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読み応えのある記事を書くために必要な「エピ」って何?巨人ドラ1投手を参考に紹介【スポーツ記者の仕事】

  • 2024.5.11
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写真:PIXTA

スポーツ記者」と聞いて、どんなイメージを持つでしょうか?

一流のアスリートにインタビューする華やかな仕事?あるいは、選手たちのプライベートを強引に追いかけるネガティブな印象を抱く方もいるかもしれません。

筆者は、過去にスポーツ新聞社で記者として勤務していました。憧れていた仕事でしたが、実際に現場に出てみると、就職活動中に抱いていたイメージと異なる部分も多くありました。

そこで、筆者の経験に基づいて、スポーツ記者の仕事のリアルをお伝えします。今回は、いい原稿を書くために欠かせない「エピ」についてです。

渾身の「エピ」を取材するのが記者の仕事

スポーツ記者になると、「エピ」とは切っても切れない関係になります。

デスクと原稿の打ち合わせをすると「で、エピは何?」と必ず問われます。筆者は、先輩記者から「エピあるのか?」といつも心配されていました。他社の記者と一緒に取材して「よし、エピゲットした!」とハイタッチすることもあります。

そんな「エピ」とは一体なんなのか。エピは「エピソード」の略です。

いい原稿には、必ずエピソードがあります。その選手が活躍した要因はなんだったのか。どのような練習をしてきたのか。どんな人柄なのか。

このように、原稿に深みをもたらすのがエピなのです。ちなみに、エピは「ネタ」と呼ばれることもあります。

短い原稿にはエピは入っていないことが多いですが、500字を超えるような長い原稿にはエピが欠かせません。特に、新聞の顔である1面の記事には、渾身のエピが求められます。

スポーツ新聞では、原稿の中盤あたりにエピが書かれていることが多いです。

実際に原稿になった「エピ」の例

エピと一言で言っても、様々です。イメージを持ってもらうために、筆者が記者時代に書いたエピをいくつか紹介します。

2019年4月4日。巨人のドラフト1位ルーキー・高橋優貴投手が阪神戦でプロ初登板初勝利。翌日の1面記事になりました。

この記事では、以下のエピを掲載しました。

  •  高橋投手が野球を始めたのは小学校1年生の春休み。ロサンゼルスへの家族旅行でエンゼルス対ドジャース戦を観戦したことがきっかけだった
  • 高校からは親元を離れて東海大菅生に進学。11歳下の弟が当時4歳で手がかかる時期だったため、母親に負担をかけたくないという思いもあって同校への進学を決断した
  • 両親の影響で、高橋投手はタイガースファン。その阪神相手にプロ初勝利

新人のプロ初勝利の原稿だったため、野球を始めたきっかけや両親とのエピソードを紹介しました。

続いての例。高橋投手のプロ初勝利の翌日、2019年4月5日。菅野智之投手がDeNA戦に完投し今季初勝利を飾りました。2日連続で1面記事を書かせてもらうことに。

この記事では、以下のエピを掲載しました。

  •  菅野投手が前年11月、へんとうの摘出手術を受け、2週間流動食しか食べられなかった
  • 除去したへんとうが瓶に漬けられた写真を原監督(当時)に送ると「苦しみを越えたら良いことがあるよ」とメールで返信が届いた

 以上、筆者が実際に取材したエピの実例を紹介しました。

絶対的な正解はありませんが、仕事として原稿を書く以上、球場で観戦している野球ファンが知らない情報を書く必要があるのです。

そう簡単に手に入らない「エピ」

スポーツ記者にとってのエピの重要性をご理解いただけたでしょうか。ところがこのエピを手に入れるのが、なかなかに大変なのです。

プロ野球の現場では、試合前と試合後に取材のチャンスがあります。試合後は、試合内容に関する取材がメインなので、エピを聞けるケースはそう多くありません。

ですので、基本的には試合前の取材で、各選手のエピを収集しておかなければならないのです。ただこれもまた簡単ではありません。一概には言えないのですが、実例で見てきたように、エピとして成立するためにはプライベートに関することや具体的な内容が必要です。

選手との信頼関係を築けていないと、エピを教えてもらうことはできません。また、選手への取材時間は長くて5分程度。短い時間で話を聞き出す難しさもあります。

ちなみにプロ野球の現場では、当日の先発投手には試合前に取材してはいけないという暗黙のルールがあります。つまり、先発投手に取材できるチャンスは登板前日まで。

筆者は先発投手のエピがなくて、試合当日にびくびくしていたことが何度もあります(笑)。でもまだあきらめる必要はありません。本人に取材できなくても、チームメートやコーチ、家族などへの「周辺取材」でエピを手に入れることも可能です。

このように、スポーツ記者は日々、様々な手段を使って、全力でエピを探しています。

表面上の情報ではない「エピ」こそが価値

試合結果はどうだったのか。どの選手が活躍したのか。そういった情報は、今や誰もが瞬時に無料でアクセスできます。

だからこそ、試合を観戦したり、ネット速報を見たりするだけでは分からないエピにこそ価値があるのです。スポーツファンの方々へアスリートのエピを伝えることは、スポーツ記者の最大の仕事といっても過言ではありません。

同じ試合の同じ選手の原稿でも、どんなエピを書くのか。ここに記者の個性が現われます。

次にスポーツの記事を読むときは、ぜひ「エピ」に注目してみてください。



岡村幸治
1994年生まれ。スポーツ新聞社で野球記者として巨人や高校野球などを取材。2021年に独立し、著名人や経営者にインタビューを行っている。海外旅行が好きで、2023年には世界一周の旅に出た。

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