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車で“信号無視”の歩行者はねた…それでも運転手は罪に問われる?“疑問”を弁護士に聞いてみた

  • 2024.2.19
交通違反の歩行者を車ではねた場合の法的責任は?
交通違反の歩行者を車ではねた場合の法的責任は?

車の運転中に前方不注意や安全不確認などが原因で、誤って歩行者をはねてしまうケースは珍しくありません。車を運転するときは、常に周囲に歩行者がいないか、安全に気を配る必要があります。

ところで、車と歩行者の交通事故では、「横断禁止道路を渡った」「信号を無視して道路を横断した」「急に車道に飛び出してきた」など、明らかに歩行者側の行動に問題があったケースもあるようですが、この場合でも、車の運転手は法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

民事責任は免れず

Q.そもそも、歩行者が横断禁止の道路を渡ったり、信号を無視して道路を横断したりした場合、どのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。

牧野さん「道路交通法13条2項では、歩行者の横断が禁止される場所が定められており、歩行者が警察官の指示を無視して横断した場合には、『2万円以下の罰金または科料(1000円以上1万円未満)』を科される可能性があります。

また、道路交通法7条では、歩行者が信号に従う義務が定められており、これに違反した場合も『2万円以下の罰金または科料』を科される可能性があります。

悪質なケースを除き、実際にこれらの行為が刑事事件とされる可能性は低いです。ただ、民事の損害賠償責任については、歩行者がその交通事故の原因に寄与した割合分が損害賠償額から減額されてしまう『過失相殺』の認定(歩行者の違反行為が原因で損害額が増大したため、その分を減額する)の際に、歩行者側に横断禁止道路を渡る行為や信号無視などの交通違反があったかどうかが、重要な考慮要素となります」

Q.信号無視をした歩行者や横断禁止の道路を渡っていた歩行者、急に車道に飛び出してきた歩行者を、車の運転中にはねてしまったとします。運転手側に明確な非がない場合でも、法的責任を問われる可能性はありますか。

牧野さん「まず刑事責任については、運転手は結果として歩行者をはねてしまった以上、原則として、自動車運転処罰法5条の過失運転致死傷罪に問われる可能性があります。ただし、運転手側が『法定速度内で車を運転していた』などの交通ルールを守っており、突然飛び出してきた歩行者を避けられなかったとされる場合には、過失が認められず刑事責任を負う可能性は低いでしょう。

民事責任については、歩行者に損害が生じた場合には、『信号を無視して道路を横断』『横断禁止道路の横断』『急な飛び出し』など、歩行者側に大きな原因があるとされる場合でも、運転手は原則として民法の不法行為に基づく損害賠償責任を負うことになります。

ただし、運転手にほとんど非がなく、歩行者の過失(不注意)が原因で、歩行者が被った損害が大きくなった場合には、損害賠償額が大幅に減額される場合があります。例えば、歩行者の赤信号無視が原因で車との交通事故が発生した場合、過失相殺として、原則として運転手側の損賠賠償額が7割程度減額されることがあります。この場合、歩行者は3割しか賠償金を受け取れません」

Q.車と歩行者の交通事故が発生した場合の運転手、歩行者の過失の一般的な割合はどの程度なのでしょうか。

牧野さん「交通事故の裁判では、いわゆる『赤い本』や『青い本』に掲載されている具体的な事例ごとの過失割合の算定基準が用いられ、損害額の算定が行われるのが一般的です。

赤い本とは、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』という書籍の通称で、東京地方裁判所における裁判実務における損害賠償額の算定基準について解説しており、参考裁判例が掲載されています。

青い本とは、公益財団法人日弁連交通事故相談センターが発行している『交通事故損害額算定基準』という書籍の通称で、交通事故における損害賠償額の算定基準について解説し、日本全国の裁判例を対象として、参考裁判例を掲載しています。

赤い本や青い本では、歩行者の過失割合が大きくなる事情として、歩行者の予測しづらい動きや横断禁止場所の通行、夜間(日没から日の出まで)の通行が挙げられています。また、事故発生時に歩行者の過失割合が小さくなる事情は次の通りです」

(歩行者の過失割合が小さくなる事情)・日中の住宅街など、人通りの多い場所・時間帯に歩行していた・歩行者の年齢が12歳以下または65歳以上・歩行者が目や耳、足、平衡機能に障害を抱えている場合・当事者の歩行者のほかにも複数の人が道路を横断・通行中だった・車の速度違反、酒気帯び運転、酒酔い運転(まっすぐ歩けないなど)、居眠り運転、無免許運転、携帯電話を持って通話しながら運転、カーナビ・携帯電話などを注視しながら運転・ハンドルやブレーキの操作が著しく不適切だった場合・脇見運転などの著しい前方不注視・過労や病気、薬物の影響により正常な運転ができない恐れがあった場合

Q.歩行者が信号無視をしたり、横断禁止道路を渡ったりした場合のほか、法定速度を超える速度で車を運転した場合、歩行者、運転手の過失の割合はどのように変わるのでしょうか。

牧野さん「先述の赤い本や青い本によると、信号無視の歩行者や横断禁止道路を渡る歩行者側の基本的な過失割合ですが、横断歩道のない場所(横断禁止場所)を横断した歩行者の過失割合は原則として20%、赤信号を無視して横断歩道を横断した歩行者の過失割合は原則として70%です。赤信号無視の歩行者の過失割合が非常に高くなっている点に留意すべきです。

これに対して、スピード違反をした車の運転手側の基本的な過失割合ですが、交通事故時に運転手が時速15キロ以上時速30キロ未満の速度超過をしていた場合、運転手側の過失割合は10%程度加算され、時速30キロ以上の速度超過の場合は、過失割合が20%程度加算されます。

上記の基本的な過失割合をベースに、道路の状況や見通しの良否、事故の発生時間帯などの事情を考慮して、過失割合が具体的に決定されることになります」

Q.車を運転中、道路に飛び出してきた歩行者や横断禁止道路を渡っていた歩行者をはねてしまった事例、判例について、教えてください。

牧野さん「2022年7月、札幌市の交差点で女子中学生を車ではね、死亡させたとして、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の罪に問われた男性の裁判が1月に行われ、札幌地方裁判所は『被害者が自殺のために飛び出した疑いを否定できず、過失は認められない』などとして無罪(求刑・罰金50万円)を言い渡しました。

また、2022年10月には、『ザ・ドリフターズ』のメンバーでタレントの仲本工事さんが横浜市内の市道交差点を横断中に車にはねられ、翌日に亡くなりました。報道によると、現場の交差点は、信号機や横断歩道がなく、横断が禁止されていたということです」

交通事故を防ぐためにも、信号無視をしたり、横断が禁止されている道路を渡ったりするのは絶対にやめましょう。

オトナンサー編集部

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