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「一日、一短歌」2024年2月の歌人・伊藤紺インタビュー

  • 2024.2.1

いとう・こん/歌人。1993年東京都生まれ。2016年作歌をスタート。2019年『肌に流れる透明な気持ち』、20年『満ちる腕』を私家版で刊行。22年両作を短歌研究社より新装版として同時刊行。23年12月に第三歌集『気がする朝』(ナナロク社)を発表。そのほかの作品にミニ歌集『hologram』(CPCenter)、Kaho Iwaya(opnner)との展示作品をおさめた『すごく近い』など。また全歌集の装丁を担当するデザイナー・脇田あすかとの展示作品「Relay」ほか、NEWoMan新宿とのコラボ特別展示「気づく」、上白石萌歌の写真展「かぜとわたしはうつろう」への短歌提供など活躍の場を広げる。

2015年、はじめて買った歌集は『サラダ記念日』『ラインマーカーズ』。

短歌を作り始めたきっかけは俵万智さんの『サラダ記念日』と穂村弘さんの『ラインマーカーズ』でした。私が大学4年生の2015年の年末に突然『サラダ記念日』が読みたくなって。その足で本屋に向かい、『サラダ記念日』と近くにあった『ラインマーカーズ』を買ってみたんです。それがすごくおもしろくて。3日後くらいには自分でも短歌作りに挑戦しました。たった31文字に何時間でも好きなだけ没頭できるのが楽しかったですね。
私は多分人よりも内向的だと思います。自分のことばかり考えていますね。また、喋るのが下手なので、人との会話を家で何度もシミュレーションしたりもします。大学の頃は今よりもっとひどくて、就職活動の面接で突然黙ってしまったりもしました(笑)。飲み会でも考えていることはたくさんあるのに上手く伝えらず......。でも、だからこそ短歌に向いていたというのもあると思います。頭の中でいろんなことを考えているけど、世間のスピードで話についていけない人は、もしかしたら短歌と気が合うかもしれません。

2019年に第一歌集『肌に流れる透明な気持ち』、翌20年に第二歌集『満ちる腕』を2年連続刊行。

『肌に流れる透明な気持ち』と『満ちる腕』は短歌を書き始めたエネルギーでそのときの自己ベストを叩き出した作品。私家版なので編集も流通も全部自分でやりました。2022年に短歌研究社から新装版が発売されて、もっと多くの方に届けることができるようになり、ありがたい限りです。ただ、短歌をはじめて2年半、3年半で刊行した作品なので、今見るとやっぱりどこか未熟さは感じます。書きたいことを掴み切れていないような。ちょっと軽い。それが魅力でもあるとは思うのですが。
そういった軽さを、デザインが完璧に受け取ってくれたなと感じています。一般的な歌集では短歌は改行なし縦1行ですが、この1冊ではレイアウトや文字組がすごく自由。デザイナーの脇田あすかさんと作ることができたから、この時期の歌の魅力が存分に生きている本になったと思います。

2022年のミニ歌集『hologram』で少しテーマが見えてきた。

『hologram』は、バレンタインのギフトとして作った17首のミニ歌集。「小さなミラクル」をテーマに書き下ろしました。たぶんこの頃から、自分が何を書くのか、何を書きたいのかを繰り返し考えていて、改めて読むとその葛藤を感じます。
以前「紺さんの歌を読むといつも、自分が号泣直前だったことに気づきます」と言ってくれた方がいて、すごくうれしかったんです。感動するとか、笑えるとか、切なくなるとか反応はなんでもいいのですが、自分の歌の「切実さ」が読者の方に届いているんだなって。この頃はまだそのことに気付いていなかったと思うのですが、1、2作目よりすこしクリアになった気がしています。

2023年、第三歌集『気がする朝』で、やっと自分の世界が書けた。

2023年末に発売した『気がする朝』は初めて編集さんに舵をとっていただきました。この年1月に最初の打ち合わせがあったので、刊行までちょうど1年間。最終的に収録されているのは102首ですが、候補は倍以上あり、人生で一番短歌をたくさん作った年になりました。この作品でやっと自分の世界を書けたという感覚があります。自分史上最高傑作であり、同時にスタート地点に立てたような気持ちです。

伊藤紺/著『気がする朝』(ナナロク社)1,870円
第三歌集で最新刊。全102首掲載のうち、半分以上は本書のために作られた新作。

一日、一短歌。伊藤紺さんの今日の短歌はこちら

一日、一短歌 01 その曲が始まると
みんな喜ぶというより
すこし美しくなる 気がする朝
(ナナロク社)2023 伊藤紺 

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