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マイワールドの強さで男を沼らせる「岡本かの子」〜クズ文豪列伝特別編〜【夫婦・子育ていまむかし Vol.19】

  • 2024.1.20
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ウーマンエキサイトをご覧の皆さん、こんにちは。tomekkoです。

2024年も文豪や芸術家の意外な素顔を知って作品にも触れるきっかけになれるよう、楽しい連載をしていきたいと思っております。

さて、年の初めということもあり、今回はクズ文豪列伝は特別編です!

「クズ」って社会的に逸脱した行動を取って、さらにそれを正当化するような人のことだと思うんですが、逸脱するほどの激しいエネルギーがその人にあったからこそ名作が誕生したり、そこにたどり着くまでの生い立ちを知ると作品への理解が深まったりと…書くたびにその文豪に愛着を見つけています。自分に正直であろうとした人たちの生き様って、勇気を与えてくれますよね。

これまで男性作家ばかりを取り上げてきましたが、ずっと女流作家のことも書いてみたいと思っていました。

男性に比べ数が少ないので目立たないだけで、きっと女性の文豪にも変わり者やクズな生き方をした人はいるだろうし、そんな人にも共感する部分はあるだろうから…。

そんなわけで今回調べてみたのは、太陽の塔や「芸術は爆発だ!」で有名な芸術家、岡本太郎氏の母、岡本かの子です。

歌人であり小説家。仏教研究者でもあります。

夫と息子と自分の愛人とも一緒に住んでた…?!

まぁ、なんというかその風貌からも一風変わった人の匂いは感じられますが、この人「ちょっと個性的な作家」というにはあまりに凄まじい、強烈な人生を送っていたのです。

生まれは大地主のお嬢様。そしてなんと、夫と息子がいながらにして愛人をひとつ屋根の下に住まわせ、そのメンバーで海外旅行にまで行っていたと…それも愛人はひとりじゃない…!

たったひとりの男を夢中にさせ続けることだって難しいことなのに、愛人が何人もいただなんてどんな絶世の美女…と思っていたのですが!

かの子さんは端的に言って、そのイメージを壊す人でした。おかっぱ頭に奇抜な濃い化粧の個性的な見た目に、わがままで横暴、料理も洗濯もできないっていうね…。

かの子さんの夫はイケメンの画家・漫画家・文筆家で(放蕩を繰り返すクズでしたけど…)、愛人たちは医師や後の県知事になる人など驚くほどハイスペック。そんな男たちが天女の生まれ変わりで唯一無二の素晴らしい女性と崇拝していたのです。自分の中の常識というか価値観がひっくり返ると言ったら失礼だけど、唖然とするというかなんだか納得いかない複雑な気持ちになりました…。

では、なぜ岡本かの子はハイスペ男子たちにモテたのか?

その理由は、彼女の生まれ持った気質にあるようです。

マイワールドの強さで男を沼らせる

女学校時代のあだ名は蛙(かわず)。敬愛する谷崎潤一郎に「白粉デコデコの醜女」「着物の趣味が悪い」と嫌われてしまったようです。

作家円地文子も「かの子女史を私は一度も美しいと思ったことはない」と断言しています。

そんな周囲の声など本人は意にも介さず、ひたすら独自の美意識でマイワールドを炸裂させていた彼女の女学校時代のペンネームは「野薔薇」。…いや「蛙」との落差よ!

ネガティブ思考の私からしたら信じられない自分軸の強さ!!

誰になんと言われようと、自分は美しいし、自分の作品には価値がある!

…周りの評価や悪意も跳ね返してしまう厚いバリアの中で生きられるってどんな感じなのか…凡人には計り知れません。

そんなかの子ワールドに完全沼ったのが夫、一平でした。

家柄も良くイケメンでニヒリストの画学生。黙っていても女性は寄ってくるし、斜に構えていたところもあったのでしょう。

そんな、やさぐれプレイボーイ一平は、かの子さんに出会い一目惚れ。(え?)

あまりに感情丸裸なままぶつかってくるかの子さんは当時はもちろん、きっと現代にいても常識からかけ離れすぎて“ふつう“の人たちからは煙たがられるかも。

でも一平には、そんなかの子さんが純真無垢な天女のように見え一気に引き込まれてしまったんです。

娘が常人とは違うのを理解していた彼女の両親からはなかなか結婚を許してもらえませんでしたが、一平は血判状まで作ってかの子さんを生涯幸せにすると誓い、結婚したんですって…!

そんなふたりが結婚して子どもができると…どうなると思います?

普通の子育ては…無理でした!

そんなふたりの間には太郎が生まれます。

しかし浮世離れした価値観で稀代の不器用だったかの子さんが普通の子育てができるわけもなく…当然ぶっ飛んだ育て方になったようです。

その最も有名なエピソードがこれ。

自分の仕事を邪魔されたくないから

「幼い我が子を柱に縛り付けていた」

…今なら虐待で児相に通報待ったなしな大炎上案件ですよね。

そもそもふつうの生活も危うい人なのに、子育てなんて…寝ている赤ん坊に蹴躓いたことも一度や二度ではなく、家事炊事は何ひとつもまともにできるものがなかったかの子さん。

実はあとふたり子どもがいたのですが、どちらも幼いうちに亡くなっており、太郎自身が

「自分は生まれ持った生命力で成長した」

と言い切るほど、かの子さんの育児は危なっかしいものだったようです。

息子が年頃になれば自分の恋愛相談までしちゃうし(お父さん一緒に暮らしてるんですけどね…。)親子関係というより兄を慕う妹のようになっていくという…。

…ってこの状況はかなりスレスレで凡人には理解できないわけですが、息子からは「ユニークで生々しい人間そのもの」として許容され、「対等な人間同士のぶつかり合い」ができたと愛され尊敬されているかの子さん…。他人の親子関係に口を挟むもんじゃないなぁ、とつくづく思いますね。親子も相性です相性!

そんな普通じゃない育児をしながら書き上げた『老妓抄』をはじめとした小説は、濃厚な表現力で人間の生々しく素朴な姿を描き文壇で評価を得ました。自分のことは客観視できているようには見えないんだけど、他者への鋭い観察力と表現力は見事な点も不思議な魅力です。

良き母とは…? を改めて考えるキッカケに!

私も今では子育ては自分の人生の一部ぐらいに気楽に考えられるようになり、ほどほどに手を抜けるようになりましたが、正直ひとり目の時は病的に自分を追い込み、かの子さんとは逆のタイプのヤバい人でした〜。

人生全てを子どもに捧げよ!子どものことを常に中心に考えて子どもの生活に全て合わせて、良い母ー世間的に見てそう見えるようーにならなくてはとノイローゼ状態だった頃を振り返ると怖くなります。

毎日愛しい子どもといられて幸せ〜と言いながらも思い出すのは家の中で赤ちゃんとふたりで息が詰まりそうだったこと。

出先ではコミュ障のくせに社交頑張ってママ友を作り、子ども向けの料理ばかりを必死に調べて作っていたこと。

休みの日は疲れている夫を急かして公園やイベントにせっせと出かけ、思い出作りと称して写真を撮りまくっていたこと…。

うーん、幸せだったことは間違いないんだけど、同時に大人として、女性としての自分を押し殺しすぎて心が悲鳴を上げていたなぁ。

かの子さんの生き方を真似したいわけではなく真似なんてできませんが、でも自分は自分、女性としてもひとりの人間としても自分の尊厳を大事にして生きることを妥協しないで貫く生き様は少し羨ましくも…あります。

良妻賢母の呪いを解いて、自分なりのバランスを追求したい…なんて考えるキッカケになりました。

かの子さんの小説作品は多くはありませんが、代表作である『老妓抄』はまさにかの子さんの美意識、人生観を表しているのでぜひ読んでみてほしい短編です。

(tomekko)

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