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「平均球速はMLB全体の下位25パーセント」なのに、“今永昇太”はなぜ打たれないのか?メジャーでも珍しい3つのポイント

  • 2024.5.16
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写真:PIXTA

今季から海を渡り、メジャーリーグのシカゴ・カブスでプレーする今永昇太投手が全米を“震撼”させるピッチングを続けています。5月13日(日本時間14日)のブレーブス戦で今季8度目の先発マウンドに上がった今永投手は、5回を投げて98球と珍しく球数がかさんでしまいましたが、それでも8つの三振を奪って無失点。リーグトップの防御率は0.96と再び0点台に乗り、ここまで5勝0敗、46回2/3を投げて51奪三振、与四球8という見事な数字を残しています。

MLB公式サイトの『MLB.com』が5月7日に公開した新人王予想でも堂々の1位。加えて球団幹部がランク付けした昨年オフの「最高のFA契約でもドジャースの大谷翔平選手や山本由伸投手を押さえて1位に輝くなど、今永選手のピッチングがメジャーを席巻しています。

日本時代も横浜DeNAベイスターズの「左のエース」として活躍した今永投手ですが、開幕から1カ月半が経過した現時点でここまでの活躍を見せると予想した人は決した多くなかったはずです。

今永昇太はなぜ打たれない?

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写真:SANKEI

一体なぜ、今永投手はメジャー1年目の開幕から、ここまでのピッチングを披露できているのでしょうか。最大の要因は、今永投手最大の武器であるストレート」です。MLB.comによると今永投手のストレート(フォーシーム)の平均球速は92マイル(約148キロ)。150キロ超えが当たり前のメジャーリーグにおいて、この平均球速はMLB全体の下位25パーセントに入るそうです。
しかしその一方、失点を防ぐ度合いを示す指標である「runs preventedはメジャートップの+9」。今永投手のストレートはメジャー平均よりもかなり遅いにもかかわらず、その威力はトップレベルだと言えます。

なぜ、球速が遅くてもバッターを抑えられるのか――。
日本時代から今永投手のストレートは、いわゆる「伸びるストレート」だと言われてきました。スピン量が多く、他のピッチャーのストレートよりも浮き上がるような軌道なため、バッターは空振りしたり、打ち損じてしまう確率が高いのです。
同じくMLB.comによると今永投手のストレートはMLB平均よりもホップ成分が3.4インチ(約8.6センチ)も大きく、この数値はMLB全体で3位に該当するそうです。

とはいえ、この「伸びるストレート」はスピンが効いているぶん、バッターにしっかりと捉えられると長打になりやすいという特性もあります。実際、昨季の今永投手は22先発、148回を投げて被本塁打が17本。どちらかというと一発を浴びやすい印象もありました。それがメジャー移籍後の今季は現時点で被本塁打がわずか3本。本来、日本人投手がメジャーに移籍すると被本塁打は増える傾向にあり、たとえば山本由伸投手は昨季日本で被本塁打わずか3だったのが、今季は9試合登板ですでに6本の本塁打を浴びています。

伸びるストレートを“高め”に

なぜ、今永投手だけは被本塁打が逆に減少しているのか――。
理由はいくつか考えられます。ひとつは、メジャーリーガー特有のバットのスイング軌道。日本と比較してバットを下から出して長打を狙うスイング=いわゆるアッパースイングと呼ばれる軌道の多いメジャーリーガーにとって、今永投手の投げるホップするストレートはバットとの接点が極端に少なく、ボールを捉えることが非常に困難になってしまいます。
それを心得ているかのように今永投手も日本時代よりストレートを高めに投げるケースが増えているように思えます。日本では高め=浮き球と言われることも多く、長打を打たれやすいイメージがあるかもしれませんが、近年のメジャーリーグではむしろ高めにストレートを投げることがトレンド化。今永投手はメジャー1年目ながら、このトレンドにしっかりと沿ったピッチングができていると言えるでしょう。

身長の低さが強みに

ふたつめのポイントは「身長」です。今永投手は身長178センチ。メジャーの先発投手の平均身長は2022年のデータでは約190センチ。大柄なメジャーリーガーの中で、今永投手はかなり小柄な投手と言えます。身長が低いということは、当然リリースポイントも低くなります。つまり、今永投手は他のピッチャーよりも低い位置から、他のピッチャーよりもホップするストレートを投げていることになります。見慣れないリリースポイントから、見慣れない軌道で投げ込まれるストレート――。これが、平均148キロながらメジャーの強打者を苦しめる最大の要因と言えるかもしれません。

メジャーの左投手としては珍しいスプリットの使い手

また、「MLB.com」では同時に、今永投手がメジャーの左投手としては珍しいスプリットの使い手であることも活躍のポイントに挙げています。メジャーでは日本よりもスプリットを投げるピッチャー自体が少なく、さらに数の少ない左投手となるとその希少性はさらに増します。変化量自体は特筆すべきものではありませんが、「落ちるボール」があることでストレートの威力がさらに増していると言えそうです。

日本時代からの武器を、見事に「メジャー流」にアジャストさせ、快投を見せる今永投手。実は筆者も日本時代、何度か今永投手を取材したことがあるのですが「投げる哲学者」の異名そのままにクレバーで、自身のピッチングを客観的に分析できる姿が強く印象に残っています。

新人王はもちろん、気の早い話ではありますが日本人初となるサイ・ヤング賞」獲得を期待する声まで出始めた今季の今永投手。大谷選手、山本投手の所属するドジャースが開幕前から大きな注目を集めていましたが、同じナショナル・リーグに所属する今永投手のカブスの注目度も、これからさらに上がってくるはずです。


花田雪
1983年、神奈川県生まれ。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行い、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆。著書に『あのプロ野球選手の少年時代』(宝島社)『オリックス・バファローズはいかに強くなったのか』(日本文芸社)がある。

※本記事は、5月14日の情報です

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