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世界最強なのに所持率は6人に1人。日本人がパスポートを持たない理由

  • 2024.2.17

【2024年2月17日更新】世界トップクラスの自由度を誇る日本パスポート。にもかかわらず、日本のパスポート保有率は、わずか6人に1人という先進国最低水準(令和4年旅券統計によると日本人のパスポート保有率は17.8%)。世界最強のパスポートに恵まれているにもかかわらず、多くの日本人が海外に行こうとしないのはなぜなのでしょうか。その理由を紐解いてみると、日本独特の事情が見えてきました。

 

 

日本人のパスポート保有率は6人に1人

各国のパスポートの自由度を測定するヘンリー&パートナーズの「パスポートインデックス」2024年版で、前回3位に後退していた日本が首位に返り咲きました。つまり、日本のパスポートは世界最強なのです。

にもかかわらず、令和4年の旅券統計によれば、日本人のパスポート保有率は約17.8%。なんと、日本人の6人に1人しかパスポートを持っていない計算になります。これは先進国では最低水準と指摘されており、日本人の海外渡航への関心度の低さが浮き彫りになっています。(出典:外務省 令和4年1月〜12月旅券統計)

アメリカ人のパスポート保有率は約5割

ちなみに、「外に目が向かない」と揶揄されることの多いアメリカ人のパスポート保持率は年々右肩上がりで、2022年時点で、米国の人口の約5割に相当する1.5億人が保有。実はアメリカは、日本よりも圧倒的にパスポート保有率が高いのです。(出典:JNTO 日本政府観光局)

パスポートを持たないということは、「海外に行く予定がない」または「海外に行く意思がない」ということ。日本人が海外に行こうとしない理由は何なのでしょうか。考えられる理由を見ていきましょう。

言葉の壁

世界的に見て、日本人の英語力は決して高いとはいえません。海外には、外国語ができない日本人が安心して旅行できる場所がほとんどないため、言葉の壁や外国語への苦手意識が海外旅行をためらわせる理由のひとつなのではないでしょうか。

筆者は、旅行会話程度なら英語に不自由することはありませんが、中央アジアなど、英語の通用度が低い国や地域を旅すると、心もとない気持ちになります。英語がほとんどできず、ほかの外国語も知らない人は、世界中ほとんどどこに行ってもそんな思いをするわけで、言葉の壁が海外旅行のハードルになるのは、ある程度仕方のないことだと思います。

言葉が不安なら、ガイド付きのツアーに参加する、翻訳アプリを活用するなど、方法はいくらでもありますが、外国語に苦手意識の強い人は、海外に行くこと自体に対する抵抗感が強いことが多いので、「何らかの方法で言葉の壁を解消して、海外旅行を楽しもう」という気になりにくいのでしょう。

安全面の不安

日本は世界でもトップクラスの治安の良さを誇る国。それだけに、「海外=危険」というイメージがあり、「海外旅行は危ない」と考えてしまっている人もいます。

日本と比べてしまうと、世界の多くの国が「治安が良い」とはいえないのは事実ですが、実際には、日本と同等の治安の良さを誇る国や、日本以上に安全な国もあります。

2022年のグローバル・ピース・インデックス(世界平和指数)によれば、日本の順位は世界10位で、1位はアイスランド。以下、ニュージーランド、アイルランド、デンマーク、オーストリア……と続きます。日本と同等かそれ以上の安全性を誇る国があっても、「海外は怖い」と思い込んでしまっている人は、「安全な国を探して、そこへ行こう」とは考えないのかもしれません。

 

島国ゆえ海外が遠い

上記2つの理由よりも、影響が大きいと考えられるのが、日本が島国ゆえ、外国がどこも遠いこと。「海外」という言葉が象徴しているように、外国に行くには海を越えなければならないのですから。

東京からの場合、「安近短」の代表格である台北でさえ、飛行機で約4時間もかかります。以前筆者が暮らしていたドイツでは、車や列車でイタリアやフランス、スイスなどの隣国に出かけるのは当たり前。国境から近いところに住んでいれば、日帰りだってできてしまいます。

それに比べると、一部の例外を除いて、外国に行くにはいちいち飛行機に乗らなければならない日本は、海外旅行には圧倒的に不利なロケーション。時間的にも、気分的にもハードルが高くなってしまうのは、当然といえます。

日本発着便の運賃が高い

基本的に、海外旅行には飛行機利用が必須にもかかわらず、日本発着便のフライト料金が高止まりしているのも、海外旅行が敬遠される原因だと考えられます。近年はアジアでもLCC(格安航空会社)が発達し、「海外旅行が安くなった」といわれます。

しかし、ヨーロッパに比べると、日本発着便はLCCであってもまだまだ高いのが実情。ヨーロッパはLCC間の競争が激しいので、どうやって採算をとっているのか不思議に思うような運賃のフライトが無数にあります。

筆者が過去に登場した例でいえば、バーゼル(スイス)・ロンドン(イギリス)間が10ユーロ、ストラスブール(フランス)・ポルト(ポルトガル)間が23ユーロ、グダンスク(ポーランド)・ハンブルク(ドイツ)間19ユーロなど。バーゼル・ロンドン間はセール価格だったと記憶していますが、ほかの2路線は通常運賃でした。

以前は、「セール中なら香港や台湾に往復1万5000円程度で行けて安いなぁ」などと思っていましたが、ヨーロッパのLCCを利用して、「セールでも往復1万5000円なんて高い!」と思うようになりました。日本発着便の値段が下がったら、海外に出かける人はもっと増えるでしょう。

長期休暇が取りにくい

海外旅行をするうえで、金銭的な問題はなくても時間的に難しいという人も少なくないはずです。せっかく海外旅行をするなら、近場のアジアで最低3~5日、ヨーロッパなら7日以上は欲しいところですが、まとまった休暇を気軽にとれる日本人は少数派です。

また、長期休暇が取れたとしても、そのタイミングがゴールデンウィークや年末年始などであれば、航空券の高騰で断念する人も多いと思われます。10連休のゴールデンウィーク期間は、ヨーロッパへの直行便が30万円以上と高騰したときもありました。通常の倍かそれ以上ですから、ある程度経済的に余裕がある人でもためらう金額です。

長期休暇が取りやすく、かつ休みを好きなタイミングで取れるようになれば、積極的に海外旅行をする日本人はもっと増えるのではないでしょうか。

日本国内の観光資源が多い

最後に、決定的な要因が日本国内の観光資源が豊富であるということ。国内に見るべきものが少ないと感じれば、海外に出ていく人が増えるでしょうが、日本は国内にいくらでも観光スポットがあるので、「わざわざ海外に行く必要性を感じない」という人も多いのです。安全で言葉にも不自由しないとなれば、なおさらですよね。

筆者は海外旅行が好きで、世界60ヵ国ほどを旅したからこそ確信していますが、日本は世界でもトップクラスの観光資源を持つ国。自然が豊かで、歴史も長く、ほかに類を見ない伝統文化を持っています。その水準は、世界最多の観光客を集めているフランスや、世界遺産最多のイタリアにも引けを取らないと思っています。

車で5時間走るあいだ、ひたすら荒野が広がっていて、ほとんど見るものがないという国もありますが、日本は47都道府県津々浦々に名物や名所があります。国内の観光資源に恵まれたという幸運が、結果的に日本人を海外旅行から遠ざけているといえるのではないでしょうか。

世界最強パスポートを活用しないなんてもったいない

上記の材料を踏まえると、日本人の大半がパスポートを持っていないのには、ある程度納得できる理由があるように思えます。コロナ後に高騰している燃油サーチャージも追い討ちをかけているでしょうし、「海外旅行は疲れるし面倒くさい」とか、「国内でも十分楽しめる」という考えにも一理あるでしょう。

ですが、海外には日本では決して体験できない異文化ならではの驚きや感動、ワクワクが待っています。若いうちに異文化を体験しておくことは、きっと人としての幅を広げてくれるはず。

だからこそ、多少の時間やお金がかかっても、海外旅行にはそれだけの価値があります。せっかく恵まれたパスポートを持っているのに、海外を旅しないなんてもったいない。そう思いませんか?

[All Photos by shutterstock.com]

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