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いよいよ迫るマイナス金利解除…お金の専門家が予測「住宅ローンの変動金利が上がるのはいつからか」

  • 2024.3.5

日銀のマイナス金利政策の解除が近いと見られている。住宅ローン変動金利への影響はどう出るか。ファイナンシャルプランナーの松岡賢治さんは「4月にマイナス金利政策が解除されるだろう。しかしそれによって短期プライムレートが引き上げられる可能性はかなり低い。年内はもちろん、この2年は変動金利の変化はないだろう」という――。

衆院予算委員会で挙手する日銀の植田和男総裁(中央)=2024年2月22日午後、国会内
衆院予算委員会で挙手する日銀の植田和男総裁(中央)=2024年2月22日午後、国会内
マイナス金利解除後の追加利上げまで見据える金融市場

今年1月の日銀金融政策決定会合以降、金融市場では、3月あるいは4月の金融政策決定会合で、現行の「マイナス金利政策」が解除されるとの見方が広がっている。

そして、すでに次の焦点として、マイナス金利解除後の政策金利の水準と、年内の日銀の追加利上げの有無が取り沙汰されている。もし、年内に追加利上げがあれば、個人の住宅ローンの変動金利が引き上げられる可能性が出てくる。

今後の日銀の金融政策と、それが変動金利に与える影響について、金融市場のコンセンサス(見解)を交えながら解説をしていこう。

日銀の金融緩和の目標は物価の安定

今の日銀の金融政策の大枠は、2013年4月からスタートした「量的・質的金融緩和」。その最大の政策目標は、消費者物価の前年比上昇率を2%程度に維持することだ。その後、2016年1月に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を、同年9月には「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入し、現在に至っている。

ここで重要なのは、今も金融政策は「量的・質的金融緩和」の枠内で運営されていること。

日本経済をデフレから脱却させるため、物価の安定を最優先課題としている点は全く変わっていない。その目標を達成するための手段が、消費者物価前年比2%という「インフレターゲット政策」なのである。

実は、消費者物価は2022年前半からは前年比2%を上回って推移している。だが、日銀は、「賃金と物価の好循環に確信が持てない」という理由で、強力な金融緩和を続けてきた。

日銀の言う「賃金と物価の好循環」とは、「賃金上昇で物価が上がり、物価上昇でさらに賃金が上がる」という相互作用を意味している。経済成長に必要な持続的かつ安定的な物価上昇には、そうした好循環の発生が不可欠であるというスタンスだ。

マイナス金利解除のお膳立ては整いつつある

そして、その好循環の動きが、「今年の春闘で確実になると日銀が判断をするだろう」、というのが金融市場の見方だ。それが3月または4月の金融政策決定会合での、マイナス金利解除説の根拠となっている。

3月の金融政策決定会合が開催されるときには、ある程度の春闘の結果は出ている。足下では、今年の春闘の賃上げ率は、約30年ぶりに大幅となった2023年の数字を上回り、4%程度にまで上昇すると見込まれている。

しかも、2月下旬の国会答弁で植田和男日銀総裁は、賃金と物価の好循環の動きが強まっていると述べた。さらに、日本経済について、「デフレではなくインフレの状態にある」と言明している。間違いなく、従来の日銀コメントからは一歩踏み込んだ内容だ。着実に、マイナス金利解除のお膳立ては整いつつある。

給与明細
※写真はイメージです
翌日物金利の日銀の誘導水準は0~0.1%が有力

マイナス金利が解除された場合、最重要ポイントは「無担保コール翌日物金利」がどのくらいの水準になるかだ。無担保コール翌日物金利は、「オーバーナイト金利」とも呼ばれ、金融機関だけが参加するインターバンク市場で取引される、1日満期の超短期の貸出金利のこと。

日銀は、この翌日物金利の誘導水準を決めており、現行のマイナス金利政策では「-0.1~0%」となっている。マイナス金利解除となれば引き上げられるが、現時点では、0.1%の利上げで誘導水準は「0~0.1%」になる、という見方が有力だ。その背景には、2月上旬に行われた内田眞一日銀副総裁の講演がある。

内田副総裁は、「マイナス金利の導入前は、無担保コールレートが0~0.1%の範囲で推移していた。仮にこの状態に戻すとすれば、0.1%の利上げになる」と、あたかも解除後を想定したかのようなコメントを発している。これを額面通り受け取れば、解除後の翌日物金利の誘導水準は0~0.1%になるだろう。

もし追加利上げが実施されたら…

さらに、マイナス金利解除後に追加利上げがある、という観測も浮上している。海外の金利先物マーケットでは、翌日物金利が0.1%を超える水準での年内の取引が散見されるようになった。この観測は、おもに海外の機関投資家中心に広がりつつあるが、国内の機関投資家で追加利上げの可能性に言及するケースも増えている。

もし、追加利上げが実施され、その引き上げ幅が0.25%となれば、翌日物金利は0.25%にまで上昇する。その場合、後述するように、住宅ローンの変動金利も引き上げられる可能性は非常に高い。

住宅ローンの金利を固定と変動どちらにするか
※写真はイメージです
「変動金利」は「短プラ」に連動する

これまで、翌日物金利を中心に据えて日銀の金融政策の動向を探ってきたが、その理由は、翌日物金利の水準が変動金利に直接的な影響を与えるからだ。以下、そのメカニズムについて説明をしよう。

まず、多くの金融機関では、住宅ローンの変動金利は「短期プライムレート」(以下「短プラ」)に連動するように設計されている。住宅ローン金利のベースとなる「基準金利」は、短プラに、各金融機関が独自に決めた金利を上乗せしたものになっているからだ。短プラが引き上げられれば、基準金利は確実に引き上げられる。

したがって、すでに変動金利で借入をしている場合、基準金利の上昇分は、そのまま実際のローン金利である「適用金利」に反映されることになる。また、新規に借り入れる場合は、金融機関がローン審査によって個別に適用する「金利優遇幅」が変わらなければ、やはり適用金利は引き上げられることになる。

短プラを決めるのは翌日物金利

では、どういう状況になったら短プラは引き上げられるのか。短プラは、1年未満の短期金利の市場実勢に基づいて各金融機関が独自で決める、ということになっており、明確なルールは存在しない。分かりやすくいうと、短期金利が全般的に0.5%程度上昇したら、短プラも0.5%程度引き上げられる、というイメージだ。

但し、短期金利というものはそれほど大きな変動はしない。翌日物金利を基準として、短期金融市場は形成されるからである。その翌日物金利の誘導水準は、日銀の金融政策でしか変わらないので、そんなにコロコロと変化しないのだ。実際、現行の短プラレート1.475%は、2009年からまったく変わっていない。

つまり、短プラが変わるのは翌日物金利の誘導水準が変わるときであり、その場合、変動金利の基準金利も変わることになる。

3月のマイナス金利解除が無いといえる理由

それでは、これまで説明した日銀の金融政策の動向に関する金融市場の見方は、果たしてどこまで妥当性があるのか、改めて検討していこう。

まず、3月の金融政策決定会合でのマイナス金利解除は、ほぼ無いと考えられる。春闘の結果は出ているが、中小企業の賃上げ状況はまだはっきりしない時期だ。しかも、年度末も控えている。金融市場のボラティリティ(変動幅)を高める可能性があることを、日銀が率先してやるとは考えにくい。株式や為替相場が乱高下すると、事業会社の決算にも影響を与えることになる。

また、住宅ローンの変動金利の見直しは半年に1回、4月1日と10月1日に行われるので、3月にマイナス金利解除をして短プラが上がってしまったら、すぐに影響が出てしまう。建前に近いが、短プラは各金融機関が独自に決めるので、個別の金融機関で引き上げられるリスクはわずかに残る。

日本銀行本店
日本銀行本店(写真=PD-self/Wikimedia Commons)
4月にマイナス金利解除をしないと日銀はタイミングを失う

おそらく、マイナス金利解除は、4月の金融政策決定会合で行われるだろう。年度末要因がなくなり、中小企業の賃金動向も見えてくる。そして重要なポイントは、4月を逃すと、解除のタイミングを失う可能性が高まることだ。

実は、消費者物価の前年比上昇率はピークを超えている。直近に発表された1月分のデータは前年比2.0%と、3カ月連続で伸び率は縮小した。先行指標といえる東京都区部の消費者物価の前年比は、すでに2%を割り込んでいる。

この伸び率縮小の傾向は、当面続く見通しで、今年後半には1%台で推移するとみられており、2025年には1%を割り込む可能性もある。となると、インフレターゲットである2%が遠退き、マイナス金利解除の最大の根拠がなくなってしまうのだ。

日銀としては、消費者物価が2%台のうちにマイナス金利解除をしておきたい、というのが本音だろう。

解除後の翌日物金利の誘導水準は、前述のように0~0.1%に落ち着きそうだ。となれば、短期金利への影響は限定的。短プラが引き上げられる可能性はゼロではないが、かなり低い。誘導水準が0.1%の期間も、0~0.1%だった期間も短プラは現在と同じ1.475%だったからだ。よって、マイナス金利解除では変動金利は上がらない、といえよう。

追加利上げの可能性は低い

追加利上げの有無はどうか。この可能性もゼロに近いのではないか。これまで述べてきたように、今年は月を追うごとに物価上昇の鈍化が鮮明となる。加えて、大企業とは違い、中小企業はすでに人件費の負担は高く、賃上げはかなり抑制的になると見られるからだ。

肝心の実体経済は、デフレを脱却したと力強く言えるような状況からは程遠い。物価を加味した会社員の実質賃金は、2023年12月まで21カ月連続のマイナスを記録しており、当面、このマイナスは続く見通し。実質賃金のマイナスは2年目に入り、家計の実態は数字以上に厳しいだろう。こうした状況で、さらに国民の負担が増す、短プラの引上げにつながるような追加利上げの妥当性は低い。

来年も変動金利は変わらない可能性が高い

結論をまとめると、「4月にマイナス金利解除、翌日物金利は0~0.1%、追加利上げ無し」といったところか。となれば、年内に変動金利が引き上げられる可能性はほぼ無いといえる。

来年を見渡せば、さらに物価上昇が鈍ることで追加利上げの必要性はますます減少する。米国の利下げも来年にかけて数回行われる見通しで、為替相場は現在の水準からは円高方向に振れるだろう。したがって、今後、少なくとも2年程度、変動金利は変わらず、現行の金利が続くのではないだろうか。

また、それ以降も、日本の需給ギャップがマイナスであることや、潜在成長力の低さを考慮すれば、次々と追加利上げが行われることは想定しにくい。

変動金利が上昇する前にやっておくべきこと

但し、目先、追加利上げはなくとも、マイナス金利解除と同じタイミングか、おそらく年内に、日銀は、「長短金利操作」いわゆる「イールドカーブ・コントロール」の修正あるいは撤廃に踏み出すと考えられる。その結果、長期金利(10年物国債金利)は上昇していくだろう。となれば、固定金利タイプの住宅ローン金利も、現状よりも上がることになる。

これから、新規に住宅ローンを借り入れる人にとっては、ますます変動金利と固定金利の金利差が広がり、変動金利の相対的な魅力が増すことになる。しかし、これからは過去と違って、変動金利の引上げが現実味を帯びてくることから、その準備は怠れない。新規に変動金利を組むなら、借入限度枠いっぱいまでの借入れは避けて、さらに、ある程度の貯蓄は残しておく必要があるだろう。

また、すでに変動金利で借入をしている人は、コツコツと繰り上げ返済をしたり、将来の変動金利の引上げに備えて貯蓄に励むことが求められる。これを言うとガッカリした表情になる人が少なくないが、あまり余裕資金がない人は、くれぐれもNISAなどでの投資はやらないこと。個人にとっての住宅ローンは、一般的に考えられているよりも、高いリスクを負担しているからだ。

松岡 賢治
ファイナンシャルプランナー/マネーライター
1963年生まれ。89年東京都立大学法学部卒業。証券会社のリサーチ部門等を経て96年独立、97年ファイナンシャルプランナー資格を取得。クレジットカードをはじめ資産運用・投資関連等の記事を執筆。著書に『ロボアドバイザー投資1年目の教科書』(SBクリエイティブ)、『豊富な図解でよくわかる! キャッシュレス決済で絶対得する本』(ソーテック社)など。AllAboutガイド。

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