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自分の体を食べて燃料にするオートファジー・ロケットエンジン「ウロボロス-3」

  • 2024.1.20
胴体を燃料にする「オートファジー・ロケットエンジン」
胴体を燃料にする「オートファジー・ロケットエンジン」 / Credit:Krzysztof Bzdyk(YouTube)_Ouroboros-3 Hybrid Autophage Rocket Engine Test (Composite) – July 14 2023(2024)

宇宙に飛び立つロケットの重量のほとんどは、ロケット本体とペイロード(荷物)を宇宙へ飛ばすための燃料で占められます。

一度に運べるペイロードの量を増やすためにも、エネルギー効率の良いロケットが求められています。

そんな中、イギリスのグラスゴー大学(The University of Glasgow)理工学部に所属するクシシュトフ・ブズディク氏ら研究チームは、自分を食べるロケット「オートファジー・ロケットエンジン」を開発中です。

この新しいロケットは、燃料を消費し空になった胴体(タンク)すら、推進剤として使用することができます。

研究の詳細は、2024年1月8日~12日に開かれる航空宇宙分野における世界最大級の学会「AIAA SCITECH 2024 Forum」で発表されます。

目次

  • 不要になった胴体を「捨てる」のではなく「食べる」ロケットエンジン

不要になった胴体を「捨てる」のではなく「食べる」ロケットエンジン

多段式ロケットのイメージ。不要な部分を切り離す
多段式ロケットのイメージ。不要な部分を切り離す / Credit:Canva

現在、一般的に用いられているロケットは多段式です。

この方式では燃料タンクを複数に分け、タンク内の燃料を使い切った時点で、タンクを順次切り離していきます。

そうすることでロケット全体の重量が段階的に小さくなっていくため、エネルギー効率を高めることができるのです。

つまり、「不要になった胴体(タンク)は捨てる」というのが現在の方法です。

しかし、ブズディク氏ら研究チームが現在開発中のロケットは、「不要になった胴体を燃料にする」という方法が採用されています。

いわば、自分の体を食べて重量を軽くしつつ、そこからエネルギーを生み出すわけですね。

この方法では、これまで捨てていたタンク自体も燃料にできるため、燃料の積載量を従来より増やすことができます。これはロケットに詰めるペイロードの重量を増やせる可能性があります。

また小型衛星の打ち上げなどの特定のミッションにかかる費用の削減や、スペースデブリ(軌道上にある不要な人工物体)をこれ以上増やさないことにも役立つ可能性があります。

オートファジー・ロケットエンジン「ウロボロス-3」の試験を行う研究チーム
オートファジー・ロケットエンジン「ウロボロス-3」の試験を行う研究チーム / Credit:Krzysztof Bzdyk(The University of Glasgow)_SELF-EATING ROCKET COULD HELP UK TAKE A BIG BITE OF SPACE INDUSTRY(2024)

この新しいロケットは「オートファジー・ロケットエンジン」と呼ばれています。

この名前はラテン語で「自身を食べる」という意味になる「autophage」から来ています。

(この語は、英語で「autophagy」、日本語で、「オートファジー」と呼ばれています)

この「オートファジー・ロケットエンジン」のアイデア自体は新しいものではなく、1938年から存在していました。

しかし、グラスゴー大学の研究チームが、実用可能なレベルにまで発展させることができたのが2018年のことでした。

そして現在では、実用に向けてさらなるステップを踏んでいます。

今回研究チームは、「ウロボロス(Ouroboros)-3」と名付けたオートファジー・ロケットエンジンの燃焼に成功し、100ニュートンの推力を得ることに成功しています。

このウロボロス-3の胴体は、高密度ポリエチレンのプラスチックチューブで構成されており、エンジンの排熱で溶けるようになっています。

そして溶けた胴体は、ロケットの主な推進剤である酸素やプロパンと混合され、燃料室に送り込まれるのです。

課題となっていたのは、ロケットが自分を食べて収縮する際に、プラスチック製の胴体が座屈せずにその形状を維持することでした。

それでも今回の試験では、ウロボロス-3がオートファジー段階のほとんどで、安定して燃焼し続けることが示されました。

また、ウロボロス-3のプラスチック製の胴体が、使用される総推進剤の最大5分の1の量を供給できることも示されました。

さらにこの試験では、効率的なロケットエンジンとその制御に欠かせないスロットル(エンジン出力のコントロール)、再始動、オン/オフ パターンでのパルス動作が可能であることを実証しました。

研究チームは、試験を終えて次のように述べています。

「従来のロケットの構造体は、総質量の5~12%を占めます。

私たちのテストでは、ウロボロス-3が、自身の構造体の質量をほぼそのまま推進剤として燃焼させられることが示されています。

その質量の一部でもペイロードのために利用できるなら、将来のロケット設計にとって魅力的なものとなるでしょう」

とはいえ、今回のウロボロス-3の実験で得られた推力はそこまで大きいわけではありません。

今後は、オートファジー・ロケットエンジンの推進システムのスケールアップが課題となるでしょう。

参考文献

SELF-EATING ROCKET COULD HELP UK TAKE A BIG BITE OF SPACE INDUSTRY
https://www.gla.ac.uk/news/headline_1033908_en.html

Self-devouring rocket cannibalizes itself for extra fuel
https://newatlas.com/space/autophagy-rocket-eats-itself-fuel/

元論文

Investigation of the Operating Parameters and Performance of an Autophage, Hybrid Rocket Propulsion System
https://arc.aiaa.org/doi/abs/10.2514/6.2024-1604

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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