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【最終回】1日1万円で完璧な恋人をご提供します『魅惑のタイム・トラベル』

  • 2024.3.10

第17回「南のシナリオ大賞」を受賞した永合弘乃による、ちょっと奇妙な恋物語を3回にわたってお届けしています。今回は、最終話。夢にまでみた完璧なデートを重ねた美玖の行く末はいかに……。

〈完璧な恋人に出会えました〉
〈まるで、夢のデート。時間を忘れてしまう〉
〈現実に戻れなくなりそう〉
これが『魅惑のタイム・トラベル』に対するネットの評判だった。なかには、ゾクッとするような官能的な口コミもある。

【ご利用料金:1日1万円。完璧な恋人をご提供します『魅惑のタイム・トラベル』】

いつもであれば、さらりとスルーするポップアップ広告。だけどこの日、サイトを訪れてしまったのは、私が恋人に不満を抱えていたからだ。

↓ 前回までのお話はこちらから ↓
▷「【前編】1日1万円で完璧な恋人をご提供します『魅惑のタイム・トラベル』」
▷「【中編】1日1万円で完璧な恋人をご提供します『魅惑のタイム・トラベル』」

◆◆◆

――最終回――

それから、3時間くらい経っただろうか。

夢のなかで完璧な恋人と何度目かの春を越したとき、次第に私は完璧な毎日が退屈だと感じるようになっていた。

コーヒーの香りで目が覚める朝も、夜景を見ながらワインで乾杯する夜も、恐ろしいくらい完璧に家事をこなす美しい彼も、慣れてしまえば“当たり前”に思えてきてしまう。

そんなとき、脳裏に浮かぶのは、勇也の姿だった。

「すっかり長居しちゃった。そろそろ現実に戻らなくちゃ」

何度も引き留めてくる彼に別れを告げ、私はヘッドホンとゴーグルを外した。

ゆっくりと目を開けると、受付の女性が、私の顔をのぞき込んでいる。

「おかえりなさいませ、お客様。『魅惑のタイム・トラベル』はいかがでしたか?」

「最高だったわ」

「それは、よかったです。料金はすでにクレジットカードから引き落とされていますので、そのままご帰宅ください」

「ありがとう」

女性からスマホを受け取り、ゆっくり起き上がろうとすると、左腕にチクリとした痛みを感じた。目をやると、私の腕は、点滴につながれている。

「えっ? これは……?」

「あぁ、ご心配なさらず。今外しますから」

女性は慣れた手つきで注射針を外すと、入店したときと同じように、深くお辞儀をした。

「この度は『魅惑のタイム・トラベル』をご利用くださり、誠にありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」

◆◆◆

お店を出ると、照り付ける日差しに思わず目を細めた。しばらくしてから、スマホ電源をオンにする。

ロック画面の日付は、8月12日9時。

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11日の昼に入店してから、どうやら翌日の朝までお店にいたようだ。

スマホには、大量のメッセージと着信が入っていて、ほとんどが勇也からだった。1日留守にしたくらいで大げさな……と思ったが、少しだけ嬉しかった。

電車に乗り込むと、真夏だというのに、なぜか乗客全員がマスクをしていた。そして、私を怪訝な顔で見つめてくる。異様な光景に不気味さを覚えながら、勇也の待つマンションへと急いだ。

「今日は勇也を驚かそうっと」

途中、お気に入りのケーキ屋に立ち寄り、ショートケーキをふたつ購入する。

「あの……すみません、お客様。クレジットカードが使えないようです」

「え? そんなはずはないと思うけど」

初めて見る新人店員の手際の悪さに苛立ちながら、現金で支払いを済ませると、私はマンションへと向かった。しかし、一向に玄関の扉は開かない。

「おかしいな……」

勇也に何度も電話したが、電話口からは「お使いになった電話番号は……」の無機質な自動音声が流れるだけだった。

――もしかして、勇也になにかあった?

とたんに不安になった。私はエントランスを飛び出すと、勇也が行きそうな場所へと向かった。スーパー、コンビニ、パチンコ屋。

だけど、勇也の姿はどこにもなかった。最後に、勇也とよく並んだタピオカ屋へと向かう。しかし、そこは無人化されたコンビニになっていた。

「なんで……。昨日つぶれたの?」

呆然と立ち尽くしていると、聞き覚えのある声が背後から聞こえる。

「美玖……?」

ふりかえると、そこにはスーツ姿の勇也が立っていた。

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「勇也! あぁ……よかった。何かあったのかと思った。ほら、ケーキ買ってきたから食べよう。ってか、スーツ着て、もしかして就活やる気になった?」

私の言葉に、勇也はその場に呆然と立ち尽くしたまま、しばらく黙っていた。

「……どうしたの?」

「どうしたの、はこっちのセリフ。美玖、元気だったんだね、良かった」

「元気だよ。ごめんね、家空けちゃって。少し遠出してて。勇也は何やってたの?」

「……仕事に向かうところ」

「昨日のうちに仕事決まったんだ!」

「いや、もう3年目になる。一昨年結婚したよ。子どももいる。……じゃあね」

「え? 3年? 勇也。ちょっと待ってよ!」

――結婚? 子ども……?

状況を読み込めないまま、私はその場に立ち尽くしていた。そのとき、スマホが光った。毎朝10時に届く、最新ニュースの知らせだ。

【令和3年8月12日:今日の最新ニュース】

「……レイワって、なに?」

Fin.『魅惑のタイム・トラベル』
著:永合弘乃

■「南のシナリオ大賞」受賞作品「perfect Worldへようこそ」

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永合弘乃が執筆した第17回「南のシナリオ大賞」受賞作品「perfect Worldへようこそ」が、一般社団法人日本作家協会九州支部のHPにて、オーディオドラマとして公開されています。耳で聴く恋物語もぜひお楽しみください。

<オーディオドラマ>
永合弘乃:作
タイトル:Perfect Worldへようこそ
MP3 [15分47秒 / 14.4MB]

↓ 受賞のお知らせはこちらから ↓
▷「第17回南のシナリオ大賞」は永合弘乃さんが大賞受賞! 登場人物のことをもっと知りたくなる秀逸設定に唸る
https://p-dress.jp/articles/13579

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