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子どもが「ママ」の次に「おまえ」を覚えてしまった! 私が夫の「おまえ」呼びをやめさせるまで

  • 2024.3.9
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男社会で育った夫とは高校の先輩後輩の関係だった。結婚してからも夫が先輩風を吹かすのは当たり前で、いつも命令口調だった。たまりかねて抗議したところ「おまえ」と呼ぶのはやめるようになり、さらに言葉遣いも少し丁寧になった。
男社会で育った夫とは高校の先輩後輩の関係だった。結婚してからも夫が先輩風を吹かすのは当たり前で、いつも命令口調だった。たまりかねて抗議したところ「おまえ」と呼ぶのはやめるようになり、さらに言葉遣いも少し丁寧になった。

夫に「おまえ」と言われることをよしとする女性、よしとしない女性、さまざまいるかもしれない。だが嫌であればやめてもらうほうが精神衛生上、いいに決まっている。

相手に何かを「強要」するのは果たしてどうかと思いながらも、奮闘の末、夫の意識を変えた女性がいる。もちろん、夫が自ら意識を変えるのが一番いいが、そうでない場合、妻としてどこまでやるべきかは個人差がある。

高校時代の先輩後輩だった夫と私

「夫は高校時代のバレー部の先輩でした。女子と男子は分かれていましたが、それでも合宿などは同じ日程だったし、練習でも協力しあうことが多々あったので、部員同士は仲がよかったんです」

イサコさん(40歳)はそう言う。1つ年上の先輩だった彼は、イサコさんを目にかけてくれた。彼女は彼に片思いをしていたという。

「かっこよかったんです。でも当時、同じ学年のバスケ部の先輩と付き合っているという噂があったし、私なんか入り込む隙はなかった。ただ、2年後、彼が進学した大学に私も合格したんです」

先輩を追ったわけではなかったが、合格した私立大学が2つだったので選択したら、彼と同じ大学になったのだ。

「入学してすぐキャンパスを歩いていたら、先輩に声をかけられて。いつか会えるかなと思っていたのでうれしかった。

『おまえ、バレーボール同好会に入れ』と“命令”されました。そのまま部室に連れていかれて先輩たちに紹介されて。バレーボールの練習もしたけど、遊園地に行ったりドライブに行ったりという遊びも盛んでした」

戦略的に彼との交際にこぎつける

彼とは付き合うこともなく卒業、それぞれに就職した。それでも彼との連絡はとぎれず、同好会の飲み会はときどき行われていた。

そしてあるとき、彼が「フラれた」と落ち込んでいるのを機にイサコさんは「弱った彼の絶対的な味方になって口説き落とす」という作戦を続け、ついに交際にもちこんだ。

「それでもずいぶんひどい扱いも受けましたよ。彼が浮気していたであろう時期もあった。私がいちばんだよねと言いたいのも抑えて、ひたすら彼を受け入れる女に徹しました。

彼が30歳になったとき、『いつでもオレのそばにいてくれたのは、結局はイサコだったんだよな。今までごめん』とプロポーズ。そのときはうれしかったんですが……」

大好きな彼を射止めたのだから、不満はない……はずだった。

夫婦の関係性がおかしい

人との関係性は固定化しやすい。若いころに出会った大先輩は、たとえ社会的地位が逆転したとしても、あちらから見ればいつまでたっても「後輩」に過ぎない。

それがいいときもあるが、先輩後輩の関係を夫婦にあてはめられるのはイサコさんにはつらかった。

「夫の性格もあるんでしょうけど、他人にいろいろ言われるのが嫌なタイプ。言ってみれば協調性がない。しかも私にはいつまでたっても先輩風を吹かせる。

私が妊娠してつわりでひどい目に合っているときも、『気合いが足りないんだよ、おまえは』といった調子。昭和かっていう感じですよ(笑)。ちゃんと勉強して理屈で考えてよと言いました。

そうしたら『先輩に向かって敬意が足りない』ときた。本人は冗談のつもりなんでしょうけど、だんだんうっとうしくなっていきました」

子どもができてからも、「おい」「おまえ」は変わらない。人前でも妻を「おーい」と呼び、「返事くらいしろよ、おまえは」と体育会系のノリなのだ。

「子どもが生まれて新居を購入、越した先で仲良くなったご夫婦が遊びに来たときも、私がちょっとお茶を出すのが遅くなっただけで、『ったく、こいつはやることがとろいんですよ』と言い訳しつつ、『ちゃんと準備してなかったのか、おまえは』って。

子どもがぐずってお茶の用意ができなかったんです。わかっているならやってくれればいいのだけど、夫は家のことはほとんどしない。共働きなのに。夫の発言を聞いて、友人夫婦の妻のほうはギョッとした顔をしていました」

「こいつ」「おまえ」呼びが子に伝染

その後も似たようなことが続き、しゃべれるようになった子どもが「ママ」の次に言ったのが「おまえ」だった。それを聞いたとき、イサコさんはこのままではいけないと痛感したという。

「夫に、私をおまえというのはやめてほしいと言いました。本当は学生時代から嫌だった。見下されている感じがするし、そもそもあなたの言葉遣いは私に敬意を払っているとは思えないと、いつになく強気に出ました」

夫は「お」という感じで妻を見つめていたが、「敬意? 必要?」と暴言を吐いた。「どんな相手に対しても最低限の敬意は必要でしょ。私はあなたの子を産んだ女なんですけど」と冷たく言葉を投げつけた。

「私はあなたのモノじゃない。子どもも私たちのモノじゃない。みんなひとりの人間なんだよ。あなたは知らないかもしれないけど、私は親にも『おまえ』と言われたことはない。うちの母は、私があなたにおまえと言われているのが悲しいって前に言ってた」

すると夫は「うちじゃ、オヤジはおふくろにも子どもにも“おまえ”だったからなあ」と言いながらも、しばらく考え込んでからぽつりと言った。

「会社でも、もう後輩や新人くんをおまえとは言えないんだよ。オレは特別な親しみをこめて言ってたつもりだった」

夫が「おまえ」呼びをしなくなった結果

それが8年前のこと。それ以来、夫は「おまえ」とは言わなくなった。だからといって、夫の言動がすべてきちんと「敬意」に裏付けられているかといえばそんなことはない。

「ただ、おまえと言わなくなったから、その後に続く言葉が前ほど乱暴ではなくなりました。夫自身、会社でセクハラやパワハラの講習を受けさせられているから、少しは気にしているみたいです。

ただ、自ら意識を変えるのはむずかしいんでしょうね。私は、想像を働かせればいいんだよと言っていますが、3人兄弟の真ん中で、お父さんに柔道を習っていたという、男社会にどっぷり浸って育った夫からすると、意識の変え方自体がわからないのかもしれない」

最初は夫を変えることしか考えていなかったイサコさんだが、その後、パートナーの生育歴など背景も考慮、少しだけ「ゆるい目で見よう」と思えるようになった。

「夫は最近、子どもの前では“ママ”と言いますが、ふたりだけだと“イサコちゃん”と言うんです。そのうち、子どもの前でもイサコちゃんと呼ばせようと思っています」

たかが呼び方、されど呼び方なのではないだろうか。

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。

文:亀山 早苗(フリーライター)

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