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気候変動対策、1歩を踏み出すには? NGOリーダー荒尾日南子さん「みんな自然とつながっている」

  • 2024.2.27

気候変動と地球温暖化対策について活動する「国際環境NGO 350.org」の日本チームでリーダーを務める荒尾日南子さん。SDGs(持続可能な開発目標)の認知が広がり、エシカルな暮らしが注目されるなか、団体の登録ボランティア数は1000人を越えました。世界の平均気温や平均海面水温が過去最高を記録し、各地で異常気象も頻発する今、私たちにできる身近なアクションについてお話しいただきました。

●サステナブルバトン4-11

――「350 Japan(スリーフィフティージャパン)」は、どのような活動を行っているのですか?

荒尾日南子さん(以下、荒尾): 「350 Japan」は2015年に設立された気候危機解決に特化した国際環境NGOです。2008年にアメリカの環境ジャーナリスト、ビル・マッキベンが立ち上げた団体がもとになっており、「化石燃料を掘り出さない」「“お金の流れ”を変える」「再生可能エネルギーを拡大する」を掲げて、現在では世界180か国以上で活動しています。

国内外に気候変動関係のNGOはたくさんありますが、私たちは特に“ピープルパワー”、普通の人々が協力することで生まれる力に注目しています。2009年、デンマークのコペンハーゲンで開催されたCOP15(第15回国連気候変動枠組条約締約国会議)の時、 「Global Day of Action(世界一斉アクションデー)」を181か国で展開。2011年には米ホワイトハウス前に1万人が集まり、石油パイプライン建設反対の声を挙げるなど、世界同時のアクションも先駆的に行ってきました。世界中あちこちのコミュニティで、気候変動への活動の重要性を伝えることができる気候アクティビストのトレーニングにも力を入れています。

朝日新聞telling,(テリング)

――活動を通じて、近年は日本でもムーブメントの変化を感じますか?

荒尾: はい。たくさんの人が、気候変動に関心を持つようになっているなと感じます。私が「350 Japan」のスタッフとして活動を始めた2018年当時は、ボランティア登録者は60名ほどでしたが、関心の高まりと活動をより分かりやすく伝える努力などにより、現在は1000人以上に増えました。仕事や育児、介護など、それぞれ大変な事情や忙しい合間を縫って参加してくださる皆さんにはいつも励まされ、インスピレーションをいただいています。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが始めた「Fridays For Future(未来のための金曜日)」のように、世界的にもZ世代と呼ばれる若い世代の方たちの力強いリードもあり、近年はより幅広い世代の方々に関心を持っていただけるようになりました。

再生可能エネルギーという選択

――手ごたえを感じるようになったアクションにはどのようなものがありますか?

荒尾: ひとつは、2021年6月の世界同時アクションです。日本のメガバンクが海外で石炭化石燃料施設の建設に巨額を投資し、気候変動を悪化させるのではないかという疑念がありました。私たちは国内外の他の市民団体とも協力し、「化石燃料ではなくサステナブルな再生可能エネルギーを支援して」と訴え、東京の本店前や、マニラ、ジャカルタ、ニューヨーク、アムステルダム、バルセロナ、ブラジルといった各拠点で同時アクションを行いました。こうした市民の声が届いて、銀行による気候変動への対策が強化されたのは本当に嬉しかったですね。

朝日新聞telling,(テリング)

気候変動対策への働きかけは、国や大きな企業などへアプローチすることが多く、思うように進まないことも少なくありません。だからこそ、皆で協力することで大きな何かを少しでも動かせたときは、とてもやりがいを感じます。

もうひとつの転機は、をはじめたことです。気候変動の原因や自然界の状況、パリ協定って何? 1.5度目標とは? など、気候危機問題の基礎と、解決のためにどう行動することができるかを楽しく学べる無料のオンラインクラスです。すでに20名以上の方が講師のトレーニングを修了し、スタッフに加わって教えてくれています。

――今回、この連載のバトンをつないでいただいたアーティストのコムアイさんや、古着店DEPTオーナーのeriさんも受講していますね。

荒尾: が先に基礎クラスを受け、に勧めてくださいました。発信力のある人たちも受講してくださり、クラスで得た知識や感じたことをSNSなどで拡散してくださったことで、これまで届かなかった人たちにもこの問題への関心が広がったと思います。気候変動関連のアクションは参加してみると実は楽しいものも多いですが、解決までの道のりは長いものです。少し前までは、社会問題に興味があると「意識高い系」などと揶揄される風潮もありました。でも、eriさんやコムアイさんのようなインフルエンサーと呼ばれる方たちが、気候危機について学び、発信することによって、気候変動へのアクションが「かっこいいこと」「素敵なこと」だと感じてくれる人が増えたのではないかと思います。

朝日新聞telling,(テリング)

――私たちがすぐにできる気候変動への身近なアクションを教えていただけますか?

荒尾: まず、パワーシフト(電力会社の切り替え)は有効だと思います。再生可能エネルギーに基づいた電力で、地域との共生を目指している、地域が主役の電力会社を選ぶことが重要ですね。パワーシフトのHPなどを利用すれば、そうした電力会社を見つけることもできますよ。

マイボトルを持参する、オーガニックの食品を選ぶなど、身近なライフスタイルを変えることも効果的です。サステナブルな方向に自分で一歩を踏み出すと、環境にいいことをしているからと、気持ちも前向きになれて、その結果、気候危機など環境問題への感度が高まります。もっと何かしたい方は、ぜひ私たちのクラスを受講したり、ボランティアに登録したりしていただけたらうれしいです。未経験の方も多く参加していて、「ボランティアは生まれて初めてだったけど、参加してよかった」と喜んでいただいています。

でも、仕事が忙しい、育児が大変、または、健康状態がよくないなどさまざまな理由から、環境に配慮をする余裕がない人もいると思います。もし、コンセントから流れてくる電気がすべて再生可能エネルギーだったら、意識せずともサステナブルな電力を使った暮らしができます。だからこそ、「350 Japan」では、個人のライフスタイルだけではなく、世の中のシステム自体を環境に配慮したものへ変えることが非常に重要だと考えています。数分でできるオンライン署名など、システムの変化を後押しする手軽なアクションもありますからぜひをして情報をゲットして欲しいです。

朝日新聞telling,(テリング)

――荒尾さんは幼いころから環境問題に興味があったのですか?

荒尾: 自然が大好きな子どもではありましたが、我が家はごく一般的な家庭だったと思います。父はいわゆる転勤族で、私は幼稚園・小学校から転園転校を繰り返し、学校生活にうまくなじめない時期もありました。高校時代にその感覚が強くなり、日本から“一番遠い”アルゼンチンに交換留学へ行くことにしたんです。人々も時間もとても緩やかで、私がのびのびといられる場所を見つけたような気持ちでした。それで日本を離れ、アメリカの大学に進学することにしたんです。

大学では環境学を専攻し、長期休暇にはいろんな国や地域の環境保護のボランティアに参加しました。海の調査のサポートをしたホンジュラスでは、頻繁にシャワーが使えなかったので、バリカンで頭を丸刈りにしたことも(笑)。そうしたボランティアは楽しかったのですが、当時の私は環境学の授業の中には真のすばらしさを見出せませんでした。そんなとき、履修していた演劇クラスで先生にすごく褒められる機会があって。嬉しかったですし、もともと興味もあったので演劇科に転向し、改めて学び直すことにしました。

――環境問題から離れた時期もあったのですね。

荒尾: はい。ありがたいことに、フィラデルフィアでは舞台俳優の仕事に恵まれ、演出を手がける機会も得られました。そんなとき、街で友人にばったりと会い、「国際環境NGO 350.org」と日本チームの存在を教えてもらったんです。そのときは、「帰国したらボランティアで参加してみたいな」と思った程度でしたが。

写真家・演出家やなぎみわさんの作品「ゼロ・アワー」に出演。右から3人目=本人提供

実際、帰国後しばらくは、国内で俳優や映像作品のプロデューサーとして活動していました。ですが、アメリカでアーティストとしてリスペクトされていた俳優という職業と日本のエンタテインメントの業界の在り方にギャップを感じることも多くて、続けるべきか悩みを抱えるようになりました。そんなとき、「350 Japan」のスタッフに応募してみようと思い、2018年からはオーガナイザーとして働き始めることになりました。

――その後、お子さんも生まれましたが、それによるご自身の変化はありますか?

荒尾: いろんな方から尋ねられることですが、実は母になったからすごく未来を考えるようになったという感覚はないんです。仕事柄、気候危機によって暮らしが立ち行かなくなった世界中の人たちをたくさん見てきたため、それが未来の問題ではなく、現在の問題だと既に考えているからでしょう。私自身の人生も、あと50、60年生きたとして、その間に気候危機に大きく影響されることも十分考えられると思っています。

ただ、いま私たち家族が気候災害に遭い、避難が必要になったらどうやって娘を守れるだろうかと考えることは増えましたし、必要なものを備えるようになりましたね。NGOの仲間やボランティアの皆さんのように、自分だけでなく地球に住むみんなのために動いている人たちが私の周りにはたくさんいます。そうした、利他の気持ちを持つ大人たちに囲まれて育つことは、子どもにとって良い環境だなと思っています。

朝日新聞telling,(テリング)

みんなで進む温もりある未来に

――今後、取り組んでみたいことや深めていきたいことは何ですか?

荒尾: 「350 Japan」では、より多くの方に気候危機解決に向けての運動に参加していただけるよう啓発に力を入れていきたいです。例えば、アーティストの方とコラボをして親しみやすいMusic Videoのような動画の制作も視野に入れています。“面白くなければ運動じゃない”という発想があるんです。

個人としては、親の視点を活かして「ゼロウェイスト」をはじめとする気候危機の時代の子育てについてのブログや本を書いてみたいと思うようになりました。また、気候危機の運動と自分が身につけてきた演劇などの表現を結び付けて、ダンスやアートとのコラボレーションにも挑戦してみたいです。気候変動などの社会問題に取り組んでいると、その問題の大きさから、つい自分のことを後回しにしてしまいがちなのですが、絵を学んでみたいし、以前のように即興で踊るジャムに参加したりするなど、また身体表現の世界に身を置きたいなという気持ちがあります。

――では最後に、荒尾さんにとってサステナブルとは?

荒尾: サステナブルとは、ずっと未来まで生きていけるということなのだと思います。いま私たちは、自然界でも社会の中でも、1人、個であると感じていることが多いと思います。でも、意識する・しないに関わらず、人間だけ、または自分1人では世界は成り立ちませんよね。つまり、サステナブルに生きるには、みんなで進んでいく以外には達成できないと思うんです。そうした温かさが含まれていると感じて、とてもいい言葉だなと思います。

「私たちは自然とつながっている」という考え方は、先住民の方々の言葉として聞いたことがよくあります。世界の気候ムーブメントにおいても、先住民のリーダーの方々が自然とのつながりを取り戻すことの大切さを伝えてくださっています。産業革命以降、多くの人たちは自然から離れて、自然を搾取する社会で暮らしてきましたが、先住民の方々の多くは自然とともに生き、自然を守っていく知恵を後世に残そうと努力なさってきました。いまこそそうした生き方の知恵が必要だと思いますし、今年は自分自身ももっと、国内の先住民の方々の文化や歴史について知り、繋がっていきたいと思っています。

●荒尾日南子(あらお・ひなこ)さんのプロフィール
1981年、広島県生まれ。のリーダーとして気候変動解決に向けたムーブメントの構築、拡大に努める。都立国際高校からアルゼンチンの高校を経て、2001年に渡米。テンプル大学スクール・オブ・コミュニケーションで演劇を学ぶ。フィラデルフィアを拠点に、米英にて俳優、演出家として活動。帰国後はフリーのプロデューサーとして、ドキュメンタリー番組などを制作。翻訳家としても活動。数年前に都内から鎌倉へ転居し、自家製の豆乳づくりや、コンポストに取り組み、セカンドハンドの品々を利用するなど、サステナブルな暮らしを実践中。

■キツカワユウコのプロフィール
ライター×エシカルコンシェルジュ×ヨガ伝播人。出版社やラジオ局勤務などを経てフリーランスに。アーティストをはじめ、“いま輝く人”の魅力を深掘るインタビュー記事を中心に、新譜紹介の連載などエンタメ~ライフスタイル全般で執筆中。取材や文章を通して、エシカルな表現者と社会をつなぐ役に立てたらハッピー♪ ゆるベジ、旅と自然Love

■齋藤大輔のプロフィール
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。

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