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楽しいこと=愛情だと確信に変わった。長澤まさみが語る、野波麻帆にスタイリングを依頼した理由

  • 2024.3.6
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MASAMI NAGASAWA【長澤まさみ的。】前編

今月号の表紙&巻頭のスタイリングを手がけたのは、俳優の野波麻帆さん!  長澤まさみさんとは同じ事務所の先輩後輩、というだけでなく、プライベートでも親交の深い友人同士なのだそう。今回の企画は、そんなおふたりの関係から生まれたもの。「私より私のことをよく分かっている人」と、長澤さんが絶大な信頼を寄せる野波さん。彼女がこの日のために用意した5ルックは、普段メディアでは披露する機会の少ない、長澤さん「らしさ」が溢れるものばかり。野波さんの愛とセンスが炸裂したスペシャルなファッションストーリー、ぜひご堪能ください♡ 作品や役柄を背負わず、メゾンの最新ルックを纏うでもない。ただ自分らしくありたいと望む、既視感のない長澤まさみと出会った。「愛を注ぎ、楽しみながら仕事と向き合いたい」、澄み切った意志に導かれて。

デニムジャケット¥27,500(カルバン・クライン/カルバン・クライン カスタマーサービス)、コート¥66,000(バッカ/ビー エディション ニュウマン新宿店)、眼鏡¥36,300(ジェントルモンスター/エム)、ネックレス¥22,000(アフェクト)

今回のファッションストーリーは、長澤まさみさんのパーソナリティを知り尽くした俳優・野波麻帆さんによるスタイリング。公私を飛び越えた特別な試みといえるわけだが、そこに至った経緯を伺うと、思いがけず長澤さんが抱えていたもどかしさに触れることになった。
 
「表紙のオファーをいただいたことがきっかけではあったんですけれど、私の中で、もっと楽しいことがしたいという思いがふつふつと湧いてきたタイミングと重なっていたんですね。去年から、お仕事とはいえ与えられたミッションをクリアしていくだけの価値観じゃなくてもいいんじゃないか?  もう少し楽しみながら仕事と向き合ってもいいんじゃないか?  と自分の心に問いかける機会が増えていて。もちろん仕事ですから、常に責任はついて回るものですが、私が楽しんでやっている姿を見たら、みなさんも同じように楽しい気持ちになってくれるはず。そんな考えと向き合う時間を抱えていました。今回、スタイリングを担当してくれた野波さんは、事務所の大先輩でもあり、私が悩んだり、立ち止まったりする折々に必ず会いにいく信頼している人。先輩ですが友人でもある、私にとって稀有な存在です。2人で久しぶりに近況のキャッチアップをしていたときに、『お洋服、楽しいよね』という話から、野波さん自身の洋服との向き合い方に触れて、『今、スタイリングの仕事をすごくしたいし、今ならまーちゃんのことをすごく可愛く見せることができる!』と真正面から気持ちをぶつけてくれて。そんなふうに愛を持って接してくださったことで、愛こそが今私が一番求めていたことだったんだと気づかせてもらえたんですよね。“楽しいこと=愛情”という結論にはうっすら気づいていたものの、どこか信じきれずにいて、野波さんからの愛を受け取ったときにやっと確信に変わった。何事も取り組む上で愛情や情熱を注ぐのは自分に課せられた責任のひとつだと捉えていたつもりだけど、もしかすると最近の私には愛がちょっと足りていなかったのかもしれない。自分が求めていたものが愛だとクリアになったとき、ぜひ野波さんと一緒に仕事がしたいと思って、今回の企画が実現しました」

シャツ¥121,000、スカート¥243,100、ベルト¥85,800、靴¥176,000(全てアン ドゥムルメステール/エム)、ブラ¥12,100(ヨー ビオトープ)

私が一番、臆病だったのかも

野波さんの熱量や愛に触れ、モヤモヤと曇っていたものが透明になっていく。ただ、いざ一緒に仕事をする上で、たったひとつ懸念があった。
 
「野波さんは俳優として輝かしいキャリアがある方なので、そのイメージが先行して、素晴らしい撮影ができたとしても、純粋に作品としてストレートに伝わらないのではないか?  と頭をよぎりました。なので、スタイリストとして活動するときの別名義を作るのはいかがですか?  と提案したんです。でも、『私自身のまま取り組みたいし、ちゃんと勝負をしたい』という言葉が野波さんから返ってきて、まさにいらぬ心配だったなと。私が考えたことって、もしかすると彼女の情熱を閉ざすことに繋がりかねなかったなと反省したんです。確かに、隠す必要もないし、勝負というのはそのままの自分で正直に向き合っていくもの。情熱や覚悟をちょっと見くびっていたなと思ったし、結局、私が一番臆病だったんですよね。チャレンジ精神は誰の心にもあっていいもので、自分の中にある勝手な思い込みやルールを相手に押しつけてはいけない。海外に目を向ければ、俳優さんが映画のスタイリングを担当することもあるし、餅は餅屋じゃなくてもいい。その人が持っている才能や魅力、可能性を隠すことなく勝負する誠実さに圧倒されて、『先輩、やっぱりさすがだわ』と(笑)。改めて、好き! が込み上げてきました」

ニット¥40,700(ヨー ビオトープ)、スカート¥37,400(MOON TREE PLANET)、バッグ¥38,500(トゥティエ)、イヤリング¥17,800(アフェクト)、ネックレス¥63,800(サラース/サラース カスタマーサポート)

撮影も長澤まさみ「らしさ」にフォーカスされた。自分らしさという言葉を耳にすると、素だったり、ナチュラルな一面をイメージしがちだが、長澤さんが考える「らしさ」とは、もっと内側に宿る、まったく違ったもの。
 
「今の自分らしさを言葉にするなら、楽しむこと、楽しみたいと思う心そのもの。それが叶ったスタイリングになったと思っていて。ただのシンプルじゃなくて、ちゃんとスタイリングのアイデアが盛り込まれていたり、チャレンジしてる感じもあって、“洋服を楽しんでいる”という言葉がすごくしっくりくるものばかり。洋服って、これ似合うかな?  と試行錯誤したり、気分に合わせて選び取っていくものだと思うし、そこに楽しさを見出していきたいとも思っていて。ファッションセンスは人それぞれだけど、楽しむことは誰にだってできるはず。普遍的であり根本的な喜びが今回のスタイリングには詰まっていた気がします。たった一着しかない古着の魅力、アート感覚で楽しめるデザイナーズのアイテム、お値段が安くても高くても、やっぱり自分の感性で選ぶこと自体が大きな刺激になるし、その積み重ねによって自分らしさは育まれるのかなと思うんです」

ドレス¥53,900、別注サンダル¥135,300(共にロンハーマン)、バッグ¥275,000(MOON TREE PLANET)、ネックレス¥17,600、ラリエット¥59, 400(共にボーニー/エドストローム オフィス)、バングル¥36,300(サラース/サラース カスタマーサポート)、ソックス¥4,180(ヨー ビオトープ)

野波さんのスタイリングを振り返り、「今までの私のイメージとは逆に感じる方が多いと思う」と長澤さん。そして、それが本質でもあると。
 
「今、流行っているというのもあるかもしれないですが、90年代のムードがすごく好き。野波さんが作るスタイルには、あの時代の映画やファッション、加えて私自身の“幼稚な部分”が反映されている気がします。私は少女性より少年性の方が強いので、少年っぽさっていうのかな。内面的な部分でいえば、明るい性格だと思われるけれど、実は陰の磁力も強いというか(笑)。そんな部分も出せたらいいねって、野波さんにも言われました。それは私のことを長く知ってくださっているから引き出してもらえる表現であって。私って笑うと快活な人に見えるんですよね。それは嬉しいことですし、得もしてますが、今回はそんなイメージとは真逆の私本来のものが出るような写真になったらいいなと想像を膨らませて現場に入りました。だから野波さんの選んだ服を着ると、どこか腑に落ちるような感覚があるんです。キャラクターとかけ離れるでもなく、かといってただシンプルに“素材でどうぞ”という感じでもない絶妙さが味わえる」

似合う服や好きな服、着心地がいいとか、今の価値観に合うかなど、ファッションの選択はそのときどきで求めるバランスが変化していく。
 
「たしかに変わりますね。世間のトレンドとは違って、自分の中だけでの流行りもありますから。ちょっとした丈感だったり、着たときの気持ちよさだったり。そういった私なりのこだわりみたいなものも、今回のスタイリングの中には落とし込まれていた気がします」

紀信さんの言葉が今も息づいている

写真と映像は全く違った表現なのに、なぜだろう?  長澤さんがそこにいると物語が薫る。
 
「きっとフォトグラファーの荒井(俊哉)さんが、物語を作って、動きをつけて撮る人だからかな。芝居をしているのと同じ感覚で、すごく楽しいし、同時に写真もそうあるべきだとも思うんですね。自分がいる場所、モノが置いてある位置ひとつでも、どんな動作の中でいつ置かれたものなのか?  そのイメージを持ちながらカメラの前に立つだけでも印象が変わる。そういった動きはカメラマンさんや芝居から学んで覚えてきたものだと思います。その一方で、過日逝去された篠山紀信さんから『もうね、動きはなんでもいい。むちゃくちゃでいいよ』と言われた過去があります。私、昔はすごく恥ずかしがり屋で静止画が苦手だったんです。そんなときに紀信さんと出会って、からだのカタチやポーズなんて変なほうがいいし、もっとパーッと躍動感があるほうがいい!  って(笑)。『変でいい』という言葉で、私の苦手意識が吹っ飛んでいったんです。写真って不思議で、正しく写るほうが面白くなかったりする。逆にぎこちなかったとしても、写真になると自然に見えたりすることがある。紀信さんから“写真の不思議”を教えてもらって、そこから写真を撮られるのがすごく楽しくなれた。たまにしか会えなかったけど、写真との向き合い方を教わって、今でも撮影のときに大事にするようにしています。もっと一緒に撮影したかったし、もっとお会いしたかったけれど、そんな素敵な言葉をもらえて、私はラッキーだったなと。20年以上前のことでも、今もこれからもずっと息づいています。最後にお会いできたのは舞台のパンフレットの撮影だったんですけど、その前に雑誌の撮影で久々にお会いしたら、『老けたね〜』なんて言われて、それがとても面白かったんですよ。『ちゃんと綺麗に撮っといたからね』って(笑)。それもお人柄で、なんの嫌味もなくてチャーミングであり、とってもスマートな感じ。あんなに素敵な人とはなかなか出会えないですし、お会いできて本当によかったし、幸せな時間をもらったと本当に感謝しています。その後もいろんなカメラマンさんと出会うたびに学ぶことがたくさんありました。写真に“写る”とは、ただ普段の生活のように自然にしていればいいわけではなく、写る瞬間をどう演じられるか。その点がお芝居と一緒だから、写真って深い。苦手ではあるけれど、『いいページだね』と言ってもらいたいから、我ながらすごく真面目に取り組んでいると思います。やっぱり愛ですね。愛情がある仕事が一番幸せ」

「四月になれば彼女は」 2024年3月22日(金)全国東宝系にて公開

©2024「四月になれば彼女は」製作委員会

profile_ながさわ・まさみ/1987年6月3日生まれ。静岡県出身。出演作に、映画『コンフィデンスマンJP』シリーズ、『シン・ウルトラマン』『ロストケア』、ドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』など。2月29日よりNetflix映画『パレード』が世界独占配信スタート。3月22日には映画『四月になれば彼女は』、9月13日からは主演映画『スオミの話をしよう』が公開予定。

後編もお楽しみに!

photo:SHUNYA ARAI[YARD] styling:MAHO NONAMI hair:RYOJI INAGAKI[maroonbrand] make-up:KOTOE SAITO styling cooperation:RANKO ISHIBASHI model:MASAMI NAGASAWA interview & text:HAZUKI NAGAMINE
 
otona MUSE 2024年4月号より

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