1. トップ
  2. レシピ
  3. なぜ日本の岸にはときたま「イワシが大量に打ち上げられるのか?」

なぜ日本の岸にはときたま「イワシが大量に打ち上げられるのか?」

  • 2024.2.24
  • 190 views
フィリピンの海岸に打ち上げられた大量のイワシ
フィリピンの海岸に打ち上げられた大量のイワシ / Credit:Cirilo Aquadera Lagnason Jr_Facebook

時折、「イワシなどの大量の魚が海岸沿いに打ち上げられた」といったニュースを耳にすることがあります。

日本であれば、2023年12月に北海道で発生し、人々の注目を集めました。

世界中でも同様の出来事が確認されており、最近であれば、2024年1月7日に、大量のイワシによってフィリピンの海岸線が銀色に染められる事件がありました。

このような「大量の魚の打ち上げ」の原因は様々な要因が絡みますが、日本やフィリピンのような場所でこの奇妙な事件がときどき起きる理由については、湧昇(ゆうしょう)」というキーワードで説明できる可能性があります。

これは地球近海が豊かな漁場であることとも関連します。

岸を埋めるほどの大量の魚が打ち上がる現象は、非常に不気味に見えますが理由を知るとそれほど恐怖の対象ではなくなるかもしれません。

目次

  • 世界では度々、大量の魚が海岸沿いに打ち上げられる
  • 深層の海水が表層に湧き上がる「湧昇」

世界では度々、大量の魚が海岸沿いに打ち上げられる

2023年12月、北海道函館市の海岸に、イワシなどの魚が大量に打ち上げられました。

ある専門家は、「イワシが、イルカやマグロなどの捕食者に追われて浜辺に逃げた結果」だと推測しています。

また2024年1月にも、北海道の斜里町で、寒さで凍ったイワシが大量に発見されました。

この度の原因は、「寒波の影響」だと考えられています。

水温が下がることでイワシたちは身動きが取れなくなり、打ち上げられてしまったというのです。

このように、「大量の魚の打ち上げ」は日本で度々確認されており、その原因も様々です。

そして同様の現象は、世界各地で生じています。

最近では、2024年1月7日に、フィリピン諸島の南端に位置する「ミンダナオ島」の海岸に、無数のイワシの群れが打ち上げられました。

https://www.facebook.com/plugins/post.php?href=https%3A%2F%2Fwww.facebook.com%2Fcirilo.lagnason%2Fposts%2Fpfbid0266q86pywKB3uCaVpW3BETitRSkPjB68otSNKCT1eTtY7SZZ5hF1GusvQFomhsSPil&show_text=true&width=500

その打ち上げられたイワシの数は、なんと数百万匹にも上ると推測されており、それら死んだ魚によって海岸線が銀色に変わりました。

原因不明で打ち上げられた魚を食べたいとはあまり思いませんが、フィリピンではこのイワシは、地元住民によって回収され食べたり売ったりされたようです。

ある地域では、100人以上がそれぞれ20~30kgものイワシを集め、一部の人はこの現象を「神からの贈り物」だと考えているそうです。

住民の魚の使い道はともかく、このような海岸への魚の大量打ち上げは、一体なぜ起きるのでしょうか?

このようなケースでは、魚の打ち上げから約48時間後にその地域が強い地震に見舞われることがあり、「魚たちが差し迫る自然災害を察知して浅瀬に逃げた」と考える人もいるよううです。

しかしこの出来事を直接目撃したフィリピン・サランガニ湾保護区管理局(PAMO)の研究者シリロ・アクアデラ・ラグナソン・ジュニア氏によると、この度の魚の打ち上げは地震とは関連していないといいます。

では何が原因なのかというと、彼はこうした出来事は湧昇(ゆうしょう)」と呼ばれる現象が関連していると説明しています。

魚を大量に海岸へ打ち上げる湧昇とは、どんな現象なのでしょうか。

深層の海水が表層に湧き上がる「湧昇」

湧昇(ゆうしょう)またはUpwellingは、海水が深層から表層に湧き上がる現象のことです。

通常、表層の海水と深層の海水は、温度や塩分濃度など性質の違いにより混ざり合うことがありません。

しかし、特定の条件が満たされることで、深層から表層へと海水が一時的に湧き上がることがあるのです。

その条件を満たした限られた地域では、長期的に「湧昇」が発生し続けることがあります。

では、湧昇が起こる条件とは何でしょうか。

その条件の1つは「エクマン輸送」です。

北半球で風が岸に沿って北向きに吹いたとき表層の海水はコリオリの力を受けて風に対して右方向に移動する。すると岸から水が失われるため深層の海水が引き上げられる。
北半球で風が岸に沿って北向きに吹いたとき表層の海水はコリオリの力を受けて風に対して右方向に移動する。すると岸から水が失われるため深層の海水が引き上げられる。 / Credit:Wikipedia Commons_Upwelling

エクマン輸送は風の動きに対して海水がどの様に移動するかを説明するもので、北半球では、北方向に向かってまっすぐ風が吹いたとき、表層の海水はコリオリの力(地球の自転で発生する見かけの力)によって、右方向の力を受けるのです。

コリオリの力が関係する問題は、文章の解説としては複雑になりがちなので、詳しく理解したい人はエクマン輸送を解説した動画を見た方が良いかもしれません。

 

ともかくここで言いたいことは、沿岸沿いに南風(北に向かう風)が長く吹いた場合、表層の海水は岸から離れるように移動し始めるということです。

すると岸の近くの海水がなくなってしまうため、それを補うために深層の海水が引き上げられて来ます。こうして深層から表層への急激な海水の移動が起きるのがエクマン輸送による「湧昇」です。

ちなみに、エクマン輸送以外にも、岸の近くで急速に海底が深くなっている場所や、海洋火山がある場所では深層の海流がこの崖にぶつかることで表層に向かって湧き上がるように移動する「湧昇」が発生します。

湧昇により栄養豊富な深層水が上昇すると、プランクトンやそれらをエサとする魚が増加する
湧昇により栄養豊富な深層水が上昇すると、プランクトンやそれらをエサとする魚が増加する / Credit:National Ocean Service

そして湧昇によって湧き上がる深層の海水は、表層よりもはるかに栄養豊富であり、これにより植物プランクトンが急激に増殖します。

次にそれらをエサとする動物プランクトンが増え、さらにそれを食べるアジやイワシ、最終的にはイルカやマグロ、サメなども集まってくるのです。

そのため湧昇が起きやすい地形の海は、非常に漁獲量が多い豊かな海になります。

日本の近海が豊かな漁場である理由も、日本の周辺には季節風、貿易風が吹いており、また親潮と黒潮が複雑な島の地形にぶつかるため湧昇が起きやすいことに関連しています。

フィリピンでも似たような状況があり、ラグナソン・ジュニア氏によると、この度のフィリピンにおける大量のイワシの打ち上げの背景には、深層のプランクトンが沿岸の湧昇によって岸に大量に移動し、これを餌として追っていたイワシが知らぬうちに浅瀬にたどり着き、打ち上げられてしまった可能性が高いというのです。

https://www.facebook.com/plugins/post.php?href=https%3A%2F%2Fwww.facebook.com%2Fmadz1910%2Fposts%2Fpfbid0aDtHC8VFnYcW1a9eZZxvgJ12DCPNn42yA5VhYS792brj94U1BptcXkosfo8UpGvsl&show_text=true&width=500

また「打ち上げられたイワシの大半は幼魚であり、このこともイワシのグループの方向感覚を失わせる一因となった可能性がある」と付け加えています。

もちろん湧昇自体が直接イワシの打ち上げに関与しない場合もあります。

しかし、日本でもたびたびイワシの大量の打ち上げがニュースになるのは、1つに日本近海も湧昇の影響でイワシなどが大量に育つ豊かな環境が作られている事が関連しています。

確かに「大量の魚が海岸沿いに打ち上げられる現象」は、人々に恐怖を与え、時に様々な憶測が広がります。

地震の前触れだったというのもその1つでしょう。しかしラグナソン・ジュニア氏は、座礁事故の直後に地震が起きたのは単なる偶然の可能性が高いと話ます。

環太平洋は地殻変動の激しい地域であり、海底の地震はいつも起こっています。そのためこの地域に住む魚を狂わせる原因にはなりにくいと考えられるのです。

不気味に見える大量の魚の打ち上げは、大抵の場合は、「自然の作用」として科学的に説明することができ、「恐れるべきものではない」ことが分かります。

ニュースで見かけると一般の人々はかなり驚きますが、一方で専門家が非常に冷静なのはそれが理由です。

今後生じる「大量の魚の打ち上げ」に関しても、その原因を冷静に探ることで安心できるはずです。

参考文献

Bizarre incident of fish jumping out of water in Philippines caused by upwelling, not earthquake
https://www.livescience.com/animals/fish/millions-of-fish-descend-on-philippines-beaches-in-bizarre-photos-and-video

Upwelling
https://oceanservice.noaa.gov/education/tutorial_currents/03coastal4.html

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる