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差し替え案を拒否…月10ドラマ『アンメット』の杉咲花から目が話せない理由

  • 2024.4.29

目が離せない、ずっと見ていたい、と思う俳優がいる。近年では『市子』(2023)や『52ヘルツのクジラたち』(2024)などの真摯な演技が、また新たな評価に繋がっている杉咲花。そんな彼女が主演を務めるのは、2024年春クールドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(フジテレビ系列)。記憶喪失の脳外科医・川内ミヤビを演じている。Yuki Saito監督との対談で明らかになった彼女の「覚悟」が話題だ。

監督との対談で明らかになった「日記」と「手術シーン」の裏側

『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016)で第40回日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞ならびに新人俳優賞を受賞し、連続テレビ小説『おちょやん』(2020)で名を轟かせる俳優の一人となった、杉咲花。

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ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』第3話より (C)カンテレ

彼女が記憶喪失の脳外科医・川内ミヤビ役として主演を務めるドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』では、その公式サイト上にて、本作の監督を務めるYuki Saitoと杉咲の対談を掲載している。

対談内には、杉咲が主人公・川内ミヤビをどう解釈しているかが語られ、それを受けたYuki Saitoが杉咲とミヤビとの共通点を挙げる流れがある。「誰にでも対等に向き合う人」「先天的にフェアなところ」と詳述される要素は、確かに杉咲自身のパブリックイメージに通じている。

そんな二人の話から明らかになったのは、本作のキーアイテムである「日記」と、医療ドラマとして欠かせない「手術シーン」の裏側について。

主人公・ミヤビは、一年半前に遭った交通事故によって脳に損傷を負い、事故の半年前も含めて約二年の記憶を失っている。そのため、寝て起きたら昨日の出来事は忘れてしまっている。

そんな彼女の命綱ともいえるのが「日記」だ。その日に何をし、誰に会い、どんな話をし、どこへ行ったのか。日ごろ接する仕事仲間や患者の情報も含め、一日一日を積み重ねるように記録している。朝起きるたび、仕事場である病院内で何か起こるたび、大きく分厚い日記をめくって内容を確かめる描写が、頻繁に挿入される。

映像に映される日記の文字は、なんとすべてが杉咲自身の直筆であるという。実際には映像に映らないページも含め、彼女自身が書いていると想像できる。1話の終盤、すでに書かれている一文をミヤビ自身が横線で消し、新たに文字を書き加えるシーンがあるが、この一連の流れに説得力を持たせるためにも、俳優本人の直筆である意味は大きい

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ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』第2話より (C)カンテレ

くわえて1話には、手元の細やかな動きまで映る手術シーンがあったが(血管の吻合手術)、こちらも杉咲自身が演じている。

当初は、手元のアップが映りやすく、とくに難しいとされている脳外科の手術シーンであることを考慮し、手元だけ差し替える案で進んでいた。しかし、杉咲自身が進言したことで俳優本人の手元が使われることになった。監修に入っている医師から手術の練習用キットをもらい、2023年10月からクランクインまでの間、練習に励んだという。

なぜ、杉咲花の演技は「ずっと見ていたくなる」のか?

一連の裏話から解釈できるのは、作品や役に対する杉咲の、俳優としての覚悟である。

2023年公開の映画『市子』の撮影においても、彼女は、自身が演じた市子という役について「私生活にまで影響を及ぼした役」「心が侵食されすぎるのは怖い。演じる役のことを知った気になってしまうから」と語っている(2024年2月放送『スイッチインタビュー』)。

俳優にとって、作品や役のことを「理解できる」ことは、喜ばしいことのように思える。しかし、杉咲は理解しすぎることを恐れ、自らに警鐘を鳴らした。対象のことを「わかった」と感じることは、しばしば「わかったような気になる」と同義であり、そんな姿勢は傲慢かもしれないことを『市子』を通してあらためて感じたのかもしれない。

それはどこまでも、彼女が作品や役に真摯に向き合う役者であることを示している。

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ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』第2話より (C)カンテレ

『52ヘルツのクジラたち』(2024年)でヤングケアラーの貴瑚を演じた際も、杉咲がまずしたことは、膨大な資料を読み込むこと、そして有識者の話を直に聞くこと。貴瑚に歩み寄るためには、彼女が受けた傷について知ること、そして心情を想像することが先決だとする杉咲のアプローチは、「効率」や「近道」から真逆をいく

なぜ、杉咲花の演技は「ずって見ていたくなる」のだろう? なぜ、ここまで目が離せないのだろう?

それはきっと、彼女の小柄で可愛らしい容姿や、花畑を思わせるような声色からは測れない、作品や役への真摯な姿勢と覚悟を感じるからだ。『アンメット 脳外科医の日記』は早くも、役者・杉咲花の代表作として知られることになる。


番組概要:カンテレ・フジテレビ系全国ネット ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』毎週月曜よる10時

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_