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スパイ映画は『007』だけじゃない。荒唐無稽?それともリアル?魅力にあふれたスパイ映画6作を選出

  • 2024.3.1
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おすすめの「いい意味で荒唐無稽なスパイ映画」3作品と、「とことんシビアでリアルなスパイ映画」3作品を、それぞれを一挙に紹介しましょう。『007』や『ミッション・インポッシブル』シリーズとはまた異なる魅力がありますよ。(サムネイル画像出典:(C) Universal Pictures)
おすすめの「いい意味で荒唐無稽なスパイ映画」3作品と、「とことんシビアでリアルなスパイ映画」3作品を、それぞれを一挙に紹介しましょう。『007』や『ミッション・インポッシブル』シリーズとはまた異なる魅力がありますよ。(サムネイル画像出典:(C) Universal Pictures)

スパイ映画と聞けば、『007』や『ミッション・インポッシブル』シリーズが特に有名ですが、注目作や名作はほかにもたくさんあります。

ここでは「いい意味で荒唐無稽なスパイ映画」と「とことんシビアでリアルなスパイ映画」に分けて3作品ずつ、合計で6つのおすすめスパイ映画を紹介しましょう。

いい意味で荒唐無稽なスパイ映画1:『ARGYLLE/アーガイル』(2024年3月1日より劇場公開)


『キングスマン』シリーズで、まさに荒唐無稽寄りのスパイ映画を手掛けてきたマシュー・ヴォーン監督最新作です。あらすじは、ベストセラー小説の作者が突如として襲われるものの本物のスパイに助けられ、さらに小説の内容が偶然にも現実のスパイ組織の行動と一致していたと教えられるというもの。

女性が突如としてスパイの男性と行動を共にする流れは、2010年のアクションコメディー映画『ナイト&デイ』に似ています。さらにギミックとして面白いのは、劇中のスパイ小説の内容が妄想として展開しつつ、現実でのスパイ組織との戦いと交錯していくこと。

(C) Universal Pictures
(C) Universal Pictures



その妄想の中で凄腕スパイを演じるのは、2013年の『マン・オブ・スティール』のスーパーマン役で知られるヘンリー・カヴィル。その絵に描いたようなマッチョでイケメンなその姿は、出演シーンこそ少ないものの、ものすごいインパクトがあります。この役は、ヘンリー・カヴィルが2006年の『007/カジノ・ロワイヤル』のジェームズ・ボンド役の最終候補者だったものの、若すぎる(当時22歳)ために選ばれなかった過去を踏まえたものでもあるのでしょう。

対して、現実でのスパイの男性を演じるのは2018年の『スリー・ビルボード』などのサム・ロックウェルで、いい意味で(妄想のヘンリー・カヴィルとのギャップもあり)頼りなく思えるものの、主人公との関係性が変化していく様もまた魅力的。そのアクションシーンはマシュー・ヴォーン監督らしくキレキレで、終盤の斬新なアイデアそのものにも感動がありました。

(C) Universal Pictures
(C) Universal Pictures



「一流スパイは世界をダマす。」というキャッチコピー通りの、観客の予想を覆す二転三転する作劇も実に楽しませてくれるので、ネタバレを踏む前に早めに劇場で鑑賞していただきたいです。

いい意味で荒唐無稽なスパイ映画2:『355』(2022年)

豪華な女性キャストたちによる、直球にして王道のスパイアクション映画です。物語は「第三次世界大戦を阻止するため秘密兵器を奪還する」とシンプルながら、序盤から提示される意外にシビアな舞台立て、ギミック満載のバイクチェイスなど見どころは多数。タイトルの『355』は実在したとされる女性スパイのコードネームに由来しており、そこから女性の活躍や連帯を強く打ち出しているのです。

「優秀だが実はちょっと怒りっぽくて乱暴な主人公」や「家族との平和な日々に幸せを感じる心理学者」など、個性豊かなキャラクターが魅力的で、きっと見た人それぞれの「推し」ができるでしょう。男性との関係性が「単純な恋愛だけに落とし込まない」「それでいて男性を過度に貶めることもない」バランスであることも、多様性を推した現代の映画らしいポイントです。

いい意味で荒唐無稽なスパイ映画3:『コードネームU.N.C.L.E.』(2015年)

1960年代のテレビドラマ『0011ナポレオン・ソロ』の映画リメイクです。何よりの特徴は正反対の性質を持つ男性2人の「バディもの」であること。「大人の余裕をひょうひょうと見せる」「超マジメだけど情緒不安定なところもある」2人は初めこそ相性は最悪なのですが、そんなやりとりの“ひどさ”もまたコメディーへと昇華されていました。

『スナッチ』や実写版『アラジン』などのガイ・リッチー監督らしい軽快な語り口や、ケレン味のあるアクション描写、スタイリッシュで凝った編集など、その作家性が全開に表れているのも大きな魅力。オープニングからフルスロットルの見せ場があり、主人公2人が人間離れした身体能力を見せたかと思いきや、その後には仲が悪すぎるために盛大に醜態をさらしたりと、ギャップのあるバラエティ豊かな展開で楽しませてくれます。

さらに、そのほかのいい意味で荒唐無稽寄りのスパイ映画では、以下もおすすめです。

・『SPY/スパイ』(日本では劇場公開なし)……まったくの素人だったふくよかな女性が頑張る様や、ジェイソン・ステイサムが本当に“バカ”に見えるコメディー場面が大きな見どころです。
・『マッシブ・タレント』(2023年)……ニコラス・ケイジが本人役で、大富豪と交友を深めていき、同時に彼へのスパイの任務の依頼を受けるという、「友達であると同時に敵」な関係性を描きます。

とことんシビアでリアルなスパイ映画1:『ブリッジ・オブ・スパイ』(2016年)

アメリカとソ連(現在のロシア連邦の前身)における冷戦下の実話を元にした映画で、人質交換のために交渉をする主人公が、自身にとって「縁もゆかりもない学生」をも救おうとする物語です。そのプロセスはなかなかに複雑なのですが、理路整然とした語り口もあって、混乱せずに見られるでしょう。派手な展開やアクションはほぼ皆無ながら、一進一退の駆け引きや、皮肉に満ちた会話劇の面白さに満ちていました。

主人公が正義感にあふれているだけでなく、少しだけ「めんどくさがり」な弱点を見せたりもすることも、むしろ魅力的に見えてきますし、スティーブン・スピルバーグ監督らしいヒューマニズムに満ちた「信念」が描かれていたことに感動があります。主役のトム・ハンクスはもちろん、老スパイを演じていたマーク・ライランスの演技も強い印象を残すでしょう。

とことんシビアでリアルなスパイ映画2:『クーリエ:最高機密の運び屋』(2021年)

経験ゼロのセールスマンがスパイに任命される実話を描いた作品です。表向きは単なる出張ながら、裏でスパイ活動をしていくうちに協力者と友情に似た信頼が生まれたり、妻との関係がギクシャクしたりと、「スパイなのに庶民的」な様子が親しみやすく思えるでしょう。スパイ活動や作戦そのものは「あっさり」で、ともすると地味にも見えてしまう一方、「実際のスパイもこんなものなんだろうな」というリアリズムにもつながっていました。

ほのぼのとしたシーンがあったり、家庭の危機が半ばブラックコメディー的に描かれる一方で、主人公の活動は「スパイであることがバレたら(すぐに殺されなかったとしても)拘束される」危険なもので、「世界の運命を握っている」ことも事実。それを踏まえての終盤の過酷な展開と、主演のベネディクト・カンバーバッチの熱演を忘れることができません。

とことんシビアでリアルなスパイ映画3:『スパイの妻 劇場版』(2020年)

NHK BS8Kで放送されたドラマをスクリーンサイズや色調を新たにした劇場版で、ベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞するなど高い評価を得た作品です。物語は「夫は恐ろしい国家機密を公表しようと画策する」「妻はある決意を胸に行動を起こす」という関係をスリリングにつづったもの。アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督が脚本に参加していることもあり、会話劇の1つ1つに緊張感があります。

確かな信念を持つ夫役の高橋一生、精神的に追い詰められていく妻役の蒼井優、裏切り者に容赦なく制裁を与える軍人役の東出昌大と、主要キャストの演技力も圧巻。ホラー作品も多く手掛けてきた黒沢清監督ならではの「暗がり」を意識した画も見応えがあります。実際のスパイ活動にまつわるシビアで現実的な視点がありながらも、フィクションならではのあっと驚くサプライズも備えていました。

さらに、シビアでリアル寄りのスパイ映画では、以下もおすすめですよ。

『マリアンヌ』(2017年)……運命の出会いを果たした男女が、過酷な時代に翻弄(ほんろう)されつつ、秘密を抱えながらも究極の愛を試されます。
『誰よりも狙われた男』(2014年)……名優フィリップ・シーモア・ホフマンの最後の主演作で、リアルな諜報(ちょうほう)活動での心理戦が展開します。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。

文:ヒナタカ

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