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シャチの殺し屋コンビの片割れ「右舷」がホオジロザメを狩る様子が撮影される!

  • 2024.3.4
シャチが単独でホオジロザメを捕食する瞬間を撮影!犯人はあの「殺し屋コンビ」の片方
シャチが単独でホオジロザメを捕食する瞬間を撮影!犯人はあの「殺し屋コンビ」の片方 / Credit: Christiaan Stopforth, Drone Fanatics SA(eurekalert, 2024)

シャチは厳格に組織されたチームワークで、どんな獲物でも仕留める狩りのプロです。

しかし最近、南アフリカの沖合で1頭のシャチが単独でホオジロザメを捕食する瞬間が撮影されました。

ホオジロザメのような大型の獲物は群れで狩りをするのが通例であり、今回のように単独でのサメ狩猟は史上初めての記録だという。

しかもこのシャチはホオジロザメを2分足らずで仕留める凄腕の持ち主でした。

それもそのはず、この個体は2017年頃から同海域のサメを恐怖に陥れているあの悪名高い”殺し屋コンビ”のうちの1頭だったのです。

研究の詳細は2024年3月1日付で科学雑誌『African Journal of Marine Science』に掲載されています。

目次

  • 南アの殺し屋コンビ「右舷」と「左舷」

南アの殺し屋コンビ「右舷」と「左舷」

南アフリカの沿岸域はもともと、ホオジロザメが豊富に集まる”サメの楽園”として有名でした。

世界中から観光客が訪れ、ケージ・ダイビング(檻に入ってサメを間近で観察する行為)が盛んに行われていたのです。

しかし2017年頃から、ある2頭のシャチの出現によって楽園は終わりを迎えます。

彼らは巧みなコンビプレイと高度な殺しのテクニックを持っていました。

研究者が調べただけでも、少なくとも8頭のホオジロザメが彼らに惨殺されており、14頭が慣れ親しんだ南アの海から逃げるように去っていったことが分かっています。

このコンビは見た目に最大の特徴があり、1頭は背びれが右側に曲がり、もう1頭は背びれが左側に曲がっていました。

このことから「スターボード(Starboard=右舷)」「ポート(Port=左舷)」の愛称が付けられています。

ホオジロザメを狙うスターボードとポートのイメージ画
ホオジロザメを狙うスターボードとポートのイメージ画 / Credit: Artwork by Marc Dando(saveourseas, 2017)

スターボードが単独でサメを狩る

殺し屋コンビはその後もたびたび観察されていましたが、2023年6月18日、南アフリカ南岸のモッセル湾沖での目撃情報が報告されました。

南ア・ローズ大学(Rhodes University)の研究チームはコンビの行動を観察するためにボートで出発。

そしてシャチの狩猟場として知られるシール島(Seal Island)で彼らを発見しました。

しかしチームによると、スターボードとポートは互いに距離を置いていたという。

そして水面にホオジロザメのヒレが現れた瞬間、スターボードが急速に接近し狩りを開始しました。

スターボードはポートの手を借りることなく、研究者たちの目と鼻の先で、全長2.5メートルのホオジロザメをいとも簡単に捕食したのです。

その間、ポートは離れた場所にいて、狩りに参加することもありませんでした。

ホオジロザメを襲撃するスターボード
ホオジロザメを襲撃するスターボード / Credit: Christiaan Stopforth, Drone Fanatics SA(eurekalert, 2024)

研究主任のアリソン・タウナー(Alison Towner)氏はその時の様子について「スターボードはわずか2分足らずという驚異的な時間でホオジロザメを仕留め、サメの肝臓を口にくわえて私たちのボートの横を通り過ぎていきました」と話します。

シャチは一般に、アシカやアザラシ、サメ、クジラといった中〜大型の獲物を襲撃する際はコンビや群れで協力するのが普通です。

しかし世界最大の捕食者のひとつであるホオジロザメを単独で仕留めた例は、研究者の知るかぎり史上初めてだという。

これは殺しのテクニックに長けたスターボードだからこそ成せる技かもしれません。

こちらはスターボードがホオジロザメを襲撃する瞬間の映像。

また調査では他に、全長3.55メートルの別のホオジロザメの死骸が近くで発見されました。

殺しの現場は直接目撃されてはいないものの、おそらく殺し屋コンビのどちらか(あるいは両方)の犯行と見られています。

タウナー氏は今回の発見について「シャチの捕食行動に関する画期的な記録であり、これまで知られていた共同狩猟とは別の戦略があることを示す」と述べました。

殺し屋コンビが生態系のバランスを壊す恐れも

シャチの高度な捕食能力を観察することは極めて魅力的なものですが、他方でタウナー氏らはそれが同海域の生態系に与える影響を懸念しています。

生態系は常に「バランス」で成り立っており、たった一種の生物がいなくなるだけでも食物連鎖のネットワークが大きく狂いかねません。

例えば、殺し屋コンビがホオジロザメを激減させると、サメの獲物であるオットセイの行動が制限されなくなり、絶滅の危機に瀕しているケープペンギンの捕食される機会が増えてしまうと考えられるのです。

シャチに殺され浜辺に打ち上がったホオジロザメの亡骸
シャチに殺され浜辺に打ち上がったホオジロザメの亡骸 / Credit: Christiaan Stopforth, Drone Fanatics SA(eurekalert, 2024)

加えて、ホオジロザメは成長速度が遅く、成熟するまでの期間が長いため、個体数が急激に減ってしまうと、種の絶滅にもつながる恐れがあります。

タウナー氏は、シャチの殺し屋コンビが南アの海の生態系を壊さないよう、注意深いモニタリングが緊急に必要だと強調しました。

参考文献

Orcas demonstrating they no longer need to hunt in packs to take down the great white shark
https://www.eurekalert.org/news-releases/1035767?

The Great White Shark Inspires Terror. But For One Animal, It’s Just Prey.
https://www.sciencealert.com/the-great-white-shark-inspires-terror-but-for-one-animal-its-just-prey

元論文

Further insights into killer whales Orcinus orca preying on white sharks Carcharodon carcharias in South Africa
https://doi.org/10.2989/1814232X.2024.2311272

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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