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世界初?宇宙に連れて行かれた男の話。Vol.5:ついに打ち上げ。「これもう飛んでる?」

  • 2024.2.1
世界初?宇宙に連れて行かれた男の話。:Vol.1映画『僕が宇宙に行った理由』で結実した別の夢

ついに打ち上げ。「これもう飛んでる?」

2021年12月8日午後12時38分、アレクサンダー・ミシュルキン船長の指揮の下、ロシアの宇宙船「ソユーズ」は打ち上げに成功。平野陽三は、無事、前澤友作さんに宇宙に連れて行かれた。

ソユーズ宇宙船MS-20に乗り込む前澤友作
ソユーズ宇宙船MS-20に乗り込む前澤友作さん。「帰還モジュール」の席に着いてから、打ち上げ準備にたっぷり2時間かかるという。
ソユーズロケット
3人をISSに届けるソユーズロケット。全長51.38mで、先端のクレヨンのようになったカバーの中にソユーズ宇宙船が格納されている。

ロケットの打ち上げは、外から見ると非常にドラマティックだが、中ではどんな様子だったのだろう。

「打ち上げのとき、管制塔から10、9、8……といったカウントダウンはなくて、ダッシュボードで回っているタイムコードを見ながら、時間きっかりになったらミシュルキン船長がリフトオフのボタンを押すんです。1秒単位でズレなく。

アナログなんだけど、スケジュール通りにロケットを飛ばすロシアの技術とプライドはすごいなぁと感心しました。

その後、ゴゴゴゴゴとエンジンが点火、噴射したことは分かったものの、意外にも想像していたような衝撃は内側からは感じられず、静かにゆっくり浮き上がる船内で、『これもう飛んでる?』と前澤さんと目を見合わせたことをよく覚えています。ロケットを外から見るのと、中に乗っているのでは、そのくらい感覚が違いました」

地球ってこんなに青くて丸いのか!

ソユーズ宇宙船MS-20の「帰還モジュール」内での訓練の様子
ISSまで旅し、地球に帰るときにも搭乗するソユーズ宇宙船MS-20の「帰還モジュール」内はこんな感じ(写真は訓練時のもの)。約4㎡、おおよそ2.5畳の空間だ。体は型取りしてつくったシートライナーにすっぽり収まっている。

往路のフライトでは「帰還モジュール」に約10時間座ることになっていた。搭乗してから打ち上げまでの準備に2時間を要し、国際宇宙ステーション(ISS)までの旅路が6時間、ドッキングしてもハッチを開けて中に入るまで2時間かかる。

「地上での訓練のラストはほぼ毎日ソユーズのシミュレーション訓練で、長いときには6時間とか同じ姿勢でコックピットにいるんです。それで膝の後ろがうっ血するわ、お尻にアザができるわで、つらかったんですね。

本番でもこうなるんだろうなと思っていたら、打ち上げ後9分弱で高度200kmに到達して、ほぼ無重力になり、身体の負荷が全部なくなったらめちゃくちゃ快適になりました。打ち上げ時のGはおそらく3G程度で、想像していたよりも緩やかな“心地よい圧迫”という印象でした。飛んでいる間はワクワクして、おそらく顔がかなりニヤついていたと思います(笑)」

なかでも、平野がもっとも興奮したのは窓の外に地球が見えた瞬間。

ソユーズ宇宙船内から見えた地球
ソユーズ宇宙船内から見えた地球。

「これまで自分が体験した一番の高度は飛行機で、せいぜい地平線を認識する程度だったのが、それとは明らかに違う地球の見え方だったんです。地球ってこんなに青くて丸いのかと、素直に感動しました。

それで興奮して前澤さんとしゃべってたら、船長に叱られるという(笑)。『管制塔とのやりとりが聞こえないから、静かにして!』って」

たぶん、それは民間人ならではの出来事なのだろう。本職の宇宙飛行士であれば、興奮しつつも機内での任務に従事していたはずだ。とはいえ平野にもコックピットでの仕事はあって……。

「打ち上げ前にバルブを開いて船内に酸素を充満させたり、マニュアルドッキングに備えて船長のコントローラーをセットしたり、船長の手の届かない場所にあるものを取って渡したり。

緊急時は船長の指示に従ってイレギュラー操作が発生しますが、完璧なフライトだったので心配は無用でした」

ソユーズ宇宙船内から見えた地球
ドッキングしたソユーズ宇宙船をISSから望む。眼下には青い地球が広がっている。

12日間、分刻みのスケジュール

そうして12日間のISS滞在が始まったわけだが、細かな記憶はほとんどないと平野はいう。

「最初の2日間は、宇宙酔いに苦しんで、ビックリするほど一日が長かったんですが、3日目以降は無重力にも慣れ、密閉空間で時計を見ながらとにかく時間割をこなす日々。

毎日あっという間にディナーの時間になっていて、気づいたら『あと2、3日しか残ってない!』と。それこそ、その間の記憶はほとんどないというか……(笑)」

そんなある一日の彼のスケジュールがこちら。

06:30-07:00 起床・身支度

07:00-07:30 朝食

07:30-08:00 一日の準備

08:00-08:15 朝のMTG(ロシア管制塔と)

08:20-09:30 動画撮影・写真撮影

09:40-11:40 ソユーズディセントトレーニング(専門家と通信)

12:00-12:30 通信/撮影準備

12:30-13:00 【ロシア回線】ロシアのテレビ局の取材・収録

13:00-13:40 昼食

13:40-14:00 IPフォン通信・日本メディアの電話取材

14:00-14:20 ダウンリンク(地上へデータ送信)

14:20-14:40 通信/撮影準備

14:40-16:00 【JAXA回線】日本のテレビ局の取材・収録

16:00-17:00 動画撮影・写真撮影

17:00-17:30 PMC(メディカルドクターとコール)

17:30-19:00 動画撮影・写真撮影

19:00-19:20 IPフォン通信(地上の知人と電話交信)

19:30-19:40 夜のMTG(ロシア管制塔と)

19:40-20:30 夕食

20:30-23:00 素材整理、編集、ダウンリンクなど

23:00-24:30 血流測定実験

24:30 就寝

彼らは、事前に公募した「前澤友作に宇宙でやってほしい100のこと」をISSに持ち込んでいた。毎日なにかしら撮影し、YouTubeやSNSで公開するための下準備も行う。

けん玉チャレンジをする前澤友作
たとえば、「けん玉チャレンジ」。
ISSが90分で地球一周する動画をタイムラプスで撮る様子
あるいは「最速世界一周 90分の旅」。ISSが90分で地球一周する動画をタイムラプスで撮り、YouTubeで公開。

「ISS滞在中は地上の管制塔にいるチームスタッフが、前澤さんに代わって地上から各SNSをアップしていたので、その指示出しや画像映像の送信、YouTubeの編集のやりとり、その日受ける取材の内容をチェックしたりと、決められたスケジュール以外にも始終メールでやりとりしていました。

あとはYouTubeのためだけに撮影するのはもったいないと思っていたので、時間が空けば、素の前澤さんにカメラを向けてインタビューしていました。結果、それを撮りためていたことが映画としての要素に繋がったんです」

NASAの施設「キューポラ」での前澤友作
地球を展望するためのNASAの施設「キューポラ」での前澤さん。
別角度から見た「キューポラ」
別角度から撮るとキューポラはこんな感じ。意外と小さいのだ。
ISS内の様子
隙あらば、日常の1シーンも撮影。ISS内のなんでもないカットだが“床”の概念がバラバラなところがいかにも宇宙。

生活拠点としてのISS

前澤さんと平野にとってのISS滞在は、いわば旅行である。だが他の宇宙飛行士たちはみな国家の任務を帯びているはず。そこで素朴な疑問をぶつけてみた。“彼らはどのくらい相手してくれた”のだろうか?

「宇宙でやってほしい100のこと」のひとつ「宇宙飛行士とバドミントン対決」にも協力してくれた。

「みなさんそれぞれのミッションが分刻みで入っているので、基本的には放置です(笑)。でも、分からないことがあったり、困ったことが起きたときには、すぐに助けてくれました。

ただ、基本的にディナーはいつもみんな一緒。宇宙飛行士の皆さんの協力を得ないとできない実験や撮影があることが事前に分かっている場合には、あらかじめ申請しておいて、その担当の飛行士の時間を確保しておかなければなりませんでした」

みんなで食事の時間。

「宇宙食は、JAXAのものはどれもおいしかったのですが、ロシアの宇宙食は当たり外れが多く、日本人の口には合わないものもありました。個人的にはサーモン缶がお気に入りで、僕はサーモンばかり食べていました」

序盤の「宇宙酔い」同様、慣れるまで少々戸惑ったのがトイレ。洋式トイレのような装置に身体を固定し、そうじ機のような機械で排泄物を吸い込むらしい。

「ここだけの話、地上ではかなり快便なのですが、実は宇宙に着いて丸2日排便がありませんでした。無重力下では、消化物が上に浮いてくるような感覚があり、なかなか下に降りてこないというか……排泄するのに体が慣れるまで2日かかったということでしょうね」

そして、お風呂はそもそも設備自体がない。水で濡らしたタオルで体を拭き、髪は洗い流さない宇宙用のシャンプーを使用する。

「これはシャンプーしたという気にならず、改良の余地がありそうだと思いました。ただ地上にいるより汗もかかず、あまり汚れなかったので、実際シャンプーしたのは3日に1回程度でしたね」

ロシアのモジュール内の個室。上下のない宇宙空間では立ったまま眠るが、体が浮かないよう、寝袋のような装置で壁に固定する。

ISSでの平均的なミッション期間は約5.5カ月。前澤さんと平野の滞在期間はあまりにも短い。瞬く間に帰還の日が近づいていた。

Information

映画『僕が宇宙に行った理由』(全国公開中)

前澤友作の宇宙旅行に密着し記録したドキュメンタリーフィルム。国際宇宙ステーション(ISS)の12日間に及ぶ滞在はもちろんのこと、宇宙に飛び立つまでの長い道のりや、過酷なトレーニングや検査の数々、前澤の本音や素顔などを、克明に記録している。この作品は、夢に向かって挑戦を続ける男のメッセージである。

監督:平野陽三
出演:前澤友作、アレクサンダー・ミシュルキン、平野陽三ほか
製作:SPACETODAY
公式HP:https://whyspace-movie.jp

profile

平野陽三

平野陽三(映画監督)

ひらの・ようぞう/1985年、愛媛県生まれ。2007年に〈ZOZOTOWN〉を運営する株式会社スタートトゥデイに入社、キャスティングディレクターとして従事。その後、CMプロダクションを経て、現在は前澤友作のマネージャーとして関連会社役員を務める。2021年12月、前澤の宇宙旅行に同行し、撮影を担当。今作が監督初作品となる。

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