陣の熱演やエモーショナルな演出によって、理解を感動が追い越していく。「この世界の“ルール”はこう」といったことを頭で考えている間に心はとっくに受け入れ、涙してしまっているこの不思議な感覚――僕はこれを未だ言語化できない。ただ、心が抱きしめられたぬくもりだけが事実として、確かに遺っている。

生きていくうえで、他者の死を経験していない人はいないだろう。出会ったことのない誰かが毎日何らかの理由で命を落とし、いま生きている僕たちにだっていつかその日はやってくる。大切な人を亡くし、その喪失が未だ消えず、心の傷が癒えない人も多くいるはずだ。そうした個々人の死生観と本作が出合ったとき、何を想い、どんな感情が立ち上がるのか――。冒頭に「感動作」と述べたが、その色や質感、温度は人それぞれに異なる。死者と生者が会えなくてもお互いを想うように、どんな自分で観ても許されること。そして、どんな相手をも優しさで包もうとすること――。それがパレード(祝祭)と名付けられた本作が持つ、豊かさなのかもしれない。

ここまで書き連ねてはみたものの、本作に言葉は似合わないような気もする。もしいま心に重さを感じているなら、そっと再生ボタンを押してみてほしい。何もかも飛び越えて、ただ愛を伝えようとする純粋な気持ちに出合えるはずだから。

パレード

story:瓦礫が打ち上げられた海辺で目を覚ました美奈子。離ればなれになったひとり息子の良を捜す彼女は、道中でアキラという青年や元ヤクザの勝利、元映画プロデューサーのマイケルらと出会い、やがて自分がすでに亡くなっていること、未練を残して世を去ったため、まだ“その先”に行くことができずにいることを知る。そしてアキラたちもまた、さまざまな理由でこの世界にとどまっていた。現実を受け止めきれない美奈子だったが、月に一度死者たちが集い、それぞれの会いたかった人を捜すパレードに参加したことをきっかけに、少しずつ心が変化していく。

text : SYO

web edit : KAREN MIYAZAKI[sweet web]

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