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「人生は大切にすればするほど美しくなっていく」トリュフォーが語る“美”とは?

  • 2024.3.16

文筆家・村上香住子が胸をときめかせた言葉を綴る連載「La boîte à bijoux pour les mots précieuxーことばの宝石箱」。今回はフランス映画界の巨匠、フランソワ・トリュフォーの言葉をご紹介。

いつも順風満帆というわけにはいかない。何度も転けたりつまずいたりしていると、もう投げ出してしまいたくなる。そんな時ふと優しい気持ちになって、そっと掬い上げてみると、これまで濁っていると思っていた水が、よくみるといつの間にか澄みきっていたりする。人のこころは、そういうマジックを起こすこともできるのだ。

少し視点を変えただけで、どんなものも美しく変えることもできる、とトリュフォーは言いたいのだろうか。美しい、とはどういう意味なのか、よくわからないけれど、恋の達人のトリュフォーなので、もしかしたらやはり恋心を表しているのかもしれない。

愛というのは、たかだか三年か四年で破壊して、崩れ落ちてしまうものでもないはずだけど、やはりどうかするといろいろな試練の中で、厳しい状況に陥ってしまうこともあるものだ。それでもふと何かの折に心をこめたことばをかけてみたり、思いがけない贈り物をしたりして、相手の気持ちに寄り添ってみると、自然と絡み合っていた糸がほどけることもあるかもしれない。そんなことも言いたいのかもしれない。

実はうちの鉢植えの白つつじが、私の手入れがよくなかったのか、すっかり枯れてしまっていたので、捨てようと思って外に出していた。ごみに出そうとしていたある朝、なんとよくみると小さな芽が出ているのに気づいた。ふたつも三つも出ている。うっかり捨てるところだったが、慌てて精魂込めて水をやり大切にしていたところ、翌年には立派な花を咲かせてくれた。白い花に詫びたものだ。

いまではすっかり見慣れた、萎れた花でも、よくみると一生懸命に芽を出していることもあると思う。捨てる前にもういちど見直すことが必要かもしれない。そうしたことを、マエストロ・トリュフォーは教えてくれる。

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フランソワ・トリュフォー1932年、パリ生まれ。両親の離婚から孤独な少年時代を送り非行に走るが、15歳の時、後の映画評論誌「カイエ・デュ・シネマ」の初代編集長となるアンドレ・バザンに見出され、以降バザンの死去まで親子同然の関係を送る。20歳の時に映画評論を始め、54年に短編映画監督としてデビュー。『大人は判ってくれない』(59年)で長編デビューと共にカンヌ国際映画祭監督賞を受賞。ジャン=リュック・ゴダール、エリック・ロメールらとともにフランス映画ヌーヴェルヴァーグの担い手として活躍。25本の監督作品を残し、1984年に脳腫瘍で逝去。photography:Raymond Depardon/Magnum Photos/Aflo

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