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20XX年、未来の農業はどうなっている? 〜暮らし編〜

  • 2024.2.9
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Takashi Taima イラスト

話を聞いた人:荒木浩之(クボタ研究開発本部次世代技術研究ユニット)、佐藤光泰(野村アグリプランニング&アドバイザリー調査部長)

マンションの屋上や地下の植物工場からは、新鮮な野菜が届く。肉は、植物肉を簡単に作れる3Dプリンターで印刷。体調に合わせたオーダーメイド野菜も注文可能。

1:3Dフードプリンターで作る植物肉

ベジタリアンやヴィーガンの多い欧米では、植物性タンパク質で作る植物肉に注目が集まっている。アメリカの大手食肉企業が「10年後には従来の畜産物のうち半分程度が植物肉に置き換わる可能性がある」と予想しているほどだ。

日本でも大豆ミートなどが販売されているが、肉の風味や満足感を完全再現できているかというと、いま一歩というところ。しかし、アメリカではバイオ技術を活用し、植物原料のみで肉の味、見た目、食感などを再現する企業が現れている。

「植物由来の代替肉のパイオニアであるビヨンドミート社は、主原料としてエンドウマメから抽出したタンパク質、食感を出すためにアラビアゴム、霜降りの脂肪分としてココナッツオイル、赤身の色を出すためにビーツを使い、風味や香りづけに酵母エキスなどを加えて肉らしさを再現。“生肉”の状態で販売され、自宅のフライパンで焼く調理もできます。将来的には、牛、豚、鶏のさまざまな部位を植物原料で再現することも可能でしょう」(佐藤さん)

さらには、植物肉を3Dフードプリンターで作る技術を開発した企業もある。

「スペインのノヴァミート社は、大豆やエンドウマメなど植物原料をペースト化したネスプレッソのようなカプセルを作り、3Dフードプリンターにセットして肉を作ることに成功しています。未来には、家には家電の一つとして炊飯器などと同じように3Dフードプリンターがあるのが当たり前で、材料をセットすれば数分後には肉が出てくる、なんてことも十分あり得ます。使う材料の種類や割合を変えるだけで、どんな種類の肉も、好みに合わせて作れるようになるのではないでしょうか」(佐藤さん)

3Dフードプリンターで植物肉ステーキを印刷している場面
イスラエルのスタートアップ、リデファイン・ミート社が3Dフードプリンターで植物肉ステーキを印刷している場面。
3Dフードプリンターで作った植物肉ステーキ
2021年1月には試食会も行われ、600人が集まり植物肉は5時間で売り切れた。

2:植物工場で作る、オーダーサプリ

植物工場のメリットの一つは、農作物を密閉された空間で衛生的に管理できるということ。つまり、薬の原料にするための植物の栽培にも、うってつけな空間といえるだろう。実際に、現在でも植物工場を活用した動物用ワクチンの研究開発が行われているという。

となれば、未来の世界では、個人の健康状態に合わせたサプリメントの原料を植物工場で栽培するのもお手のもののはず。ゲノム編集技術を用いて、植物の薬効成分を増やすことも自由自在だ。

3:植物工場付きタワマンで、新鮮な野菜を

日本でも着実に増えている植物工場。運営しているのは農家ではなく、むしろ異業種企業などが積極的に新規参入している。最近では、不動産業界も植物工場に関心を持っているという。

「タワーマンションの屋上に植物工場を設置して野菜や果物を作り、住民に供給する、というものです。究極の地産地消で、野菜は新鮮そのもの。スーパーでは売っていない珍しい野菜を栽培したり、逆にスーパーよりも安くていい野菜を提供したりと、いずれにせよマンションの大きな付加価値になるのは間違いありません」(佐藤さん)

マンションで野菜を栽培することは、都市部の限られた土地の有効活用につながり、ビルを活用した植物工場は、空きテナントビル解消にも貢献できそうだ。イギリスには、ロンドン市内の地下防空壕跡地を活用した植物工場を運営する企業がある。

土地の所有者であるロンドン市も、食料自給率を2倍に増やす地産地消政策に合致しているため、全面的にバックアップ。地下は夏でも涼しくて電気代が節約できるメリットがあり、栽培した野菜はスーパーやデパート、レストランに卸している。また、植物工場が小型化され、白物家電の一つとして各家庭にあるのが普通の光景になる、なんてことも。収穫したての野菜でサラダを作り、もぎたてのフルーツを食べられるなんて最高だ。

「家庭用の全自動型植物工場はイスラエルの企業が開発しており、日々の栽培管理はスマートフォンで行い、葉物野菜やイチゴなどを育てるキットもあるそうです。家でイチゴ狩りだってできます」(佐藤さん)

4:バイタルデータ連動で、野菜をオーダー

心拍数や歩数、睡眠時間などを記録できるウェアラブルデバイス。未来ではさらに進化して、その人の詳細なバイタルデータを測定でき、不足している栄養素なども一目でわかるようになるだろう

「Amazonなどで買い物を続けると、購入履歴からおすすめの商品が出てきますが、それと同じようにバイタルデータの蓄積によって、AIがその人の健康状態を把握し、“ビタミンAが不足気味なので、トマトを食べるといいでしょう”と提案してくれるようになるかも。その野菜を自動発注もしてくれたり、その情報が最寄りの植物工場に送信され、その人のバイタルデータに基づいた高機能性野菜を作ってくれたりすると、かなり便利ですね」(佐藤さん)

Takashi Taima イラスト

profile

荒木浩之

あらき・ひろゆき/クボタ研究開発本部次世代技術研究ユニットで、スマート農業の先行研究を行う。

profile

佐藤光泰

さとう・みつやす/野村アグリプランニング&アドバイザリー調査部長。農水産業などの調査・コンサルを担当。

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