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世界からお届け!SDGs通信 トロント編。地球の1/5の地表水を有するオンタリオ州の水源保護策

  • 2024.3.6
世界からお届け!SDGs通信トロント編。地球の1/5の淡水を有するオンタリオ州の水源保護策

悲劇を繰り返さないために厳格管理!水質維持にアメリカとも協定を締結

2000年5月に起きた「ウォーカートンの悲劇」。トロント市内から北西に車で2時間ほど離れたオンタリオ州ウォーカートンという町で、7人の死者と2,300人以上の重症者を出した水質汚染事故だ。このような悲劇を二度と起こさぬよう、州は各自治体と結束し水質改善に努めてきた。2006年に浄水法が制定され、水源の保護、処理、検査、分配など、各項目でマルチバリア的に厳しく管理される。管理の徹底により事件から23年が経過した現在も良好な水質状態を維持し、水道水も安心して飲用できる。

安全な水を供給するために最も大切なことは、水源を美しく保つことだ。オンタリオ州には25万以上の湖があり、世界の地表水(地球上で飲料などに使用可能な淡水)の1/5がこの地に集結している。水源が多いため一括した水質管理は難しく、各自治体や住民が水質管理意識を持つことが重要。水源近くを飲料水保護区域に定め、州内に800個以上の保護標識を掲げる。そこでは農薬、殺虫剤、洗浄力の強い洗剤などの使用を制限し、家庭用灯油や家畜の糞尿の管理徹底を呼びかける。

隣接するアメリカとの協力も必須だ。カナダとアメリカに接する五大湖(スペリオル湖、ミシガン湖、ヒューロン湖、エリー湖、オンタリオ湖)の水質悪化が懸念され、1987年に両国間で五大湖水質協定が締結された。生態系、魚の風味、プランクトンや藻類、飲料水の味の変化など全14の基準において懸念地域を調査し水質改善を促す。2023年現在、締結時に定められたカナダの17の懸念地域のうち3つが元の美しい湖に復元されたが、残る地域の改善にも努めている。

浄水技術の向上は人類の誇るべき叡智である一方、水源自体の美しさを求めるオンタリオ州の試みは、人類にも環境にもメリットがある最も重要なソリューションである。

セントローレンス川
セントローレンス川は1987年の五大湖水質協定で懸念地域となった。現在は当時に比べ魚や野生動物の風味や、景観が改善された。
トロントのR.C.ハリス浄水場
「浄水の宮殿」ことトロントのR.C.ハリス浄水場。オンタリオ湖から安全な水を供給すると同時に、アール・デコ様式で作られた貴重な文化遺産でもある。
R.C.ハリス浄水場の水飲み場
浄水されたばかりの水を提供するR.C.ハリス浄水場の水飲み場。オンタリオ湖などのトロント地域は五大湖水質協定以降、魚類と野生動物の個体数が増えた。現在は魚の腫瘍や生殖の問題などの改善に努めている。
水質保護区
地質調査が行われ、目に見える水源だけではなく地下水も含め水質保護区が決定される。地表の影響を受けやすいが目に見えない「浅層地下水」には特に注意が必要だ。

profile

松井葉月

まつい・はつき/トロント在住ライター。米系オーガニックコスメ会社のマーケティング・PRを経て2017年にエルサレムに移住。その後2022年からトロントへ。主に持続可能性のあるプロダクト・テクノロジーの記事を書く。

Instagram:@hatsuki_matsui

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