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ただの“ラブコメ”じゃない!生見愛瑠の『くる恋』が“最高に面白い”二つの理由

  • 2024.4.16

火曜よる10時放送のTBS系列ドラマ『くるり〜誰が私と恋をした?〜』が、早くも2024年春クールのダークホース的存在として位置を確立させつつある。「記憶喪失になった主人公が、自分と恋をしていた相手を探し当てる話」と聞くと、ドタバタ系のラブコメを想像してしまうだろう。しかし、ただのラブコメドラマじゃない理由が二つある。

理由1. めるるの演技力

一つ目は「主演・生見愛瑠(通称・めるる)の演技力」。

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火曜ドラマ『くるり〜誰が私と恋をした?〜』第1話より (C)TBS

『Popteen』『ニコ☆プチ』のモデルとしてキャリアをスタートさせためるるが、その圧倒的なルックスで頭ひとつ抜きん出たきっかけは、AbemaTVの恋愛リアリティーショー番組『太陽とオオカミくんには騙されない』への出演。同じく大人気俳優となっている高橋文哉との恋愛模様が話題を呼んだ。

おそらく、この時点でドラマ・映画のキャスティング界隈は、とっくに彼女に目をつけていたはず。

日テレ系列ドラマ『おしゃれの答えがわからない』でドラマ初主演を果たし、その後『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』(2021/日テレ系列)『石子と羽男-そんなコトで訴えます?- 』(2022/TBS系列)など立て続けにGP帯のドラマに出演。2023年には『モエカレはオレンジ色』で第46回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞している。

彼女が、モデルとしてだけではなく、演技力が約束された俳優として認知されるに至った理由は、その引き出しの多さにある。

バラエティ番組では、少しおバカで天然なキャラクターを押し出しつつも、前述した『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』では主人公・赤座ユキコ(杉咲花)の恋のライバル役・橙野ハチ子を演じた。

そうかと思えば、『石子と羽男-そんなコトで訴えます?- 』で演じたのは、とある事故がきっかけで被告人となってしまった女性・堂前一奈。1話のみのゲスト出演だったにも関わらず、少々荒れて影がありつつも、姉の絵実(趣里)を慮る優しい妹の表情まで演じ分けて見せ、確実に爪痕を残した

そして『日曜の夜ぐらいは…』(2023/テレビ朝日系列)『セクシー田中さん』(2023/日テレ系列)と、次々とメイン級の役が続く。『くるり〜誰が私と恋をした?〜』でGP帯連ドラ初主演となったのは、大抜擢であり、着実に重ねてきた経験と爪痕が結果に結びついた証拠でもある。

理由2. 深いメッセージ性

そして二つ目が「『自分とは何か?』と問いかける深いメッセージ性」である。本作には、記憶喪失モノに特有のドタバタラブコメ劇を凌駕する、一本の軸がある。それは『自分らしさ』とは、一体なんなのか? という視点だ。

めるる演じる主人公・緒方まことは、とある事故で記憶がなくなってしまい、自身の鞄に入っていた男性用の指輪(少なくとも、まことの指には合わない)を手がかりに「自分と恋をしていた相手」を探すことになる。

彼女の前には三人の男性が現れた。おそらく彼らのうちの誰かが「指輪を渡そうとしていた相手」なのだが……。元カレ・西公太郎(瀬戸康史)、唯一の男友達・朝日結生(神尾楓珠)、運命の相手・板垣律(宮世琉弥)のうち、まことの真の恋人は、果たして誰だったのか?

どうしたって、ドタバタラブコメを想像してしまうあらすじだが、本作が大事にしているキーワードは「自分らしさ」である。

まことは、自室のクローゼットに掛けられた服の色合いや、職場の同僚たちの様子、そして自身のSNSに投稿されていた一辺倒な写真から、どうやら自分は可もなく不可もなく、何ごとも穏便に済ませたがる、薄くてつまらない人間だったのだと自覚してしまう。

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火曜ドラマ『くるり〜誰が私と恋をした?〜』第1話より (C)TBS

同僚たちと当たり障りない距離感を築き、誰も傷つけず、自分も傷つかないよう生きてきた「記憶喪失前の緒方まこと」。自分の好きな服を着て、上司によるセクハラまがいの言動にも真正面から物を申すようになった「記憶喪失後の緒方まこと」に対し、朝日は「大人しくしていたほうがいい、頑張ってきた緒方がかわいそうだ」と忠告をする。

果たして、記憶をなくしてしまったら、その人らしさも失われてしまうのか?

その人らしさを形作るものは、記憶以外にないのだろうか?

自分を自分たらしめるものは、何なのか?

きっとまことは、三人の男性のなかに隠れた「真の恋人」を探すとともに、本来の自分らしさとも向き合っていくのだろう。

まことが指輪を渡そうとしていたのは誰?

まことが持っている手がかりは、鞄の中に入っていた男性用の指輪のみ。指輪のサイズが合う男性が運命の相手……ということになるが、いまのところ、三人全員にその可能性が開かれている。

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火曜ドラマ『くるり〜誰が私と恋をした?〜』第1話より (C)TBS

西公太郎は自分のことを「元カレ」と断言しているので、まことが記憶をなくす直前まで関係が持続していたとは考えにくい。しかし、まこと自身が公太郎のことを諦めきれず、逆プロポーズをするつもりで指輪を持っていたとすれば、ない話ではない。

朝日は同期で唯一の男友達だが、入院していたまことの見舞いに一人でやってきたこと、彼女を見た瞬間に「緒方さん!」と呼びかけているが、まことが記憶喪失であることを知った瞬間に「緒方」と呼び捨てになっていることから、少し含みが感じられる。少なくとも公太郎よりは裏がありそうな言動が多い。

自称・運命の相手である律がまことと出会ったのは、すでに彼女が記憶喪失になったあとなので、もともと恋人であった線は薄いだろう。仮にこのまま律が「自分が運命の相手だ!」とゴリ押しし、まことと新しい関係性を作っていけば、結果的に「指輪のサイズが合う真の恋人」のポジションにおさまるかもしれないが、ドラマとしてはやや乱暴なつくりである。

果たして、まことが指輪を渡そうとしていた相手は、三人のうち誰なのか? それとも指輪には、また別の意味合いがあるのだろうか?

1話の時点でおもしろさが確立している本作。2話以降の物語の動きによって、着地点が変わってくるだろう。そんなミステリー要素も含め、本作はすでに2024年春クールのトップに踊り出ようとしている。



番組概要:TBS系 火曜ドラマ『くるり〜誰が私と恋をした?〜』 毎週火曜よる10時

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_