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生かす努力をしなければ才能はなくなってしまう。映画『四月になれば彼女は』長澤まさみインタビュー

  • 2024.3.13
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MASAMI NAGASAWA【長澤まさみ的。】後編

今月の表紙は長澤まさみさん。作品や役柄を背負わず、メゾンの最新ルックを纏うでもない。ただ自分らしくありたいと望む、既視感のない長澤まさみと出会った。「愛を注ぎ、楽しみながら仕事と向き合いたい」、澄み切った意志に導かれて。
 

「四月になれば彼女は」 2024年3月22日(金)全国東宝系にて公開

©2024「四月になれば彼女は」製作委員会

感情って、衝動的で刹那的なもの

長澤さんがヒロインのひとりを務める映画『四月になれば彼女は』は、数々の映画の企画・プロデュースを手がけてきた川村元気さんの同名小説を実写化。振り返ると、これまでに映画『ラフ ROUGH』『そのときは彼によろしく』『モテキ』『君の名は。』『百花』など、長澤さんは多くの作品を共にしてきた。
 
「川村さんからお話をいただくと、絶対やらなきゃいけないみたいな雰囲気ができあがってるんですよね、自分の中で(笑)。唯一といっていいほど、長い間、定期的に一緒にお仕事をしている珍しいプロデューサーさんでもあって、信頼が厚い。オファーをいただいたときも、山田(智和)監督に素敵な手紙を書いてもらったりして、まさに映画みたいなことを現実でするので、なんかもうずるいんです(笑)。ちゃんとほだされてしまって出演を決めたものの、川村さんの描く世界なのでちょっと特殊といいますか、ストーリーを理解するのが正直なところ難しかったです。

弥生という結婚間近の女性を演じたんですが、客観的に彼女の性格や行動を見つめてみると、ちょっと怖い行動があったりして。描き方によってはドロドロのメロドラマになり得るような展開もありながら、そこが純愛として美しく描かれるのが川村さんのすごいところ。それでいて登場人物たちがそれぞれに抱えている不器用さはリアルに描かれているので、美しいけれど生々しさもあり、人の心に刺さるのだと思います。実際の恋愛って、ぎこちなくて、不慣れだったりする。それに、自分の心に素直に誠実にいられていると思いきや、次の瞬間には気持ちが冷めてしまったりもする。人の感情は一瞬一瞬で変わっていく刹那的なものであり、衝動的なものでもあって、誰だって感情の揺れに振り回される。そんな人間の本質的な部分が詰め込まれています。私が演じた弥生は、普通、人には言わない胸の内を伝えてしまう正直な人。それが彼女の人間味にも繋がっている気がします」

注目してもらいたいのは、佐藤健さんと森七菜さんのシーン。「本当に、素晴らしかったんです」、そうしみじみと続ける。
 
「佐藤さん演じる藤代と、森さん演じる春は、映画の時間軸だと10年前に恋人同士だった関係。2人の恋愛の描写が、すごく自然体で懐かしくて、あまりにもリアルに感じて、羨ましささえ込み上げてきました。私が2人のシーンを見て芽生えた気持ちと、弥生の気持ちがリンクする部分もあって、現在と過去とでは恋愛に向かうエネルギーもすっかり変わっていて、なんだか羨ましくて仕方なかったのかもしれない。

森さんのお芝居からは、観客を引っ張って、物語に溶け込ませる魅力を感じました。共演してみて、すごく真摯に取り組んでいるのが伝わるし、お芝居がかっこいいんですよね。彼女は『ちょっとカメラの前にいて』って言われたら、たぶんずっとそこにいられる人だと思う。カットがかかるまでちゃんとそこにいられるというのは、本当に難しいことなんです。森さんは、カメラをまるで空気のようにしてしまう。共演シーンでも、森さんと2人だったから生まれた空気感がとても愛おしくて、すごく感謝しています」

一方で佐藤さんについては、〝エンターテイナー〟と表現した。その心は?
 
「本人にも言ってますが、本当にかっこよくって、中身もキザなところがあって(笑)、昔は少し付き合いにくいところもあったんです。今では、すっかり作品作りに熱心な青年になって(笑)、プロデューサーのような視点も持っている人。サービス精神が旺盛で、作品を観てくださる人たちにサプライズを届けようと使命感を持って仕事に向き合っている印象があります。年下なんですけど、会うと彼なりのユーモアで『最近、いい仕事してるじゃん』といつも上から褒めてくるので、『ありがとうございます!』と(笑)。気がつけばすっかり仲よくなりました」

生かす努力を怠れば、才能はなくなる

役者としてのキャリアはもうすぐ四半世紀になる。けれど、いつでも「私よりすごい人なんてたくさんいますから」と、自分への賛辞や評価の言葉からはそーっと距離を置く。
 
「何か賞をいただいても、授賞式が終われば、次の日からまた代わり映えのない生活が始まります。朝早く起きて、現場に入ってお芝居をする。特に同業者のみなさんのまなざしはシビアですから、夢のような時間というのは本当にあっという間に過ぎていく。だから、やりがいという意味でずっと心を温めてくれるのは、作品を観てくれた人たちの声。いつまでも自分を幸せな気持ちにさせてくれる唯一の産物というかご褒美というか。同じ作品でも、映画館で観る方もいれば、テレビやサブスクで観たりと、タイミングはそれぞれなので時差があったとしてもすごく嬉しいものです。ときに辛辣な言葉をもらうこともあるけれど、それにいちいち傷ついていたらね、先に進めないですから。考え方を変えて気にせず次のことに向き合う。別に全てが上手くいかなくても、一度の失敗は一生の失敗じゃない。チャレンジした上ならば失敗は失敗で終わらない。結果に自分が満足できなかっただけの話だと思うから、誰よりも自分自身がその痛みを分かっていられる自分であればいい。その痛みがまた新しい自分を作ってくれる材料になる。そう思えなかったら、この仕事を続けられなかったと思うし、改めて厳しい世界だなと痛感するんです」

ジャケット¥352,000(アワー レガシー/エドストローム オフィス)、ブラウス¥44,000、スカート¥52,800(共にトゥモローランド ビー/トゥモローランド 渋谷本店)、イヤーカフ¥33,000(ヘレディタス)、スネークチェーンネックレス [2本セット] ¥16,500、チェーンネックレス¥16, 500、リング各¥29,800(全てアフェクト)

才能だけでも、長年のキャリアや培った経験則でも戦えない。「もし、それができたとしても、やっぱりそれじゃつまらない」と長澤さん。
 
「誰しも何かしら才能を持っているはずなんですけど、才能があってもそれを生かす努力をしなければ才能はなくなってしまうと思います。才能をうまく自分で育てることができなければ、どんなに素晴らしいものでも誰の心にも誰の目にも届かないものになってしまうから。私は怠らずに向き合っていきたいですね。惰性ではいられません。私、そんなに器用じゃない上に、けっこう物事をシビアに見てしまう性格だから、う〜んと悩んだり、あーって落ち込んで、自己嫌悪に陥ることもいっぱいあります。反省することは大事ですけど、とはいえ後悔しても仕方がないし、背負い過ぎなくていい。今回の映画の内容とも重なるんですが、人生において過去に折り合いをつけて、次に切り替えることって悪いことじゃない。生きづらい世の中だけど、少しずつ少しずつ自分のペースで、自分にとって大切なものを見極めていく。そこに愚直に向き合うこと、それこそが人生の意味でもある。適当に生きれば、適当に生きられちゃうけれど、『それで楽しいですか?』と問いかけられているような気がします。特に、人間関係においては、相当フィーリングが合うとか奇跡が起きない限り、やっぱり近道はできないんですよね。信頼関係を築くという点でも、時間は必要で、サボっちゃうとサボっただけのものしか手に入らない」

デニムジャケット¥27,500、デニムパンツ¥24,200、ベルト¥77,500(全てカルバン・クライン/カルバン・クライン カスタマーサービス)、コート¥66,000(バッカ/ビー エディション ニュウマン新宿店)、バッグ¥24, 090(トゥティエ)、シューズ¥49,500(シンヤコヅカ/ザ ウォール ショールーム)、眼鏡¥36,300(ジェントルモンスター/エム)、ネックレス¥22,000(アフェクト)、ソックス¥3,960(MOON TREE PLANET)

目の前に広がる景色が見慣れたものにならないのは、美しいメンタルとタフな覚悟によるものだろう。長澤さんは、「そんなことないですよ」ときっと苦笑いするだろうけど。
 
「周りにいる人たちがみんなそうやって生きているから、私も恥ずかしくないように、と自身を律することができている。気がつけば長いことこの世界にいて、上の人を見ればすごいなぁと尊敬できるし、下のコたちを見て、なるほどなぁと新しい刺激をもらえる。中間の立場にいると、両方の世代のよさや魅力に気づけるし、協調性を持って歩み寄れたらいいなと思います。そもそも監督さんや脚本家さんにしろ、共演者の方たちにしても、一緒に仕事をしたい憧れの存在がまだまだたくさんいらっしゃる。映画体験は非現実に没入したり、夢を見せてくれたり、ときには自分の価値観でさえ変わることもある。役者は与えられた役を演じることが仕事で、自分があるようでない独特な仕事ですけれど、愛すべきこの世界にい続けられたら幸せです」

【ATTENTION!】
野波麻帆さんのインタビューをオトナミューズ公式ウェブにて公開中。本企画に対する想いや、コーディネートのポイントなどを語ってくださいました。ビハインドザシーンのムービーも必見。ぜひ「otonamuse.jp」をチェックしてみてくださいね!

profile_ながさわ・まさみ/1987年6月3日生まれ。静岡県出身。出演作に、映画『コンフィデンスマンJP』シリーズ、『シン・ウルトラマン』『ロストケア』、ドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』など。2月29日よりNetflix映画『パレード』が世界独占配信スタート。3月22日には映画『四月になれば彼女は』、9月13日からは主演映画『スオミの話をしよう』が公開予定。

photo:SHUNYA ARAI[YARD] styling:MAHO NONAMI hair:RYOJI INAGAKI[maroonbrand] make-up:KOTOE SAITO styling cooperation:RANKO ISHIBASHI model:MASAMI NAGASAWA interview & text:HAZUKI NAGAMINE

otona MUSE 2024年4月号より

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