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打者専念なら成績は上がるのでは?「そう単純な話ではない」五十嵐亮太が考察する"二刀流"だからこそのメリット「どんな影響が出るか分からない」

  • 2024.4.23
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写真:SANKEI

日米が注目する今季のメジャーリーグも、開幕してから約1カ月が経過。ドジャースへと移籍した大谷翔平選手をはじめ、多くの日本人選手が期待通りの活躍を見せています。今回はニューヨーク・メッツなどでもプレー経験のある五十嵐亮太さんに、「今季の大谷選手に期待すること」を伺いました!

※本稿は発売中の『メジャーリーグ観戦ガイド2024 大谷翔平 新たなる挑戦』(コスミック出版)の内容を一部抜粋・再編集して掲載しています。

打者専念の大谷選手には、日本人初の40‐40を!

――2024年のメジャーリーグ、日本のみならずアメリカでも注目されているのが、史上最高額でドジャースへと移籍した大谷翔平選手です。

五十嵐 大谷選手については、正直何か言うことはないくらいの選手です(笑)。彼のメジャーでのキャリアを振り返ると、「扉を開いてくれたな」という印象。日本人で言えばたとえば過去にも野茂英雄さん、イチローさんといった選手が同じようなことを言えると思いますが、僕自身もメジャーでプレーしてきて、これまで日本人で「ホームランのタイトル」というのはイメージできなかった。それを成し遂げたわけですから。投手としてもストレートとスイーパーという2球種を軸に打者をかわすのではなくねじ伏せる」。真正面からメジャーの選手たちと対峙して結果を残した選手です。10年7億ドルという契約は驚きですが、一方で当然とも言えます。それだけの価値がある。

――移籍先にドジャースを選択したことはどう感じますか?

五十嵐 それが正解だったかどうかは契約が満了する時点まで分かりませんが、少なくとも現時点では良い選択だったのではないかと思います。昨年オフにFAとなった時点ではおそらく、エンゼルス残留という可能性もあったはずです。ただ、移籍後の6年間で結果的に一度もポストシーズンに進むことができなかった。特にシーズン終盤、ポストシーズン進出が絶望的となった状況でプレーすることは、プレイヤー目線で考えるとモチベーションの維持はかなり難しかったはずです。コメントなどを見ても大谷選手が「勝ちたい」と感じていたことは明白です。その上、昨年春にはWBCという舞台でそれを味わっている。であれば、シーズンでも同じ気持ちを味わいたいと考えるのは自然な流れです。戦力だけを見ればエンゼルスよりドジャースのほうが「勝てる可能性」が高いのは明らかですし、あれだけの条件も提示できる資金力もあった。

――エンゼルス時代はどうしても投打に大谷選手ひとりが奮闘する場面も目立ちました。

五十嵐 ドジャースではそういうケースは減るはずです。ムーキー・ベッツ、フレディ・フリーマンといった強打者もいますし、来季以降に復帰予定の投手としても新加入の山本由伸を筆頭に充実した補強を行っています。その意味では今季以降の大谷選手は、負担を考慮しつつもう少し余裕を持った起用法になるのかなと考えています。

――今季の大谷選手は打者専念になりますが、そのあたりの影響はありそうでしょうか。

五十嵐 一般的には「打者だけに専念できるのだから、成績が上がるのでは?」という見方もありますよね。ただ、僕はそう単純な話ではないと思っています。これまでの大谷選手は基本的に投手と野手、二刀流をこなすことで結果を残してきた。投手としてのプレーや調整。トレーニングが打者としても生きていた可能性はあると思うんです。その意味で、「どんな影響が出るか分からない」というのが正直な意見です。ただ、当然ながらメリットもあります。身体の負担軽減はもちろんですが、大谷選手の場合、投手としてのリハビリを継続しながら野手として試合に出場することになる。野球選手にとって試合に出ること」はものすごく大きなことです。僕も手術でのリハビリを経験していますが、試合に出られず、プレーすらできない状況が1年間以上続くのは本当にしんどい。ただ、大谷選手の場合は違います。もし彼が「投手」であればここから1年以上、辛く孤独なリハビリを続けなければいけませんが、「二刀流」であることで試合に出ながらリハビリをするということが可能になる。打者としてだけでなく、リハビリで復帰を目指す投手としてもモチベーションを維持しやすいのではないでしょうか。このあたりは「二刀流」である彼だけの特権と言っていいかもしれません。

――打者専念、さらには新天地と大きな変化の年となる大谷選手ですが、五十嵐さんが今季の彼に期待することは?

五十嵐 現地でもキャンプの様子を少し見ることができたのですが、投手としてプレーできないぶん、バッティングはもちろん走塁への意識がより強くなっているのでは……と感じました。もちろん、ケガのリスクもありますが、彼がグラウンドに出ればそういうことは考えない選手なのは過去のシーズンでも証明済みです。野手専念となる今季、彼がどんなスタイルをイメージしているかにもよりますが、個人的には「40‐40(シーズン40本塁打40盗塁)」を見てみたい気もします。

――日本人が40‐40ですか!?

五十嵐 でも、大谷選手なら「やれそう」と思いませんか?それくらいの能力はあるし、あとはチーム事情や意識の問題かなと思います。

――また新しい扉を開いてくれるシーズンになるかもしれないですね。

五十嵐 はい。問題は、彼が開いた扉に続いてくる選手がいるのか……くらいです(笑)。こんな選手、未来永劫現れない気もしますが、いつか同じような選手が現れたとき、今で言う野茂さん、イチローさんのように改めて大谷選手の名前がフックアップされて語り継がれる――そういう領域に到達していると思います。


抜粋・編集
花田雪
1983年、神奈川県生まれ。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行い、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆。著書に『あのプロ野球選手の少年時代』(宝島社)『オリックス・バファローズはいかに強くなったのか』(日本文芸社)がある。

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