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女は「バカなふり」で幸せをつかめ?朝ドラ『虎に翼』が伊藤沙莉で大成功している理由

  • 2024.4.7
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連続テレビ小説、通称朝ドラの主人公に必要な気質とはなにか? 朝8時からの15分、一日のスタートを決定づける大事な時間に見たいのは、否応なしに応援したくなる主人公の姿だ。『虎に翼』で、日本初の女性弁護士の一人・三淵嘉子をモデルとした寅子を演じるのが、俳優の伊藤沙莉。彼女のこれからの人生を応援したくなる、これ以上ない一週目「女賢しくて牛売り損なう?」が放送された。

ことわざにもあらわれる男尊女卑

4月1日から放送された第一週目「女賢しくて牛売り損なう?」の副題からして秀逸だ。このことわざの意味は「女性が賢いふりをして出しゃばったら、目先の利益に騙されて損をする」である。そもそもなぜ、こんなことわざが存在するのか、理解するのが難しい。

まさに『虎に翼』の寅子が賢い女性であり、法律の道に進んで弁護士になるという出しゃばった真似をしたら、嫁に行き遅れて地獄を見ることになるぞ……と示唆しているのだ。

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(C)NHK

女性にまつわることわざをザッと挙げると「女三人寄れば姦しい」「色の白いは七難隠す(髪の長きは七難隠す)」「女の一念岩をも通す」などがある。

それに反し、男性にまつわることわざには「男が廃る(男が立つ)」「男は度胸、女は愛嬌」「男は松、女は藤」といったものがある。

女性に対しては、その性質を外側から勝手に決めつけ「女であるからには、こうあるべき」と男性から解釈した価値観を押し付けるものが多い。容姿の美醜に触れたものさえある。

相反するように、男性にまつわることわざには、男性として生まれた時点で一定以上の価値と立場があり、それを守り抜くための姿勢について説かれたものが多い。男性であるからには強くあらねばならない、というプレッシャーは、平成から令和にかけてようやく顕現化しつつある。

寅子を応援したくなる理由

下宿人・優三(仲野太賀)が通う大学へ弁当を届けに出たのをきっかけに、法律に興味を持ち、弁護士になる夢を抱くようになった寅子(伊藤沙莉)。しかし、母・はる(石田ゆり子)の猛反対に遭う。

はる自身も、進学を諦めて結婚した身。口では「お父さんと結婚して悔いはない」と言っているが、学校に入り、思う存分に学べたらどんな人生だったろう、と思う瞬間もあっただろう。それでも、この時代、女性は早く嫁入りしたほうが幸せになれると信じ込まれていた

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(C)NHK

はるが言った「賢い女性が幸せになるには、頭の悪いフリをするしかない」は、現代においても根深い問題である。

「男は度胸、女は愛嬌」ということわざにも表れているように、優秀な女性が、男性と肩を並べることは求められていない。俗にいう「女性の社会進出」なんて、決して熱望されてはいない、と思えてならない。

優秀じゃないフリをして、愛嬌を振りまき、早めに結婚をする。それしか幸せになる道がない、そんな閉ざされた状況は、昭和から変わっていないのかもしれない。

それでも、だからこそ、伊藤沙莉演じる寅子を応援したくなる。家族からお見合いを進められ、黙って結婚したほうが幸せになれる……かどうかはわからないけれど、少なくとも場は丸くおさまる状況において、違和感から目を背けなかった。

母からの「地獄をみる覚悟はある?」の問いに、真正面から目を見据えて「ある」と答えた彼女の勇気があったからこそ、女性初の弁護士が生まれ、性別によって職業選択が左右されない時代に近づきつつある。

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(C)NHK

確かに寅子がこれから進む道は、楽ではない。地獄かもしれない。逆境に苦しみ、泣く寅子を見ることになるかもしれない。それでも応援したい。心を強く保ち続けた寅子と、伊藤沙莉が表現する真摯でまっすぐな視線がリンクする。そんな姿と自分の心が、どうしようもなく重なって見えるから。



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_