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語りかけてくる、エド・シーランの芸術的なパフォーマンス。

  • 2024.2.9

エド・シーランの約5年ぶりの来日コンサートへ行ってきた。会場は前回と同じ東京ドームである。明らかに違ったのはセンターステージで行われたことだ。オープニングアクトのカラム・スコットの時も、バンドメンバーが円形ステージにそれぞれ丸く広がって位置していたので、アイコンタクトしにくそうだなぁと思って観ていたけれど、同期音(クリック)でチェックしていたのか、そこまで違和感は感じなかった。それよりカラムとドラム奏者とキーボード奏者の、3人の顔の輪郭と髪型と髭の形がとても似ていたので、気になって見比べてしまった。

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1991年生まれ、イングランド出身のエド・シーラン。2011年にデビューしてから屈指のソングライターとして破竹の勢いで活躍している。photography: Mark Surridge

エドは機材ケースに入ってセンターステージへ

カラムは花道を通って入場したので、花道横の観客席に人が押し寄せて少し怖かったが、エドは花道からは登場しなかった。正確には黒の大きめの機材ケースに入って運ばれてきたので、ほとんどの人に気づかれなかったと思われる。ただ、観客のひとりが機材ケースに向かって「エド!」と叫んだので、花道横の席に座っていた私はすぐに気づくことができた。友人は「カルロス・ゴーンを真似たのかな?」と言っていた。

オープニングこそアコースティックギター1本でスタートしたけれど、2曲目でレッド・ツェッペリンを想起させるイントロの「BLOW」が、派手なファイヤーボールの演出とともにスタート。ドラムスの音が聞こえると思ったら、センターステージを囲むように少し離れた位置にセッティングされたサブステージに、ベース奏者1名、ギター奏者2名、キーボード奏者1名、ドラム奏者1名が登場していた。初来日からエドのコンサートは観てきたが、バンドを連れてきたのは初めてである。エド自身もエレキギターを演奏した。途中のMCで「2017年にアメリカやメキシコをツアーする間にコラボレーションをして刺激を受けた」と話していて、これまで特大の野外会場でもひとりでパフォーマンスをしていた印象のあるエドだが、より大きなエナジーで観客のエモーションを動かすには、バンドも必要と感じたのかな、と思った。楽曲の都合もあるだろう。もちろんセンターステージは回転するし、上昇もするし、遠くからも観やすいように工夫されている。

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まるでプラネタリウムのようなライトの海と化した1月31日の東京ドーム公演。photography: Mark Surridge

弾き語りになるとループステーションを使い、自ら鍵盤の音も重ねていく。最初に圧巻だったのは「Don't」だ。彼の原点といえるループを多用し、ギターの音色やボディを叩いてトラックを完成させると、ラップ調の畳み掛ける歌に今度は自分のコーラスを重ねていく。しかも会場をぐるりと見渡すように回っていくセンターステージの特徴を活かして、観客の歌声を指揮するように曲に重ね、東京ドームヴァージョンの「Don't」を完成させてしまった。この1曲を体感できただけでも、もうここにいて良かったと実感した。

2年前に大切な友人を突然亡くしたショックから書いた曲という「Eyed Closed」に続く「Give Me Love」は、エドのソングライティングの才能を世に知らしめた初期の名曲だ。この曲も最初は会場に広がるライトの海に向けて語りかけるように歌われていたが、終盤に向けてギターの音や自身の声を重ねていき、最後はマイクを手に声を上げ、会場からの声を促し、東京ドーム全体をエドのコーラスの渦に巻き込んでいく。コーラスの渦は感情の波動となって観客を熱く揺さぶり、エドが激しく声を張り上げれば、その波動も会場を大きく揺らす。最後にはエドが指揮者となって会場からもウォウウォウと声の波が起こり、それがまたエドがステージを走り回ると同時に渦巻いていく。最後はハーモニーだけで静かに終わり、感涙しそうになった。芸術的なヴァージョンアップを体感することができた。エドはパフォーマーとしての才能もとてつもない。

バンド演奏に加え、派手なLED映像が会場を賑わす

ピック型のLEDを含め、ステージ上のLEDも全方位型で、このツアー用に制作された映像を観ているだけでも楽しめる。親日家としても知られるエドは特にポケモン好きとあって、Nintendo Switchソフト「ポケットモンスター スカーレット/バイオレット」へ提供した「Celestial」では、ミュージックヴィデオにも登場したピカチュウなどが登場して会場を沸かせた。

もちろん、コンサートはMCを頻繁に挟みながら、緩急をつけて進んでいく。バンドが再登場し、アイルランドの西部の都市の女の子のことを歌った「Galway Girl」にはヴァイオリン奏者エリーシャ・エンストロームが登場。ポップナンバーながら、ヒップホップ調の歌詞にアイリッシュ的なフィドルの演奏がテンションをあげて絡み、これも熱い展開となった。ちなみにエドの父親は北アイルランド出身だ。

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会場にはピック型のLEDも登場。大ヒット曲「Sing」も大合唱に。photography: Mark Surridge

中盤はお馴染みの大ヒット曲「Thinking Out Loud」に続き、2015年にジャスティン・ビーバーとコラボした「Love Yourself」を披露。「Sing」はイントロから大合唱がはじまり、エドの独壇場と観客を巻き込んだハーモニーの渦が交互に起こる。かと思えば、「アコースティック・シンガー・ソングライターだから静かなところでライヴをやるのも好き」と、繊細な歌声で「Tenerife Sea」を披露。やはりギター1本の方が、ハイトーンであったり、ラップであったり、ループであったり、さまざまな技が次々と繰り広げられ、その場で歌が完成していくのを体感できて嬉しくなる。

ONE OK ROCKのTAKAとの共演に、お得意のラップも絶好調

後半に差し掛かり、また機材ケースがステージの方へ運ばれていったので、終了時にエドが入るためなのかと思っていたら、どうやらONE OK ROCKのTAKAが入っていたようだ。能登半島地震へのメッセージの後、「Wherever You Are」のイントロでTAKAがステージに登場。一緒にカラオケで歌っているインスタがあがっていたので共演はあると予想していたけれど、会場のボルテージは上がりっぱなしだ。TAKAの歌唱力の素晴らしさは言うまでもなく、歌い上げるTAKAと語りかけてくるエドのコントラストも良く、贅沢な1曲となった。このふたりの熱唱に聴き入っていて認識したのは、エドの場合は歌にしてもラップにしても、こちらに語りかけてくるスタイルだということ。シンガーソングライターだからこそ、自然と身についている術で、自分はそこにさらにグッときてしまうのだと思う。本当に、エドはステージ上から一人ひとりの目を見て、心をつかみ、話しかけてくる。

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全く歌唱スタイルが異なるからこそ、聴き応えのあった「Wherever You Are」。photography: Mark Surridge

終盤に「Blood Stream」がやってきた。この曲は2014年の新木場コースト公演の前に楽屋で取材した時、エドがいちばん好きな曲だと話していて、実は私も大好きなナンバーだ。弱さや悲しみ、怒りなどが徐々に混在してループしながら爆発していく。この後にアンコール1曲目として演奏された「You Need Me, I don't Need You」もそうだが、エドはとても穏やかそうに見えるが、その分、歌には激情な部分を赤裸々に見せている。根っからのヒップホップ好きとあって、リリックを畳み掛けてくるエドは本当に楽しそうだし、生命力さえ感じさせるほどエナジェティックだ。この日は、なかなか終わりたくなかった様子が随所から見られ、アンコールは3曲、メドレー含めて合計28曲、2時間20分もステージに立ち続けていた。

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ステージ上でも丁寧に曲を紡ぎ、シンガーソングライターらしく、語りかけるように歌うのもエド・シーランの魅力のひとつだ。photography: Mark Surridge

デビュー時からの不変の演奏スタイルと進化するパフォーマンス

エド・シーランのライヴは、2012年初来日時の南青山にあったフィアットカフェで行われた公演から観てきているが、ギターの音であり、叩く音であり、声であり、ループステーションで重ねて構成していくスタイルがやはりエドらしいし、ラップ調のスタイルも大好きである。しかし、会場が広くなればなるほど、どの曲も以前のように丁寧に時間をかけて構築するわけにはいかず、今後はバンドスタイルと共存していくことになるのかなと、思わせた今回の東京ドーム公演であった。正直、バンド演奏になってしまうと音響がいまひとつであったり、曲の印象がフラットになりがちな部分もあった。しかしエドのこと、今後は必ず改善されていくはずだ。また大好きな猫の肉球が描かれたアコースティックギターはもう弾かないのかな、と、ちょっと思い出したりした。とはいっても、「Don't」や「Give Me Love」を筆頭に見せ場、聴きどころはどの曲にも散りばめられていて、今回もベストアルバムのような構成だったので、誰もが自分の好きな曲を堪能できたのではないだろうか。次々と名曲が生まれてくるエド・シーランゆえ、ひとりでも多くの観客が楽しめる広い会場でのライヴは今後も必須になってくると思う。次回は、もう少し公演回数と地方公演が増えることを望みたい。

*To Be Continued

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