1. トップ
  2. エンタメ
  3. 史上最高のラストシーン…観客をも騙す驚異の脚本術とは? 映画『スティング』徹底考察。わからない部分&テーマ曲も解説

史上最高のラストシーン…観客をも騙す驚異の脚本術とは? 映画『スティング』徹底考察。わからない部分&テーマ曲も解説

  • 2024.5.22
  • 6199 views

アカデミー賞7部門受賞の名作『スティング』のネタバレあらすじに加え、演出、脚本、配役、映像、音楽の視点で徹底考察。名優ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが共演する本作はつまらない? 面白い? 音楽と主題歌の魅力は? 多角的な視点から深掘り解説する。 <あらすじ キャスト 考察 解説 評価 レビュー>

『スティング』のあらすじ

映画『スティング』より【Getty Images】

1936年9月、違法賭博の売上金をシカゴへ運んでいる途中であったギャングの手下モットーラは、路上で足を負傷し財布を盗まれたと叫ぶ黒人男性を目撃する。

そこへもう一人居合わせた男が犯人を撃退すると、被害者の男は、自分がギャング相手の賭博場のオーナーであり、4時までに財布を届けなければ殺されてしまうと述べる。男が財布を届けてくれたら謝礼100ドルを支払うと提案すると、金を自分のものにしようと企んだモットーラは、その役目を買って出る。

もう一人の男は、モットーラに彼の所持金を出すように言い、全ての金をまとめてズボンの中に入れた方が安全だと言って実際にやってみせる。

男の言うとおりに金をズボンの中にしまってその場を離れてタクシーに乗り込んだモットーラが、笑顔で財布の中身を確認すると、中からは大量のチリ紙が出てくる。

強盗と被害者のルーサーと通りすがりの男フッカー(ロバート・レッドフォード)はグルの詐欺師で、モットーラの所持金をまんまと騙し取ったのだった。

成功を喜んだフッカーは、賭博場に向かい取り分をルーレット賭けるが、そのルーレットもいかさまであったために、一瞬で大金を失ってしまう。そのことを知ったルーサーは、フッカーの身を案じ、組織から脱けて、元大物詐欺師ヘンリー・ゴンドーフ(ポール・ニューマン)の元に行くよう指示する。

落ち込むフッカーの前に、刑事のスナイダー(チャールズ・ダーニング)が現れる。スナイダーによると、彼らが騙し取った金は大物ギャングであるドイル・ロネガン(ロバート・ショウ)に渡る予定のものだったという。金を要求してくるスナイダーに、フッカーは偽札を渡してその場を切り抜ける。

身の危険を察知したフッカーは急いでルーサーにの元に向かうと、彼が目にしたのは、建物の窓から突き落とされて亡くなったルーサーと、泣き崩れる仲間達の姿。フッカーは打ちのめされつつその場から逃げ出し、生前ルーサーに紹介された元大物詐欺師ヘンリー・ゴンドーフを尋ねるべくシカゴに飛ぶ。

ゴンドーフは殺されたルーサーの旧友であった。詐欺師を引退して、娼婦ビリーが経営する屋内遊園地で働いていたが、フッカーの説得でドイル・ロネガンへの復讐に手を貸すことに。ゴンドーフは昔の詐欺師仲間を集め、偽の賭博場にロネガンを誘い込むべく準備を始めるのだった…。

『スティング』【ネタバレあり】あらすじ

映画『スティング』より【Getty Images】
映画スティングよりGetty Images

標的となるロネガンは無類のポーカー好きである。ロネガンが列車の中で行われるポーカー大会に度々参加すると聞いたゴンドーフは、まずその機会に狙いを定める。

ロネガンの参加するポーカーに潜入したゴンドーフは、「ショウ」と名乗り、酔ったふりで相手を油断させ、ロネガンの上を行くいかさまで勝利。そして、車内でビリーに財布をすられていたために負け金を支払えなかったロネガンを挑発して部屋を出る。

「ショウ」の手下として「ケリー」と名乗りロネガンの部屋を訪れたフッカーは、「ショウ」の情婦がロネガンの財布をすったことと、彼を裏切りたいと考えていることを伝える。さらに「ショウ」の経営する賭博場で詐欺を働くことを提案し、翌日詳細を話すことを約束してロネガンと別れる。

フッカーが帰宅すると、ロネガンの手下たちが待ち構えている。すんでのところで逃げ延びるフッカー。ロネガンはフッカー殺害が失敗したことを聞き、一流の殺し屋「サリーノ」を雇うことに決める。なにはともあれ、ロネガンは、先ほど話した「ケリー」がフッカーであることには気づいていない。

翌日ロネガンと落ち合ったフッカーは、電報局との繋がりを利用して「ショウ」の賭博場の勝ち馬の情報を入手できると伝え、テストとして少額を賭けさせて成功させる。その日、ロネガンと別れたフッカーの前にスナイダー刑事が現れ、彼を追い回す。

フッカーを捕えられなかったスナイダー刑事は、後日ゴンドーフを追っていたFBI捜査官ポークに呼び出され、ゴンドーフを陥れるためにフッカーを捕えるよう要請される。

ロネガンから信用を得始めていたフッカーはある夜、なじみの食堂で自分を狙う殺し屋らしき男を発見。新顔のウェイトレス・ロレッタの協力を得て逃げ延びる。しかし翌日とうとうスナイダーに捕らえられ、FBIの事務所に連行される。

そこでルーサーの未亡人であるアルバを見逃す代わりにゴンドーフを裏切るよう命じられる。シーン変わって、釈放されたフッカーはロレッタの部屋を訪れ、一夜を共にする。

作戦の当日、フッカーは賭博場に向かう途中でロレッタに出会い、ハグを交わそうとすると、突如ロレッタの頭部を銃弾が撃ち抜く。

ロレッタを撃ったのは、ゴンドーフの指示でフッカーをつけていたボディーガードであった。なんとロレッタの正体はロネガンに雇われた殺し屋「サリーノ」だったのだ。

賭博場では、電話で勝ち馬の情報を得たロネガンが到着し、50万ドルの大金を賭ける。そこに電報局の担当者が姿を見せ、ロネガンの賭けた馬を確認すると、その馬が間違っていると指摘。慌てて賭けを取り消そうと慌てるロネガンだったが、その時、賭博場にFBI捜査官らとスナイダーが乗り込んでくる。

捜査官らを見てフッカーに裏切られたと悟ったゴンドーフは、フッカーに発砲。FBI捜査官ポークはゴンドーフに発砲し、フッカーとゴンドーフは共に倒れる。掛け金50万ドルを惜しむロネガンを、スナイダーがポークの指示で外へと連れ出す。

2人が去ったのを確認すると、ポークの合図で、フッカーとゴンドーフがゆっくりと起き上がる。FBI捜査官ポークは、実は詐欺師ヒッキーであり、すべてが刑事スナイダーとドイル・ロネガンを相手にした大掛かりな詐欺だったのだ。

見事大仕事を成功させたゴンドーフとフッカーは、偽の賭博場をあとにして、人混みへと軽快に消えて行くのだった。

新人詐欺師のリベンジを描いた犯罪コメディの傑作―演出の魅力

映画『スティング』より【Getty Images】
映画『スティング』より【Getty Images】

本作は、1973年に制作された犯罪コメディ映画。監督は『明日に向って撃て!』(1969)『ガープの世界』(1982)のジョージ・ロイ・ヒルで、脚本は本作が長編デビュー作となるデヴィッド・S・ウォード。フッカーをロバート・レッドフォードが、ゴンドーフをポール・ニューマンが演じる。

本作の見どころは、なんといってもコンゲーム(信用詐欺)の手口の見事さだろう。自身の師匠を殺された新人詐欺師フッカーが、伝説の大物詐欺師ゴンドーフと手を組み、大物ギャングから大金を巻き上げる。その手練手管の鮮やかさになんとも驚嘆してしまう。

また、アメリカン・ニューシネマの代表作『明日に向って撃て!』で一世を風靡したレッドフォードとニューマンのコンビの復活も本作の大きな目玉だ。10歳近く歳の離れた二人だが、本作では前作を上回る息の合ったコンビネーションを見せつけている。

なお、本作は、第46回アカデミー賞で作品賞と監督賞、編集賞など7部門で受賞。主演男優賞をはじめ3部門にノミネートされている。特に、作品賞の受賞は制作会社であるユニバーサル・ピクチャーズにとって『西部戦線異状なし』(1930)以来実に47年ぶりの快挙であり、その後同社はブロックバスター映画を主軸とした一流の映画スタジオとして復活を遂げていくことになる。

観客を相手取ったコンゲームの痛快さ―脚本の魅力

コンドーフ役のポール・ニューマン【Getty Images】
コンドーフ役のポール・ニューマン【Getty Images】

本作の最大の見どころ。それは、ラストに待ち受ける大どんでん返しにある。一般的に、信用詐欺を扱ったコンゲーム映画は大どんでん返しが作品の中心に置かれることが多いが、本作の場合は「観客をも騙している」点で他の作品と一線を画している。

一般的に、映画の観客は、作中のキャラクターの行動を神の視点から見ているためスクリーンに映っている情報がすべてであると盲目的に信用してしまいがちだ。しかし本作では、この錯覚を逆手に取り、キャラクターにしか分からない情報を紛れ込ませることで最後の最後で観客を騙す。つまり本作は、作品自体が映画という仕組みを利用したコンゲームになっているのだ。

なお、脚本家のウォードは、映画のリサーチとしてスリを調べている間に、本作の抗争を思いついたとのこと。1930年代から40年代にかけて活躍した詐欺師たちが、金持ちから大金を巻き上げるために賭博場や偽の証券取引所を作っていたというエピソードに魅了されたウォードは、1年がかりで脚本を書き上げ、プロデューサーに持ち込んだという。

本作で長編デビュー作にしてアカデミー賞を受賞したウォード。本作がコンゲーム映画の傑作となったのは、ウォードの巧妙かつ緻密なシナリオがあってこそだろう。

レッドフォードとニューマンの黄金コンビの復活―配役の魅力

映画『明日に向って撃て!』よりポール・ニューマン(左)とロバート・レッドフォード(右)【Getty Images】
映画『明日に向って撃て!』よりポール・ニューマン(左)とロバート・レッドフォード(右)【Getty Images】

本作の配役の見どころは、やはり主人公のレッドフォードとニューマンの黄金コンビだろう。向こう見ずな若さとフレッシュさを兼ね備えたレッドフォードと、渋さと貫禄を兼ね備えたニューマン。ベクトルの異なる2人のカッコよさに、思わずうっとりと見入ってしまうこと請け合いだ。

本作は当初レッドフォードの出演のみが決まっており、ニューマンが演じたゴンドーフは、元々「くたびれた大柄の中年男」が想定されていた。しかし、監督のヒルがロケ地としてニューマンに自宅を使わせてもらえないか交渉したところ、ニューマンが作品に興味を示し、そのままゴンドーフ役に決まったという。

なお、フッカーと恋仲になるウェイトレスのロレッタ役には、顔や名前が割れている女優ではない方がいいとの理由から、当時無名のディミトラ・アーリスを起用。スタジオ側は著名な美人女優を起用するように要求したが、ヒルは頑なに拒んだという。

また、ロネガン役のロバート・ショーをはじめ、チャールズ・ダーニングやアイリーン・ブレナンといった往年の名脇役たちの競演も大きな見どころ。堂に入った演技でレッドフォード演じるフッカーをがっちりサポートしている。

1930年代の雰囲気を忠実に再現したビジュアル―映像の魅力

フッカー役のロバート・レッドフォード【Getty Images】
フッカー役のロバート・レッドフォード【Getty Images】

あらすじからも分かるように、本作は本来フィルムノワール(犯罪映画)であり、厳密にはコメディではない。しかし、それでもどことなく明るくユーモラスに感じられるのは、カメラワークや美術によるところが大きい。

例えばオープニングでは、テーマ曲をバックにキャラクターを描いた挿絵が表示され、それをめくることで物語が展開していく。また、物語の合間合間にも挿絵が挟まれ、章立てで物語が展開していく。こういった表現を取り入れることで、本作を絵本やおとぎ話のように楽しむことができるのだ。

また、随所にちりばめられた小洒落たエフェクトにも注目だ。例えばラストシーン。すべての仕事を終えたフッカーとゴンドーフが肩を並べて去っていくショットでは、画面の端から円形に暗転していくアイリスアウトというトランジション(場面転換)が用いられている。本作では、こういった古典的なエフェクトを多用することで、1930年代のサイレント映画のような印象を観客に与えることに成功している。

また、美術監督のヘンリー・バムステッドは、1930年代の人気雑誌『サタデー・ウイニング・ポスト』を模倣したタイトル(イラストレーターのヤロスラフ・ゲブルがデザイン)や、1930年代当時に用いられたユニバーサル社のロゴなど、意匠も1930年代のスタイルを踏襲。さらに、作品全体のシックなカラーやトーン、そしてどこか街並みのセットも当時の風俗や犯罪映画のムードを忠実に再現しており、作品世界の構築に一役買っている。

なお、本作のセットは、その後『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズで使いまわされている。どこで使われているかは実際に見て確認してほしい。

陽気な往年のラグタイムの名曲―音楽の魅力

ポール・ニューマン(左)とロバート・レッドフォード(右)【Getty Images】
ポール・ニューマン(左)とロバート・レッドフォード(右)【Getty Images】

本作をコメディたらしめているのは、映像表現だけではない。黒人作曲家スコット・ジョプリンによるラグタイム(黒人音楽をもととした音楽ジャンル)の陽気なムードも作品世界に大きな影響を与えている。

特に注目は、オープニングで用いられる『ジ・エンターテイナー』だろう。ピアノの陽気な音楽とどこか陽気で間の抜けたメロディがオープニングの挿絵と見事にマッチしており、本作のコメディテイストを見事に印象付けている。

なお、いまやブラスバンドやテレビのCMとしておなじみの本曲だが、本作での起用がきっかけで一躍有名になり、ビルボードの全米シングルチャートでは4位を記録。また、作曲者であるジョプリンも忘れられていた存在だったが、本作をきっかけに再評価され、1976年には特別ピューリッツァー賞を授与されている。

また、フッカーがゴンドーフのかつての仲間たちを誘うシーンで流れる音楽は、同じくジョプリンの『パイン・アップル・ラグ』。軽妙なピアノのメロディがテンポよく切り替わるシーンと見事にマッチしており、まるでコントの一シーンのようにも感じられる。

なお、本作で編曲を担当したマーヴィン・ハムリッシュは、本作でアカデミー賞の編曲賞を受賞。彼は、アカデミー賞の他にグラミー賞、エミー賞、トニー賞、ゴールデングローブ賞、ピューリッツァー賞を受賞しており、ハリウッドを代表する作曲家として歴史にその名を刻んでいる。

元記事で読む
の記事をもっとみる