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「失敗したら終わり」本当のアンチは“何も知らない部外者”だった?TBS『不適切にもほどがある!』

  • 2024.3.19

失敗、ミス、挫折……気づいたらこの世のなかは、たった一度でも誤ちを犯したら修復困難な時代になってしまった。インターネットやスマートフォンが台頭し、一億総発信時代と呼ばれるほど、誰もが情報を発信できるようになった事実も大きい。「失敗したら終わり」という恐怖が、世界を覆っているように思えてならない。

“たった一度の不倫”で……

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金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』第8話より (C)TBS

順風満帆な新人アナウンサーとして華々しくデビューするも、一度の不倫で地に落ちてしまった倉持猛(小関裕太)。謹慎、そして数年のAD業務を終えて、そろそろ復帰の時期か……?と思いきや、朝の情報番組に数秒ほど登場しただけでも、インターネット上が荒れてしまった。
蓋を開けてみると、リアルタイムで視聴していたらしいユーザー(かつ、感想を投稿した)は2人。その投稿を見たWebライターが記事にし、その記事を見た大多数の“番組を見ていない勢”が倉持を叩き上げていた。実際に見ていないのに、詳細を知らないのに、言いたいことを言う心理とは?

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金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』第8話より (C)TBS

昭和と比べて、令和の今は「アンチ」と呼ばれる誹謗中傷が多いように感じられる。しかし、インターネットやSNSがあるせいで可視化されてしまっているだけで、きっと大多数の心理は昔から変わらないのではないだろうか。お茶の間でテレビを見ながらやいのやいの言う光景は、SNS上でドラマ名のハッシュタグをつけて感想を投稿するのと、本質的には変わらない。

形が違うだけで、言いたいことを言いたい、あわよくばそれを聞いてもらって共感してほしい、盛り上がりたい、という欲望に変化はないように思える。インターネットやSNSのおかげで変質してしまったのは「実際に見ていなくても、見たように装える点」にある。

栗田(山本耕史)が、他人の妻から昔の不倫を咎められ続けるシーンにもその片鱗は垣間見えた。妻ではなく、全く関係のない人間が栗田を責め立てる様子に、思わず小川(阿部サダヲ)は「気持ちわり…」と呟く。他人の不倫を責める彼女たちは、盛り上がりたい欲望が先行しているように見える。

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金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』第8話より (C)TBS

画面をタップすれば、該当する番組やドラマを見た視聴者の感想が溢れている。それさえザッと眺めれば、実際には見ていないけれども、ほぼ見たのと同じ情報が得られる。
とくに令和はタイムイズマネーの精神が重視され、「タイムパフォーマンス=タイパ」という言葉が生まれるほど、何よりも時間が重宝される時代だ。仮に約1時間の番組やドラマを見ずとも、数分SNSを眺めるだけで同等の情報が得られるなら、楽なほうに流れてしまうのが人の心理なのかもしれない。

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金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』第8話より (C)TBS

一度だけ不倫してしまった倉持が、執拗に叩かれる様を見ていてもわかる。楽に得た情報で、楽に他者を批判できれば、自ずと自分の人間性が清廉であると錯覚できる。「私はこんなバカな真似はしない」「私は誠実で立派な人間だ」と思えることで、自尊心や優越感を満たしたいのだろう。ほかに誰も、満たしてくれる人がいないから。

反抗は「甘え」ている証拠?

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金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』第8話より (C)TBS

令和で一定期間を過ごし、元の昭和に戻ってきた純子(河合優実)は、これまでのスケバン姿を卒業した。心機一転、勉強して進学を目指すことにしたようだ。彼女がサカエ(吉田羊)と話していたなかに「かわいい子でいたほうが得だって気づいただけ」「反抗って結局、甘えなんだよね」という印象的なセリフがある。

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金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』第8話より (C)TBS

昭和から令和にかけて、いわゆる「スケバン」「ツッパリ」は絶滅した。少なくとも、大人に楯突くこと、反抗することがカッコいい、とされる時代はとっくに終わりを迎えているように見える。
それはつまり、純子の言ったように「反抗は甘え」だから。わざわざ反抗する(=反抗できる)ということは、身近にいる親や教師など、わかりやすく“敵対”してくれる大人がいるからこそ。立ち向かってくれる相手がいてこそ、反抗は成り立つ

現代では一人ひとりの意見や多様性が尊重され、さまざまな立場が重視される。反抗し、力づくでどうにかする強行突破よりは、お互いに相手の言うことを聞いてから次の道を探す合理的なやりとりが「是」とされる。言ってしまえば、反抗心が成立しにくい時代だ。

大多数の人の意見が、SNSで可視化されるようになった点も大きいだろう。自分の言っていることは多数派なのか、それとも少数派なのか。他者の意見を容易に知れるようになったということは、そのぶん、自分の立ち位置も決めやすくなったことと同義だ。
かといって、安易に「生きやすさ」「生きづらさ」には結びつけられない。どれだけインターネットやSNSが進化し、簡単に人と人が繋がれるようになったとしても、今度は「繋がる」ことによる閉塞感が心を覆う。

反抗しにくくなった、つまりは、そう簡単に甘えられなくなった令和という時代。もしかしたら、より生きにくくなったように感じている人のほうが、多いのかもしれない。


番組概要:TBS系 金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』 毎週金曜よる10時

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_