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劇場まるごと芸術作品!まもなく100歳の「三越劇場」見学会でその魅力に浸る

  • 2024.2.26

2016年に国の重要文化財に指定された日本橋三越本店本館。その6階には約100年前にオープンした劇場があるのをご存じでしょうか。今回は不定期開催されている見学ツアーについて、都市商業研究所の若杉優貴さんが体験取材しました。

「日本初の百貨店」として知られる日本橋三越本店。この日本橋三越本店に、まもなく誕生から100年を迎える劇場――その名も「三越劇場」があるのをご存じでしょうか。

今回は、日本橋三越本店で不定期に開催されている「三越劇場見学会」に参加して「劇場自体が芸術作品」として名高い三越劇場の魅力を探ってみました。

日本橋のシンボル・日本橋三越本店。 館内にはまもなく開場100年を迎える素敵な劇場があります。(写真:若杉優貴)

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三越と百貨店の歴史に想いをはせる「三越劇場見学会」

筆者が参加したのは2023年12月におこなわれた三越劇場の見学会。三越劇場は日本橋三越本店の本館6階に設けられており、本館内の歴史ある装飾を堪能しながら向かいました。

クリスマスシーズンということで、エントランスではサンタ帽を被ったライオン像が迎えてくれました。(写真:若杉優貴)

筆者が三越劇場の館内に入るのは初めてのこと。居並ぶシャンデリアに出迎えられドアをくぐると、目の前に広がった光景はまるで異世界のよう。

荘厳な装飾に包まれながら深紅の座席に腰を下ろすと、まずは三越劇場副支配人・齊木由多加氏によって、スライドによる説明を交えつつ三越と百貨店、そして三越劇場の歴史がひもとかれます。

エントランスにはシャンデリアが。入館前から胸が高鳴ります。(写真:若杉優貴)

三越の前身は老舗呉服店「越後屋」。1673年に伊勢商人・三井高利によって設立され、つねに時代の最先端をいく店づくりで話題を集めました。1904年の「デパートメントストア宣言」によって呉服店から西洋式の「デパート」へと転換、1914年には現在の建物へと続く日本初のエスカレーターを備えたビルとなり、このころに中央通り沿いの正面入口にシンボルの「ライオン像」も設置されますが、1923年の関東大震災によって大きな被害を受けてしまいます。

三越劇場は、この関東大震災からの復興に合わせて1927年に「三越ホール」として開設されたもので、震災で大きな被害を受けたなか「建物だけでなく、文化的復興を」という想いがあったといいます。劇場の設計は横河工務所(現:株式会社横河建築設計事務所、品川区)。同社は1914年に日本橋三越本店のビル化を手掛けて以来、現在まで同店の建物の改修に携わっており、21世紀に入って以降も日本橋三越本店本館の免震バリアフリー化工事を行っています。

三越ホールは戦中・戦後の一時閉鎖を経て、1946年に「三越劇場」として営業を再開。間もなく開場100年を迎えますが、現在も開場当時のままの装飾が観客を迎えてくれます。2016年に日本橋三越本店本館が国の重要文化財に指定された際は、この三越劇場の美しい装飾が当時のまま維持されていることも高く評価されたそうです。

まずは三越劇場副支配人・齊木由多加氏によって劇場の歴史についてのレクチャーが行われました。戦前の「三越ホール」時代は現在よりも客席数が多く、座席間隔も狭かったそう。(写真:若杉優貴)

優美な装飾に包まれる三越劇場、「当時の最新設備」にも注目

それでは、劇場内の見学へと移ります。

三越劇場の客席数は全514席(1階402席・2階112席、1階は可動席があるため席数が少ない場合あり・後述)で、客席から舞台が近いことも特徴の1つです。なお、1927年の開場時はもっと座席間隔が狭く、客席数も多かったとのこと。また出入口などの高さも近年造られた劇場よりも低く、100年前の人々との「体格差」を感じさせられます。

客席は1階と2階の2層構造。2階席の柵にも緻密な装飾が。 2階下側の天井は低く、100年前の人々との「体格差」を感じることができます。(写真:若杉優貴)

劇場の内装はロココ調を基調にアレンジされたもの。ロココ調のみならず、ルネッサンス調、コロニアル調、和などさまざまな様式を感じさせられるような意匠も用いられており、見る角度――つまり座席の場所(席番)によっても印象が変わるため、訪れるたびに新たな発見がありそうです。

1階席の正面、舞台を取り囲むプロセニアムアーチ(額縁)の左右を彩る装飾は、三越のシンボルであるライオン。見学会ではこの翼が生えたライオンも間近に見ることができます。

プロセニアムアーチを護るライオン。これだけ間近で見ることができるのも見学会ならでは。(写真:若杉優貴)

1階席から視線を横に向けると、大理石の壁を彩る優美な石膏造りのレリーフが目に入ります。レリーフには、貝やタツノオトシゴ、魚の鱗(うろこ)など海の生き物をモチーフとしたものが多く見られるのも三越劇場の特徴の1つ。よく見ると、壁面レリーフの上部や足元(床面)には空調と通気・排気のための穴が空いており、それらの蓋(ふた)にも丁寧な装飾が施されています。こうした空調設備や消火用スプリンクラーも約100年前の開場当時から設置されていたそう。いかに近代的な劇場であったかが分かります。

大理石の壁面を飾るのは石膏のレリーフ。壁面レリーフ上や足元の穴は空調と通気・排気のため。蓋にも装飾が施されています。(写真:若杉優貴)
館内には随所に「海の生き物」をモチーフにしたと思われるデザインが見られます。(写真:若杉優貴)

2階席は「ステンドグラス」と「天井画」が目の前

続いて、2階席へ。2階へと向かう通路はあまり広くないものの、その途中にもシャンデリアが設置されています。

当時の人々の体型に合わせて造られているためか、天井が低い場所も。それゆえ各所に施された彫刻や、さらにはステンドグラスや天井画も間近に眺めることができます。

この三越劇場のシンボルの1つともいうべき照明のステンドグラスは、国会議事堂や警視庁旧庁舎などのステンドグラスも手掛けた別府七郎によるもの。別府七郎は伊勢丹新宿本店のステンドグラス(階段室に現存)を制作した「宇野澤スティンド硝子工場」の設立にも関わった人物で、こんなところにも三越・伊勢丹という老舗百貨店同士のつながりを感じることができます。

2階席の彫刻。まるで高級家具のよう。丁寧な仕事を手が届く距離で感じてみましょう。(写真:若杉優貴)
2階席からは1階客席を見下ろすことができます。2階からも舞台の見え具合はバッチリ。(写真:若杉優貴)

2階から見ると、1階からは分からなかった天井照明を彩るステンドグラスの立体感に驚かされること間違いなし。訪れた際にぜひ注目して欲しいポイントです。

また、天井画はステンシルで複数の色と模様を組み合わせたもの。よく見るとここにもライオンが描かれています。ステンドグラスの緻密さに息を飲んだあとは、天井を護るライオンの姿を探してみましょう。

2階席からはステンシルで描かれた天井画も目の前。よく見るとステンドグラスは立体構造であることが分かります。(写真:若杉優貴)

昭和レトロを全身で感じたあとは「スター気分」に!?

最後は舞台に上がらせていただきます。舞台の間口は約12メートル(6間)、奥行きは約6メートル(3間)。先述したようにプロセニアムアーチにも豪華で緻密な装飾が施されており、両端には翼の生えたライオンが控え、そして上部には三越の(越)マークが輝きます。

舞台を囲むプロセニアムアーチにも緻密な彫刻が。上部には(越)マーク。(写真:若杉優貴)

舞台上はもともと「ホール」として建てられたこともあって意外とコンパクト。舞台袖も狭く、また劇場専用の搬入口も無いそうで、演劇を行う際にはさまざまな苦労があることでしょう。

1階席の最前列は取り外せるようになっており、公演の際には舞台を広げることができるとのこと。また、戦前は下手側に常設の花道が設けられていたものの現在は撤去されており、可動式の花道を設ける場合には1階座席の中央部分に張り出すかたちで設置されるそうです。

舞台を彩る緞帳「麗」は、三越の株式会社化100年を記念して2004年に造られたもの。緞帳の後ろ側には、各地の舞台でよく見られる「火の用心」の文字に加えて「不撓不屈」の文字。そしてブザーが鳴って緞帳が上がると、別のエリアを見学しているお客さんから拍手が…気分はスターです。

緞帳には「不撓不屈」の文字が。手は説明をおこなう齊木副支配人。(写真:若杉優貴)
ステージから客席を眺めると気分は昭和の大スター!?(写真:若杉優貴)

三越劇場では、今回のような有料見学会を不定期で開催しています。参加するには、三越オンラインストア「三越劇場チケットショップ」、または三越劇場専用フリーダイヤル、日本橋三越本店店頭での事前予約・チケット購入が必要。気になる人は開催スケジュールをチェックして、「昭和の舞台スター気分」を味わってみてはいかがでしょうか。

参考:三越劇場見学会資料(2022):三越劇場三越オンラインストア「劇場について・座席表」https://mitsukoshi.mistore.jp/bunka/theater/about.html取材協力:三越劇場

若杉優貴

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