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アジア杯から見たアジアサッカーの発展。発展途上国の底上げにより競争激化へ

  • 2024.1.25
アジア杯から見たアジアサッカーの発展。発展途上国の底上げにより競争激化へ
アジア杯から見たアジアサッカーの発展。発展途上国の底上げにより競争激化へ

Text by 高橋アオ

アジア最強のナショナルチームを決める大会AFCアジアカップ2023が12日に開幕した。当初の予想に反して日本や韓国とアジアの列強といわれるチームが苦戦し、発展途上国といわれる国々が善戦を見せている。ワールドカップでドイツ、スペインと世界屈指の強豪を立て続けに破った日本がイラクに1-2で敗れ、韓国はヨルダンと2-2で引き分けた。イランもまたグループリーグ(GL)3戦全勝と好調に見えるが、香港に1-0辛勝と苦戦した。

この結果を受けてアジアの発展途上国の実力が底上げされているのではないかと考える者は少なくない。アジアの列強を目指す発展途上国の現状について掘り下げる。

発展途上国の躍進

今大会で驚きの躍進を見せる国が数カ国出現した。日本を破ったイラク、韓国と引き分けたヨルダン、グループAを2位突破したタジキスタン、UAEと引き分けたパレスチナ、グループBでオーストラリア、ウズベキスタンと接戦を繰り広げたシリアだ。

アジア杯から見たアジアサッカーの発展。発展途上国の底上げにより競争激化へ
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イラクはアジア杯2007年大会の覇者のため強豪国の一つであるが、他の国々ではパレスチナ、シリアは史上初のGS突破、タジキスタンは初出場ながらGS2位での突破と目覚ましい躍進を見せている。2019年から出場チーム増加によりGS3位突破の恩恵をパレスチナとシリアは受けたが、タジキスタンは自力で突破したことを考えると称賛に値する実力を見せた。

強豪国といわれる国々に肉薄する試合内容を見せる国々はチーム構成や国内のサッカー事情を見てみると劇的な変化が生じていることが分かった。

多重国籍選手の質の向上と依存脱却

これまでアジア各国は多種多様な強化施策を代表チームにほどこしてきた。その中でも即効性を期待できる施策は多重国籍者の補強だ。この施策は例えばA国にルーツがある(親にA国人の血が流れているなど)選手が欧米などで育ち、欧米のプロリーグでプレーしている選手を招集する施策だ。

この施策の利点は複数ある。自国の情勢が不安定であっても情勢が安定していてサッカーのインフラ(練習環境、優れた指導者)が整っている国で育成を受けた選手を加えることができるため、資金力が乏しいナショナルチームでも即戦力を容易に補強することができる。

またルーツがある選手はFIFA主催大会、大陸連盟主催大会に出場していなければ招集が可能であるため、生まれ育った欧米の代表に親善試合で招集されていてもくら替えが可能だ。

この施策をいち早く取り入れたフィリピンは2019年に同国史上初となるアジア杯出場を決めた。今大会も元スウェーデン代表DFアイハム・ウスウがシリアにくら替えし、優れた守備能力でオーストラリア、ウズベキスタンの強力なアタッカーを抑え込んだ。

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またインドネシアはプレミアリーグ52試合、ラ・リーガ123試合出場のジョルディ・アマトが加わるなど、これまで新興国に加わってきた多重国籍選手の質が劇的に向上している。理由としてはワールド杯アジア出場国枠の増加(4.5→8.5枠)、発展途上国の経済発展による魅力、高いモチベーションなど多岐に渡るという。

アジア杯から見たアジアサッカーの発展。発展途上国の底上げにより競争激化へ
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ただ強力な多重国籍選手が増え始めた一方で、マンチェスターユナイテッドのアカデミー出身でイングランド生まれのイラク代表MFジダン・イクバルがイラクの危険な選手と国内複数媒体で報道されていたが、日本戦に出場しなかった。強力な欧米育ちの選手がいなくても列強に対抗する力を身に付けつつある。

多重国籍選手の質の向上と同時に、国内サッカーのインフラ環境の整備・改善や育成年代の指導強化も同時進行で行っているため、多重国籍選手に依存しないよう各国はしっかり草の根から強化している。そのため多重国籍選手であっても既存の国内選手との競争に勝てるとは限らないので、多重国籍選手の質も年々向上していると推察できる。

欧州挑戦の活性化と国内サッカーの発展

前述したように各国は多重国籍選手の補強だけであぐらをかかず、国内サッカーのインフラ環境、育成年代の指導強化も積極的に力を入れてきた。その成果は出始めている。

今大会で韓国に2-2で引き分けたヨルダンはフランス1部モンペリエMFムーサ・アルタマリを輩出しており、バイエルンで活躍するDFキム・ミンジェ相手に優れた技術で渡り合うシーンを見せるなど、チームの核として躍動した。ヨルダンで生まれ育ったアルタマリはキプロス1部APOEL、ベルギー1部ルーヴェンで活躍してフランス1部にたどり着いた。同国のシンボルとしてヨルダン国民の人気が高い。

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他にもインドネシアはベルギー2部デインズでプレーするFWマルセリーノ・フェルディナン、タイはルーヴェンFWスパナット・ムエンター、ウズベキスタンはフランス1部RCランスDFアブドゥコディル・フサノフと若手の欧州挑戦が増加しつつある。

他にもスロバキア1部ドゥナイスカー・ストレダMFのアマル・ラマダン(シリア)らが同大会で活躍するなど、国内からヒーローといえるような選手を欧州へ輩出している。

先日取材したフィリピン代表DF佐藤大介は「最終的な解決方法はその国のアカデミーから底上げをしなきゃいけないと思っています。そこがフィリピンにとって1番のチャレンジです。2030年ワールドカップを目指すことを考えたときにこういう解決方法はアリだと思いますけど、長い目で見たときに国内サッカーの発展がしっかりしないといけないと思います」と話すように、自国のサッカー環境を整備しなければ発展も成功もありえない。

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足下を見て一歩、一歩着実に歩みを進めてきたからこそ、発展途上国は結果を出し始めている。

今後の動向

今後は多重国籍の優位性と国内サッカー強化による良質な選手の育成により、発展途上国はより強化が進むことは間違いないだろう。競争が激化すれば多重国籍選手も質の高い選手が集まり(質が低ければ招集されないし、競争にも勝てない)、ワールドカップに出場することができればさらなる好循環を期待できそうだ。

このような施策は列強といわれる日本、韓国、オーストラリア、イラン、サウジアラビアで、この中ではイランとオーストラリアは上手く使いこなしている印象がある。イランは過去にヴォルフスブルクで活躍したMFアシュカン・デジャガーを始め、数々の多重国籍選手を補強してきた。近年はあまりルーツのある選手を招集していないが、元スウェーデン代表で現イラン代表FWサマン・ゴドス(ブレントフォード)が中盤でチームの要となっている。

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オーストラリアは移民の国として建国した歴史があるため、多重国籍選手補強の障壁は低い。チームの守備の核であるレスターDFハリー・サウターはスコットランドで生まれ育ち、育成年代もスコットランド代表として期待されていた身長2メートルの巨漢DFだ。そして両国は国内育成もしっかり整備されているため、優秀な選手たちを代表チームに供給し続けている。

一方で日本、韓国は単一国籍が原則であるため、多重国籍選手の補強の障壁は非常に高い。両国ともにアジア屈指のインフラ環境、質の高い育成を試行しているため優位性を保っているが、いずれその優位性も日進月歩の勢いで追いつかれるリスクが顕在している。

アジアの発展途上国の進歩は驚異的な早さで成長している。現在日本はアジア最強と称されているが、後ろを振り返ればすぐそこにライバルたちは迫ってきている。彼らの動向を注視しながら日本も強化を進めなければならない。

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