1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 「引っ越し業者」が物を破損 “補償”されるケース&されないケースは?弁護士に聞いてみた

「引っ越し業者」が物を破損 “補償”されるケース&されないケースは?弁護士に聞いてみた

  • 2024.3.15
引っ越し業者が物を壊しても補償されないケースがある?
引っ越し業者が物を壊しても補償されないケースがある?

春は転勤や進学などの理由で多くの人が引っ越しをします。その際、引っ越し業者に家具や家電などの運搬を依頼するのが一般的ですが、中には、引っ越し終了後に「物の破損、紛失」「新居の壁に傷がついていた」などのケースが確認されることがあるようです。

実際に、SNS上では「業者に家具を粉砕された」「物を紛失された」「引っ越し業者に新居の壁を傷つけられた」という内容の声のほか、「テレビの液晶を傷つけられた上に補償もしてもらえなかった」という声も上がっています。

引っ越し業者の不手際により物の破損や紛失が生じたり、新居の壁が傷ついたりするなどのケースがあった場合でも補償を受けられないケースがあるのは、本当なのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

業者が定める「責任限度額」に要注意

Q.そもそも、引っ越し業者に荷物の運搬を依頼する際は、どのような取引条項が適用されるのでしょうか。

牧野さん「荷主(顧客)と運送人(引っ越し業者)との間で『特約』がない限りは、国土交通大臣が定めて公示している『標準運送約款』の条件に従うことになります。

標準運送約款とは、荷主と運送人との間で運送取引の契約条件を定めたものであり、多数の荷主との間での法律関係を画一的、迅速に処理することを目的とするものです。貨物自動車運送事業法10条1項では、『一般貨物自動車運送事業者は、運送約款を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない』と定められています。

標準運送約款には、引っ越しに関する『標準引越運送約款』や、一般貨物自動車運送事業に関する『標準貨物自動車運送約款』など、サービス別に複数の標準約款が定められ、公示されています。

国土交通大臣の認可を受ければ、各運送事業者が独自に運送約款を設計することも可能ですが、標準運送約款であれば国土交通大臣の認可が不要なため、多くの運送事業者はこれらの標準運送約款を利用しています」

Q.引っ越し業者の不手際により物の破損や紛失が生じたり、新居の壁が傷ついたりするなどの不利益なケースが発生した場合、業者側に補償を求めることは可能なのでしょうか。また、補償が認められないケースはあるのでしょうか。

牧野さん「引っ越し業者が運搬を担当した物の破損や紛失については、標準運送約款の規定に従って業者側に補償を求めることは、原則として可能です。

例えば、標準引越運送約款22条(責任と挙証等)では、引っ越し業者は、原則として『荷物の受け取り(荷造りを含む)から引き渡し(開梱(かいこん)を含む)までの間にその荷物その他のものが滅失しもしくは損傷し、もしくはその滅失もしくは損傷の原因が生じ、または荷物が遅延したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負います』と定められています。

引っ越し業者の方でも、こうした賠償金の支払いに備えて、『運送業者貨物賠償責任保険』に加入しています。ただし、次のようなケースでは、引っ越し業者は責任を負わないため、補償が認められません」

(1)引っ越し業者が定める「責任限度額」を超える損害が出た場合例えば、ある引っ越し業者は、荷物1個につき30万円の責任限度額を定めています。そのため、30万円以上の価格の荷物に損傷や紛失などの損害が生じた場合は補償が認められません。

(2)引っ越し業者に不注意がなかったと認められた場合先述の標準引越運送約款22条では、例外として「自己または使用人その他運送のために使用した者が、荷物の荷造り、開梱、受け取り、引き渡し、保管および運送について注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りではありません」と定められています。そのため、引っ越し業者に不注意がなかったと認められた場合、例外的に責任を負わないとされています。

(3)予見できない交通障害や天災などが原因で荷物が損傷、滅失した場合標準引越運送約款23条では、「荷物の欠陥、自然の消耗」「予見できない異常な交通障害」「天災(地震や津波、洪水、暴風雨など)」など、不可抗力によって荷物の損傷や滅失が発生した場合、業者は損害賠償の責任を負わないと定められています。

(4)荷物の引き渡し日から数えて3カ月以内に業者に連絡をしなかった場合標準引越運送約款25条1項では、荷物の損傷や滅失があったときに、荷物の引き渡し日から数えて3カ月以内に依頼者から通知がなかった場合、業者の責任が消滅すると定められています。

このほか、標準貨物自動車運送約款45条(高価品に対する特則)では、荷送人が運送人に高価品の運搬を依頼する際に、その品の種類および価額を明告しなかった場合、運送人は損害賠償の責任を負わないと定められています。宝飾品や現金などの貴重品は、申告すれば損害賠償責任の対象になりますが、手持ちが可能な物であれば、基本的には預けずに自ら管理すべきでしょう。

Q.補償の対象となるケースであるにもかかわらず、引っ越し業者がなかなか応じない場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

牧野さん「例えば、雨天にも耐えられるだけの適切な梱包(こんぽう)を施さなかったため、荷物がぬれて価値が損なわれた場合など、不可抗力などによる除外事由がなく、引っ越し業者側に不注意があった場合であれば、具体的な事実を指摘して賠償を求めるべきだと思います」

トラブルを防ぐには?

Q.引っ越し業者とのトラブルを防ぐための対策について、教えてください。

牧野さん「トラブルを未然に防ぎたい場合は、引っ越し前に運搬を依頼する荷物をスマホやカメラで撮影し、画像として記録を残しておくことをお勧めします。そして、実際に引っ越し後に荷物の破損が確認された場合は破損箇所を撮影し、運搬前の荷物の画像とともに業者に証拠として提出するとよいでしょう。

先述のように、引っ越し業者に補償を求めるためには、荷物の引き渡し日から数えて3カ月以内に申告する必要があります。また、引っ越し業者が定める責任限度額を超える場合や引っ越し業者に過失がなかった場合、不可抗力など除外事由の場合には、補償を求めることができません。こうした補償を求めることができない場合に備えて、『引越荷物運送保険』に加入することをお勧めします。

引越荷物運送保険は、引っ越し業者のプランに付帯されていることが多く、加入は任意です。保険商品によりますが、1000円から2000円の保険料を払って加入します。引っ越し業者の見積書に含まれていることが多いため、引越荷物運送保険の補償額や保険料を確認し、不要な場合は除いてもらうように業者に伝えましょう」

オトナンサー編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる