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「無一文になった自分を助けてくれる仲間はいるか」アドラーが教えてくれる"信用と信頼"の決定的違い

  • 2024.2.1

悩みの9割は人間関係に関することだといわれる。悩みを手放す方法はないか。小泉健一さんは「アドラー心理学を取り入れて使う言葉と付き合う人を変えることで人間関係は大きく変わっていき、悩みは消えた」という――。

※本稿は、小泉健一『今さらだけど、アドラー心理学を実践してみたらすごかった』(大和出版)の一部を再編集したものです。

家事を手伝わない夫に文句を言う妻
※写真はイメージです
人間関係に役立つ理論

アドラー心理学の理論の中で、人間関係でとても役に立ったものが「認知論」です。

これは「人それぞれが自分の色眼鏡を通して物事を見ている」という考え方です。

「別の人に言われると腹が立たないのに、なんかこの人に言われると腹立つんだよなぁ」という経験がないでしょうか。私はあります……。

こう感じるのは自分の認知によるものです。

その人自身を「嫌な人」と思っているから、そのフィルターを通して、言動までもが嫌だと思えてしまうのです。

夫婦生活でも、新婚のときはパートナーが家事をしないということが気にならなかったのに、「家事をしないなんて許せない!」と考えが変わった人もいるのではないでしょうか。

事実は同じなのに、なぜ解釈が変わるのか。

それは自分の認知が変わっているからです。

大事なのは、事実と感情を切り分けて考えることです。

例えば、「何回も遅刻してくる友人にイライラしている」という体験があったとします。これを「事実」と「感情」にわけてみます。

感情は自分で選ぶことができる

【事実】友人が待ち合わせに遅れて来る。

【感情】「1回だけでなく、何回も遅刻して私を待たせて、なんとも思わないのか?(=もっと私のことを大切にしてほしい)」

このように、「友人が待ち合わせに遅れて来る」という事実に対して「私をもっと大切にしてほしい」という感情を自分で生み出しているのです。

アドラーは「感情も自分で決めることができる」と言っていますので、この感情も自分の認知次第では変えることができます。

事実と感情を切り離さずに、「何回遅刻してるんだよ! 悪いと思っていないのか⁉」と感情を優先して責めたり、言い合いになってしまうと、人間関係は悪化します。

また、自分が我慢し続けるのもメンタルの健康にはよくありません。

事実と感情を切り離したうえで、「遅刻されると、私も待つ時間がもったいないから、時間通りに来てほしいな」と、「私はこう思う」と伝えると、人間関係も良好になっていきます。

イライラしてしまったときに、冷静に考えるのは難しいかもしれません。

でも感情的になっているときはうまくいくことが少ないので、少しぐっとこらえて、時間を置いてから気持ちを整理するようにしましょう。

どんな悩みも「事実」と「感情」を切り離して考える

「メタ認知」(物事を超越した場所から客観的に捉えること)という言葉があるように、自分を俯瞰するように客観視すると、落ち着いた対処ができるようになります。

これは、人間関係だけではなく、どんな悩みにも応用できます。

例えば「残業が多くてつらい」という悩みがあったとします。

「残業が多い」というのは事実。「つらい」は感情。

「残業が多い=つらい」というのは自分の解釈です。

なぜなら、「残業が多い」という事実に対して、つらいと思わない人もいるからです。

オフィスでノートパソコンを使用し、ため息をついている女性
※写真はイメージです

このように、事実と感情を切り離して冷静に考えたときに、自分の本当の目的が見えてきます。

「残業が多くてつらいと感じていたのは、自由な時間がほしかったからなんだ」

と思えば、転職の決心がつくかもしれませんし、

「残業が多くてつらいと感じていたのは、やらされ仕事ばかりで時間が潰れているのが嫌だったからなんだ。だったらやらされ仕事をなんとかする方法を考えてみよう」

と、転職ではなく「今の仕事をどう変えるか」という発想になるかもしれません。

このように、「つらい」という感情だけではなく、事実と感情を切り離して考えることで、自分の「認知」を見つけることができます。

そして「認知」を見つけたら、本当はどうしたいかという「目的」がより深くわかるようになります。

このように、アドラー心理学の「認知論」と「目的論」を組み合わせることで、人間関係の悩みが解決できることが多いのです。

自分を傷つけられるのは自分だけ

誰かに傷つけられて苦しいとき、または他者と比較して劣等感を抱いて悩むとき。

お伝えしたいのは「自分のことを傷つけられるのは自分だけ」ということです。

悪口を言われたり、SNSで誹謗中傷の対象にされたりしたら、たしかにショックですよね。でも、それを受け止めて傷ついているのは自分の解釈なのです。

これもアドラー心理学の「認知論」です。

同じ悪口を言われても、傷つく人と傷つかない人がいます。

「本当に仕事できないやつだな」と言われたとしても、自分の仕事ぶりに自信があれば気にならないはずです。

親から「早く結婚しなさいよ」と言われたとしても、「結婚できない自分」にコンプレックスを感じていなければ傷つきません。

このように自分に自信があって自分のことが大好きであれば、傷つけられることはありません。

「あなたは間違っているよ」「あなたのことはもう信じられない」というような言葉を突きつけられても、ショックを受けるのか、「しょうがないか」とサラッと受け流せるかは、自分次第。

肯定するのも否定するのも、自分で選ぶことができ、自分を傷つけることができるのも自分だけです。

SNSで攻撃されても平常心でいられる自分になる

心理学を学び、メンタルについての発信を増やしていき、SNS上でのつながりが増えるにつれ、「綺麗ごとばかり言っている」「ふざけたことばかりしている」などといった攻撃的な言葉を浴びせられることがありました。

やはり、その言葉を目にしたときは、ショックを受けます。

でも、自分のやっていることは好きだし、自信もあったので、やがて気にならなくなりました。

スマートフォンに表示された各SNSアイコン
※写真はイメージです

このように、感情や解釈すらも自分で決めることができるのです。

ふだんの考え方や価値観で出来事の意味は決まります。

自分のことを評価したぶんだけ周りも同じようにあなたを評価するし、「私なんて役に立たない人間なんだ」と卑下したり、自分で自分を傷つけたりしたら、周りもあなたに対してそのように扱います。

自分を大切にしてほしかったら、まずは自分を大切にすることが重要。

周りの人や付き合う人を変えるのもいいのですが、それができないような環境なら、一番簡単なのは自分を大切にしてあげることです。

大切なことに気付かせてくれる「アドラーの言葉」

そうはいっても、私も最初からそうできたわけではありません。

そこで響いたアドラーの言葉に、次のようなものがあります。

「重要なことは人が何を持って生まれたかではなく、
与えられたものをどう使いこなすかである」

ないものねだりをする必要はありません。

何か特別な才能がないと自信が持てないわけでもありません。

自分の中に今あることでいいのです。

「私なんて……」が口癖の人は、「とにかく誰かの役に立たないといけない」と躍起になっていたり、できないことに意識が向いていたりします。

ですので、自分のことを好きになり、自信を持つために、小さな「できたこと」に注目してみましょう。

「自分の思った通りに仕事が進んだ」
「5分でも勉強時間が取れた」
「朝、早起きできた」
「自炊した」

こんな小さなことでもいいので、「できた」と呟いてみましょう。もしくは寝る前に「今日のできたこと」をノートに書いてみるのでもいいでしょう。

できたことに注目すると、徐々に自分に自信が持てて自分を好きになっていきます。

こうして自己の基盤が整ってくると、他人に何か言われようと気にならなくなり、傷つけられることもなくなります。

自分を傷つけられるのは自分だけ。解釈は自分で選択できるということです。

人間関係の悩みがゼロになった

アドラー心理学で付き合う人を変えていき、もとからある人付き合いの関係性も良好になってくると、私は人間関係で悩むことがほとんどなくなりました。

もちろん、自分が夢を語ったときに、「そんなの無理だよ」とネガティブな言葉を発してやる気をそいでくるような人もいますし、SNSで顔が見えないのをいいことに誹謗ひぼう中傷するような人はあらわれますが、自分の人生が充実してくると、そんな人に構っている暇すらなくなります。

無条件の尊敬と信頼が大切

アドラー心理学では「勇気づけ」という技法があります。

【図表】勇気づけ
※『今さらだけど、アドラー心理学を実践してみたらすごかった』(大和出版)より

勇気とは「困難を克服する活力」のこと。

切磋琢磨せっさたくまできる仲間がいることもありがたいことですが、「あなたならできる」と勇気づけし合える仲間がいることも私の成長には不可欠だと感じています。

感謝してもらいたければ、自分から感謝すること。

優しく接してほしければ、その人に自分から優しく接することが大切です。

手の重ねて団結するチーム
※写真はイメージです

アドラー心理学の「勇気づけ」では、無条件の尊敬と信頼が大切だとされています。

「信用するのではなく、信頼するのだ。
信頼とは裏付けも担保もなく相手を信じること。
裏切られる可能性があっても相手を信じるのである」

これもアドラーの言葉です。

信用というのは条件つきで相手を信じること。

銀行がお金を貸してくれるのは、過去の実績や何かを担保とした条件つきのものなのでいわゆる信用です。

人間関係で言い換えれば、「○○してくれるから」「実績があるから」ということで生じるのが信用ですが、これは、実績がなくなったときには前提条件がなくなり、関係性が続かなくなるため、アドラーの推奨する信頼ではありません。

応援し合える人というのは「信用」よりも「信頼」できる人のほうがいいと私は考えます。

なぜなら前提条件がない関係なので、どんなに困ったときにも助けてもらえるからです。

無一文になった自分を助けてくれる人はいるか

SNSで発信力をつけてフォローしてくれる人がたくさんいたとしても、過去の実績や経歴だけをもとにフォローしてくれているのであれば(=信用)、長い付き合いにはならないかもしれません。また、あなたが失敗して無一文になってしまったときに助けてくれる人ではないかもれません。本当の勇気づけをし合える仲間というのは、存在そのものに価値を感じて応援できる仲間(=信頼)です。

小泉健一『今さらだけど、アドラー心理学を実践してみたらすごかった』(大和出版)
小泉健一『今さらだけど、アドラー心理学を実践してみたらすごかった』(大和出版)

私には「この人が困ったときには、世界中どこでも駆けつける」「無一文になったときはしばらく家に呼んで養ってあげる」と思える人が数人います。そんな仲間に対しては、心から応援できますし、私のことも心から応援してくれます。

そういう仲間がいるからこそ、私はやりたいことを信じてやり切れているし、困ったときは遠慮なくこちらから助けてほしいと言えます(このような仲間からの紹介でコーチングのクライアントになってくれた方が何名もいます。私のことを「こいつなら大丈夫。信頼できる」と思ったからこそ紹介してくれたのでしょう)。

信用と信頼の決定的な違い

信用なのか信頼なのかを判断する基準として、アドラー心理学では「機能価値」「存在価値」という考え方があります。

「機能価値」とは、その人の能力やできることに注目し、価値を置いていることです。反対に言えば、「能力がない人には価値を感じない」ということなので「信用」にあたります。

「存在価値」とは、その人の存在そのものに価値を置いていることです。

これがアドラーの言う「信頼」です。

その人の良いところも悪いところも知ったうえで信頼すること。その人が仮に失敗したり、あなたに迷惑をかけたりしても、それでも信じることができる人のこと。

「応援されたければ自分から応援しよう」とお伝えしましたが、「信用」のうえで(その人の実績や能力を尊敬したうえで)応援するならば、その人はあなたの能力しか見ません。

あなたが、相手の存在そのものに価値を感じ、「心から応援したい」と思える人を応援すれば、その気持ちが通じてあなたのことも無条件で応援してくれるでしょう。

私は、SNSで知り合った人でも、信頼できる仲間がいます。

リアルだろうがオンライン上だろうが関係ありません。

「早く行きたければひとりで行け。遠くまで行きたければみんなで行け」

有名なアフリカのことわざです。まさにあなたが大きな成長や成果を望むのなら一緒に遠くまで行ける仲間を見つけましょう。

私は勇気づけの言葉を使うようにし、信頼できる人と付き合うようにすることで、周りの人間関係が変化していきました。人間関係が良好になると、まっすぐに自分の夢や理想に向かって突き進むことができます。

そして、この頃から「会社員以外で稼ぐ」という目的が叶いはじめたのです。

小泉 健一(こいずみ・けんいち)
ライフコーチ、作家
1988年生まれ。大学卒業後、一般企業で10年以上営業マンとして働く。現在は、会社員の傍ら、ライフコーチ、kindle作家として活躍。著書に『今さらだけど、アドラー心理学を実践してみたらすごかった』(大和出版)がある。

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