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天文学者「恒星間天体の大気圏突入の振動をキャッチしたぞ!」地震学者「トラックの走行音じゃね?」

  • 2024.3.16
太陽系外から飛来した「恒星間天体」によって検出された振動は、実はトラックの振動だった!?
太陽系外から飛来した「恒星間天体」によって検出された振動は、実はトラックの振動だった!? / Credit:Canva

人類にとって太陽系外は、未知の領域だと言えます。

太陽系外に「宇宙人が存在するかもしれない」「生命が存在できる惑星があるかもしれない」と考える人もいるでしょう。

だからこそ、太陽系外から地球へ飛来してきた「恒星間天体に、科学者たちは強い関心を抱いています。

はるか遠くから来た「贈り物」を調べることで、生命の痕跡など、何か重要な情報が得られるかもしれないというわけです。

そして2023年には、アメリカ・ハーバード大学(Harvard University)に所属する天文学者アヴィ・ローブ氏が、パプアニューギニア近くの海から「恒星間天体の欠片を発見した」と報告し、大きな話題を呼びました。

ところがこの度、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学(Johns Hopkins University)に所属する惑星地震学者ベンジャミン・フェルナンド氏は、「欠片の落下地点を予測するために用いられた振動データは、恒星間天体に由来するものではなく、単に道路を走るトラックに由来するものだった」と述べています。

研究の詳細は、2024年3月8日付の『ジョンズ・ホプキンズ大学のプレスリリース』にて報告されており、2024年3月11~16日にテキサス州で開かれる第55回月惑星科学会議「LPSC 2024」でも発表されます。

目次

  • 太陽系外から飛来した「恒星間天体」
  • 恒星間天体の落下場所を示す振動データは、実はトラックが走る時の振動だった

太陽系外から飛来した「恒星間天体」

オウムアムアのイメージ。オウムアムアは細長い形状をしていると想像されている
オウムアムアのイメージ。オウムアムアは細長い形状をしていると想像されている / Credit:Wikipedia Commons_オウムアムア

太陽系外から飛来した「恒星間天体が初めて観測されたのは、2017年10月のことです。

この天体は「オウムアムア(ハワイ語で‘遠方からの初めての使者’を意味する)」と呼ばれており、地球から2400万kmのところを通過しました。

発見された時には、地球のそばを通ってから既に5日経った後だったため、天文学者たちは地球から離れているオウムアムアしか観測できず、その正体は謎に包まれたままです。

当時は、「オウムアムアは宇宙人の探査機だ」などという主張もあったようです。

とはいえ、その後の研究により、「オウムアムアは天然起源の天体(太陽系外の惑星の欠片など)である」と報告され、その意見が広く受け入れられています。

そして2019年には、2番目の恒星間天体として「ボリソフ彗星」が観測されましたが、こちらも地球に来ることはありませんでした。

2014年の火球が、実は「恒星間天体」だったと判明。
2014年の火球が、実は「恒星間天体」だったと判明。 / Credit:Canva

しかし、同じ2019年には、「過去に地球へと飛来した物体が、実は恒星間天体だった」と判明しました。

それは2014年、パプアニューギニア上空で火球として観測された天体「CNEOS 2014-01-08(別名:IM1)です。

この天体は、2022年4月、アメリカ宇宙コマンド(USSC)により、恒星間天体の可能性があると正式に確認されました。

つまりIM1は、人類が観測した3番目の恒星間天体であり、「観測史上初めて地球に衝突した恒星間天体」なのです。

IM1は、太陽系外からの未知の「贈り物」とも言えますね。多くの人々がIM1に関心を持っているのも納得できます。

その後、ハーバード大学の天文学者アヴィ・ローブ氏ら研究チームのプロジェクトによって、パプアニューギニアの上空で爆散し、海に沈んでいった「IM1の欠片」の回収が試みられました。

そして彼らは、IM1が大気圏に入った際の振動から、欠片が落ちた場所を特定し、「恒星間天体の欠片を発見した」と報告しています。

これが本当なら、人類は「太陽系外の物質を分析できる」ことになります。

しかし、ローブ氏らの報告に納得していない科学者は多く、「ローブ氏の勘違いだ」と指摘する声も上がっています。

恒星間天体の落下場所を示す振動データは、実はトラックが走る時の振動だった

2023年6月、ローブ氏ら研究チームは、パプアニューギニアの海底に沈んだ恒星間天体「IM1」の欠片を探しました。

そして7月には、数百個の金属球体(最大直径1.3mm)を回収し、これらを「IM1の欠片だ」と主張しました。

ローブ氏らが海底から発見された物体。IM1の欠片だと主張
ローブ氏らが海底から発見された物体。IM1の欠片だと主張 / Credit:Avi Loeb(Harvard University)_The IM1 Spherules from the Pacific Ocean Have Extrasolar Composition(2023)

ちなみに、このプロジェクトでは、「IM1が大気圏に突入した際の空気の振動」から、IM1の欠片の落下場所を推測しようとしました。

IM1が大気圏に突入した後、パプアニューギニアのマヌス島にある地震観測所で地面の振動が記録されたため、この2つを関連付け、落下位置を導き出したのです。

しかし、ローブ氏らの主張に対して、ジョンズ・ホプキンズ大学のベンジャミン・フェルナンド氏は異議を唱えています。

フェルナンド氏によると、「その地面の振動データは、IM1の大気圏突入で発生したものではない」というのです。

そして「IM1は、実際には別のポイントで大気圏に突入していた」「実際に欠片が落ちた場所は、ローブ氏らが探索した場所から非常に遠く離れている」と続けています。

「彼らは間違った信号を使用しただけでなく、間違った場所を探していました」とのこと。

ローブ氏らの探索を導いた「振動」は間違いだった!?
ローブ氏らの探索を導いた「振動」は間違いだった!? / Credit:Canva

では、どうしてローブ氏らの探索場所が間違っていたと言えるのでしょうか。

フェルナンド氏ら研究チームは、「そもそもマヌス島で、IM1の大気圏突入に関連した信号を確認できなかった」ようです。

それどころか、核実験による音波を検出するよう設計されたオーストラリアとパラオの観測所のデータから、IM1の信号が検出されたようです。

その振動データによると、「正しい欠片の落下場所は、ローブ氏らが探索したポイントから160km以上も遠く離れていた」のです。

では、ローブ氏らが探索に用いた「振動データ」とはいったい何だったのでしょうか。

振動の原因は、「轟音を立てて走るトラック」だった可能性が高い
振動の原因は、「轟音を立てて走るトラック」だった可能性が高い / Credit:Canva

フェルナンド氏は、「その振動の原因は、火球ではなく、観測所の近くの道路を轟音を立てて通過するトラックだった可能性が高い」と述べています。

そして「その信号(振動データ)は、時間の経過とともに方向を変え、地震計の前を通る道路と正確に一致しました」と続けました。

実際、このような勘違いは時々生じます。

例えば、ある天文台で検知される「奇妙な電波」の正体は、17年間謎に包まれていましたが、「実は近くの電子レンジだった」ということがありました。

また、仮にローブ氏らの探索場所が間違っていないとしても、海底から回収された物体を「太陽系外から来た」と断定することは困難です。

なぜなら、地球には、毎年約3600トンもの「宇宙からの微小な物質・塵」が降り注いでいると考えられているからです。

回収された物体が「宇宙から来たもの」だと分かったとしても、それを10年前に飛来した恒星間天体「IM1」と関連付けるのは、非常に難しいのです。

今回のフェルナンド氏の報告は、地上で「恒星間天体」の物質を見つけることの難しさを示しています。

私たちが「太陽系外からの贈り物」を手にするのは、まだまだ先のことなのかもしれませんね。

参考文献

INTERSTELLAR SIGNAL LINKED TO ALIENS WAS ACTUALLY JUST A TRUCK
https://hub.jhu.edu/2024/03/07/alien-meteor-truck/

‘Interstellar meteor’ vibrations actually caused by a truck, study suggests
https://www.space.com/interstellar-meteor-sound-signal-claim-truck

Suspected Interstellar Signal May Have Just Been a Noisy Truck
https://www.sciencealert.com/suspected-interstellar-signal-may-have-just-been-a-noisy-truck

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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