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人類が「衣服」を発明したのはいつなのか?答えの鍵は「シラミの進化史」?

  • 2024.3.13
人類はいつから「衣服」を着始めたのか?答えの鍵を握るのは「シラミ」
人類はいつから「衣服」を着始めたのか?答えの鍵を握るのは「シラミ」 / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

人類は他の猿の仲間から派生し、地上での生活を送る中で、徐々に「体毛」を失ってきました。

体毛を失くしたことで、人類は自然の厳しさにモロに晒されるようになりましたが、代わりに発明したのが「衣服」です。

衣服を利用するようになったことで、人類は幅広い気候に対応できるようになり、地球のさまざまな地域で生活できるようになりました。

また衣服は防寒だけでなく、体表面を守る防護の役割も果たしました。

このことから衣服の発明は人類にとって非常に重要な転換点だったと言えるでしょう。

では人類が衣服を使うことに気づいたのは、いつ頃なのでしょうか?

目次

  • 人体に寄生する「シラミ」を追え!
  • 人類が衣服を着始めたのは17万年前?

人体に寄生する「シラミ」を追え!

シラミの進化を追えば衣服の始まりがわかる?
シラミの進化を追えば衣服の始まりがわかる? / Credit: canva

衣服の始まりを知るのは、実はとても難しい問題です。

というのも石や骨などの硬い素材で作られた人工物とは違い、動物の毛皮や布などの柔らかい素材を使った衣服は土中ですぐに分解されて、長い時間を生き残ることが難しいからです。

つまり、原始人が実際に着ていた衣服を調べることはできません。

そこで人類が衣服を着始めた時期を知るには、クリエイティヴな問いの立て方をする必要があります。

そうして研究者たちが注目したのが「シラミ」でした。

シラミは動物の体に寄生する非常に小さな虫ですが、彼らの生態は驚くほど生息場所の環境に特化しています。

例えば、人に寄生するシラミは人にだけ、牛に寄生するシラミは牛にだけ寄生します。

人の頭に寄生する「アタマジラミ」の拡大写真
人の頭に寄生する「アタマジラミ」の拡大写真 / Credit: ja.wikipedia

それだけでなく、同じ人体の中でも頭に寄生するのは「アタマジラミ」で、陰部に寄生するのは「ケジラミ」と種が細かく分かれているのです。

そしてシラミの中には、衣服の中を主な生息地とする「コロモジラミ」という種がいます。

これを受けて米フロリダ大学(University of Florida)の生物学者であるデヴィッド・リード(David Reed)氏は、面白い問いを立てました。

ずばり、「他のシラミ集団からコロモジラミが進化した時期を特定すれば、人類が衣服を着始めた時期を間接的に解明できるのではないか」と。

リード氏は「コロモジラミは衣服に特化した種なので、人類が衣服を発明するまでは確実にコロモジラミは存在していませんでした」と話しています。

そこでリード氏らは、コロモジラミが出現した時期の特定を行いました。

人類が衣服を着始めたのは17万年前?

リード氏ら研究チームはDNAシークエンシングを用いて、シラミの塩基配列を決定することで、アタマジラミからコロモジラミが遺伝的に分化した時期を測定しました。

その結果、コロモジラミが出現したのは今から約17万年前であることが判明したのです。

リード氏いわく、これは地球の気候が寒冷化し始めた時期と一致しており、人類が衣服を身にまとい始めたのは理にかなっているといいます。

また現生人類(ホモ・サピエンス)が出現したのは約20〜30万年前ですから、衣服を発明したのは私たちの直接のご先祖だった可能性があります。

コロモジラミの拡大写真
コロモジラミの拡大写真 / Credit: en.wikipedia

その一方で、ヒト族は約120万年前には体毛を大幅に失っていたことが分かっています。

そうなると人類はかなり長い期間、ほぼ素っ裸で暮らしてきたことになります。この間、問題は生じなかったのでしょうか?

この疑問点については、人類がずっと留まってきたアフリカが、暑くて温暖な気候であったため衣服の必要性が生まれなかった可能性が考えられます。

その後、私たちの祖先は約6〜10万年前に故郷のアフリカを出て、現在のヨーロッパやロシアを含む高緯度の寒冷な地域へと移住して行きました。

こうした寒い地域への北上は、人類が衣服を発明していたからこそ可能になった偉業だったのでしょう。

衣類の発明後に人類はアフリカを出始めた
衣類の発明後に人類はアフリカを出始めた / Credit: canva

当時の人類が着ていた衣服の現物は確認されていませんが、おそらく、最初のうちは石器を使って剥いだ動物の毛皮をまとっていたと推測されています。

そうして人類が動物の毛皮を着続ける中で、ヒトに寄生するシラミから新たにコロモジラミが進化したという流れがあるようです。

こうしたシラミの進化史にもとづく研究は、衣類の起源について有力な手がかりを提供してくれますが、しかしこれはあくまでも間接的な証拠に過ぎません。

考古学的な発掘調査や、シラミのように、衣服を作るための道具を間接的に調べる研究も含めて、人類の衣服の歴史を解明する試みは今後も続けられるでしょう。

参考文献

When did humans start wearing clothes?
https://www.livescience.com/archaeology/when-did-humans-start-wearing-clothes

Humans first wore clothing 170,000 years ago
https://www.nbcnews.com/id/wbna40965564

UF study of lice DNA shows humans first wore clothes 170,000 years ago
https://news.ufl.edu/archive/2011/01/uf-study-of-lice-dna-shows-humans-first-wore-clothes-170000-years-ago.html

元論文

Origin of Clothing Lice Indicates Early Clothing Use by Anatomically Modern Humans in Africa
https://doi.org/10.1093/molbev/msq234

(2010)

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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