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なぜ視聴者は“一ノ瀬ワタル”を応援したくなるのか? ドラマ『アンチヒーロー』から滲む魅力

  • 2024.4.22

一ノ瀬ワタル演じる尾形を応援したくなる理由

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日曜劇場『アンチヒーロー』第1話より (C)TBS

『アンチヒーロー』で一ノ瀬ワタルが演じたのは、殺人事件の被告人となった緋山啓太(岩田剛典)と同僚の男・尾形仁史。二人が働く工場長が殺され、その犯人容疑で緋山が捕まる。尾形はたまたま現場に居合わせた人間として、見聞きしたことを証言する立場に。

事件に巻き込まれた焦りもあってか、粗暴な言動が目立つ尾形だが、もともとは文句を言いつつも休日は競馬に勤しむ、ごく普通の男性に見える。弁護士・明墨に気圧され、証言の粗を突かれるとともに、少しずつ冷静さを失っていく過程を見ていると、俳優・一ノ瀬ワタルの安定した表現力を感じずにはいられない。

物語の序盤から中盤にかけて、犯人は緋山で間違いないといった前提で進行していく。ところが明墨の、重箱の隅をつついてまわる草の根捜査によって、尾形が抱えた「とある障害」が明らかになる。

その途端に、風向きが一気に変わる。緋山は犯人ではない可能性が浮かび上がってしまい、それと同時に「もしや尾形が真犯人なのでは?」と視聴者に思わせる方向に舵が切られるのだ。

しかし、尾形を疑いたくはない。愛想がなく、言動もそっけなく、競馬に夢中なせいでお金の使い方も荒い男だが、なぜか彼が犯人であってほしくはないと願ってしまう、不可思議な魅力がある。

それは、一ノ瀬ワタルだからこそ醸し出せる親近感や、気づいたら相手の懐に入っているような「懐柔力」とでも言うべき、人の心を油断させる愛嬌のせいだろうか。

明かされた障害が事件の鍵か

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日曜劇場『アンチヒーロー』第1話より (C)TBS

1話の終盤で尾形の「とある障害」が明かされるが、おそらくこの件が、緋山をめぐる事件の鍵になるだろう。

事件を解決に導くうえで、尾形の障害に触れることは避けられない道だった。しかし尾形にとっては、公の場で自身のデリケートな面を晒されたのだ。心中穏やかではないだろう。実際に本編でも、明墨に対し「あんた人の病気のこと晒してまで勝ちたいのか?」と責める尾形のシーンがある。

明墨のやり方は非道で、まさに「アンチヒーロー」を体現するような姑息さが目立つ。しかし、尾形の障害を晒した件については「業務に影響がない範囲内での病気を理由とする解雇は、不当解雇にあたります」「障害を理由に差別するような奴らは、絶対に許してはいけませんよ」と明言してもいる。

この事件の、ひいては、この物語の根幹にも相当するような言葉を受けた重要なキャラクターとして、一ノ瀬ワタル演じる尾形の存在は外せないものとなるだろう。

一ノ瀬ワタルを知る名作ドラマ

一ノ瀬ワタルの演技の魅力を知ることのできる名作として、Netflix配信ドラマ『サンクチュアリ -聖域-』(2023)とテレビ朝日系列ドラマ『ハヤブサ消防団』(2023)を挙げたい。

もはや、言わずもがなの有名作である『サンクチュアリ -聖域-』は、俳優・一ノ瀬ワタルの存在を国内外に広めた。荒くれ者の主人公・小瀬清が、四股名・猿桜として相撲界でのし上がっていく様を描いたドラマだ。

稽古シーンを含め、目を覆ってしまいたくなるような暴力的なシーンも目立つ。しかし、この作品のために一ノ瀬ワタルがどれだけの覚悟をもって準備に臨んだかを知れば、より鬼気迫る演技に目が離せなくなるに違いない。

『ハヤブサ消防団』には、とある事件の容疑者として疑いをかけられる男・山原浩喜として出演。登場シーンは決して多くはない。しかし、彼を見ていると「この男なら、やっていてもおかしくない」という気持ちと、「誤解されやすいだけで、真犯人は彼ではない」という気持ちが入り混じる。なんとも繊細な表現は、『アンチヒーロー』の尾形にも通じるものがある。

なぜ、一ノ瀬ワタルが演じるキャラクターは、軒並み応援したくなってしまうのか? ドラマ、映画、CMと露出の場を増やし続けている彼の魅力は、どこまで深掘りしても、底が見えない。



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_