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春の庭をモダンに演出するブラックチューリップ

  • 2024.3.16

数ある春咲き球根花の中でも色彩や形状が豊かなチューリップ。春と言えばパステルカラーが人気ですが、「ここ数年、わが家の庭は、シックなブラックチューリップが定番です」と話すのは、神奈川県で小さな庭づくりを楽しむ前田満見さん。今回は、地植えと鉢植えで楽しむブラックチューリップの魅力を前田さんに教えていただきます。

ブラックチューリップの魅力

ブラックチューリップ

庭に植えているブラックチューリップの品種は、一重咲きの‘クイーン・オブ・ナイト’と ‘カフェ・ノアール’、そして八重咲きの‘ブラックヒーロー’。

黒に一番近い‘クイーン・オブ・ナイト’は、整った花形にベルベットのような華やかな艶感が目を引く、まさに女王の名に相応しい気品があります。‘カフェ・ノアール’は、やや赤紫色のふっくらとした花形で優しげな雰囲気。‘ブラックヒーロー’は、コロンとした愛らしいつぼみと八重咲きの華やかさがあります。これらの品種のどれかを、毎秋、球根から植えています。

チューリップの芽

芽出しは、冬の名残の2月中旬〜下旬。ちょうど早春の訪れを告げるスノードロップやバイカオウレンが満開の頃です。地面からツンと尖った新芽が一斉に顔を覗かせ、外の様子をうかがっているよう。植え付けから約3カ月、この時をどれほど心待ちにしていたことでしょう。こんな微笑ましい姿を目にする度に、愛おしくてたまらなくなります。

そして、春分を迎える頃には、暖かな春の陽射しにゆったりと葉を広げ中から小さなつぼみも。ここまでくるとひと安心です。

春の庭

それから約2週間後、つぼみがあっという間に膨らんで、いよいよ待ちに待った開花を迎えます。す〜っと伸びた花茎の先にふんわりと重なる艶やかな黒い花弁、波打つ青灰色の葉の何と品のよいこと。「クールビューティー」、この言葉にピッタリの花姿です。しかも、この青灰色の葉は、他にはないブラックチューリップ特有の色。見れば見るほど葉の美しさに魅了されます。

ブラックチューリップ

そう、ブラックチューリップの魅力は、花と葉の色彩のハーモニー。可愛らしさや華やかさだけではない、チューリップの秘めた一面が堪能できます。

群生美が冴える地植え

ブラックチューリップ

1輪だけだと何となく地味に見えてしまうブラックチューリップですが、地植えで群生させるとその魅力が更に引き立ちます。

植栽スペースに余裕があれば30球以上球根を植えたいところですが、実際に庭に植えるのは20球ほど。それでも、20輪が一斉に咲き揃う様は、麗しく風格さえ感じます。そのうえ、春の陽光に花弁を閉じたり開いたり、まるでダンスをしているかのよう。メンデルスゾーンの「春の歌」が聞こえてきそうな優雅な群生美にうっとりします。

チューリップ

また、色違いのチューリップを混植すると、思いがけないカラーハーモニーを楽しめます。

例えば、渋い橙色の‘ブラウンシュガー’や赤紫色の‘シャイニーブルー’。かの有名なオランダの画家レンブラントに由来するレンブラント咲きの‘レムズフェイバリット’や‘ハッピーフィート’、‘プリティープリンセス’などです。

チューリップ

中でも、独特の縞模様(絞り模様)のレンブラント咲きのチューリップを混植すると、ぐっと深みのある色合いに。まさに、17世紀の古い絵画を彷彿とさせてくれます。庭でちょっとした絵画鑑賞に浸れるなんて、何とも贅沢です。

絞り模様のチューリップ

ちょっと余談になりますが、調べてみたところ、レンブラント咲きの縞模様は、もともとは「モザイクウイルス」という細菌によるものだったとか。17世紀にはその原因が分からず、他のチューリップより短命だったそうです。もしかしたら、当時の画家たちは、その希少性や神秘性に魅せられていたのかもしれませんね。現在は、交配によって品種改良が進み健康な品種が続々と出回っていますが、どれもちょっとゾワっとするような縞模様。確かに、どこかミステリアスな魅力を感じます。

和モダンなジャーマンアイリスとの競演

ブラックチューリップ

遅咲きのブラックチューリップは、初夏に咲くジャーマンアイリスとの競演も愉しみの一つです。

一番古株の青紫色のジャーマンアイリスは、早咲きなのでタイミングもバッチリ! 黒色&青紫色のシックな色合いと、凛とした佇まいが大好きです。また、ジャーマンアイリスの葉の色も、ブラックチューリップと同じ青灰色。シャープな葉と波打つ葉の対比も見応えがあり、花の美しさを際立たせています。更に、隙間を埋める多年草の新芽との緑のグラデーションも瑞々しく、目に潤いを与えてくれます。

ブラックチューリップとジャーマンアイリス

それに、どちらも洋花ですが、何処となく落ち着いた和の風情を感じるのはわたしだけでしょうか。ひと言で言えば、「和モダン」。ブラックチューリップとジャーマンアイリスが醸し出すそんな風情が、20年という長い年月を重ねたわが家の庭と今の暮らしに程よく馴染みます。

ビオラと寄せ植え

ブラックチューリップ

毎年、秋に仕込むチューリップとビオラの寄せ植えは、3月下旬から4月中旬が花盛り。ひと鉢ずつ色合いを変えているので、咲き揃うとそれは華やかです。寄せ植えには、一重咲きの‘ブラックヒーロー’やアプリコット色の‘ラ・ベルエポック’など八重咲きの品種も。八重咲きは、重厚感があるので、地植えよりもコンパクトにまとまる鉢植えが気に入っています。少ない数でも見栄えがよく、満開時にはシャクヤクやボタンの花と見紛うほど。株元のビオラも溢れんばかりに咲き誇り花束のようです。

ブラックチューリップの庭

さらに、鉢植えのよいところは、簡単に移動できるところ。時々、寄せ植え鉢のレイアウトを変えて、芽吹きの美しい春ならではの景色を楽しみます。

さあ、いよいよ待ちに待った3月。今年の春は、チューリップと草花がどんなカラーハーモニーを奏でてくれるでしょうか。今からワクワクしています。

ブラックチューリップ
Credit
写真&文 / 前田満見

まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。

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