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フーっと吹いてロック解除!死んだり気絶したら使えない「呼気の乱流」を利用した個人認証システム

  • 2024.1.20
フーっと吹いてロック解除!「呼気の乱流」が個人認証に使えるかも?
フーっと吹いてロック解除!「呼気の乱流」が個人認証に使えるかも? / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

私たちが毎日無意識に行っている呼吸。この一見何の変哲もない日常の動作が、実は最先端の科学技術のキーポイントになると言ったら、驚くでしょうか?

吐き出される空気は個々人の気管や喉といったや物理的情報なを内包しており、これが新世代の個人認証技術に利用できるというのです。

インド工科大学(IITS)の研究チームは、人々の呼吸パターンを高精度センサーで測定し、そのデータを用いて人工知能(AI)を訓練することで、新しいタイプの個人認証システムを開発しました。

息を吹きかけるだけで自分を証明する日が来るのでしょうか?

研究内容の詳細は2024年1月2日にプレプリントサーバーである『arXiv』にて公開されています。

目次

  • 呼吸に含まれる空気の流れは個性がある
  • 「ふー」っと息を吹きかける個人認証システムは死体が使えない

呼吸に含まれる空気の流れは個性がある

フーっと吹いてロック解除!「呼気の乱流」が個人認証に使えるかも?
フーっと吹いてロック解除!「呼気の乱流」が個人認証に使えるかも? / Credit:Canva . ナゾロジー編集部

私たちの呼吸は、ただ空気を取り入れているだけでなく、医学的な手がかりや、私たちの個性が隠されています。

息は、まるで個人の生体情報を運ぶメッセンジャーのように機能するのです。

息から医学診断を行う研究は、過去に熱帯熱マラリアの感染診断において重要な進展を見せました。

患者の呼吸中に含まれる特定の化学物質を分析することで、感染の有無を判別する「息紋」という新しい概念が生まれたのです。

さらに2022年に日本の東京大学と九州大学らの研究者によって行われた研究では、息に含まれる化学成分を分析する「電子鼻」の開発に成功しました。

この技術は、個々人の呼吸に含まれる微妙な化学的違いを感知し、個人識別の可能性を広げています。驚くべきことに、この方法の正確率は約97.8%に達し、顔認識(99.97%)や指紋スキャン(98.6%)に匹敵する精度を示しています。

しかし、この技術を実現するためには、デバイスに電子鼻を外付けする必要があります。

現在のスマートフォンには高度な圧力センサーや画像認識など多機能センサーが搭載されていますが、まだ化学成分を検出する機能は備わっていません。

そこで今回、インド工科大学の研究者たちは、息の中に含まれる空気の圧力や乱流を個人識別に応用できるかどうかを調査しました。

私たちが息を吐き出すとき、空気は収縮する横隔膜によって気管を通して肺から押し出され、喉と口腔内を経て吐き出されます。

横隔膜、肺、気管、喉、口腔内の構造、そして気流速度はヒトによって大きく異なるため、口から吐き出される息の乱流パターンも個性があり、理論上、個人識別に利用できる可能性があったからです。

「ふー」っと息を吹きかける個人認証システムは死体が使えない

フーっと吹いてロック解除!「呼気の乱流」が個人認証に使えるかも?
フーっと吹いてロック解除!「呼気の乱流」が個人認証に使えるかも? / Credit:Mukesh Karunanethy et al . User authentication system based on human exhaled breath physics . arXiv (2024)

私たちが日常何気なく行う「呼吸」私たちの個性を映し出す鍵となるのか?

答えを得るため研究者たちは、94人に10回ずつ息を吐き出してもらい、空気の流れを1 秒間に 1万 回測定できる高精度な空気速度センサーでデータを収集しました。

そして得られたデータをAIに学習させ、個人と呼吸の関連付けを学習させました。

また性能チェックにあたっては、2つの異なる方法が試されました。

最初の方法では、最も一般的であるIDとパスワードを使ったユーザー確認方法に似たもので、被験者が自分の名前(ID)を入力し、パスワードの代わりに息を吹きかける方式を採用しました。

結果、AIは97%の高い精度で呼吸が被験者本人のものであることを識別しました。

2つ目の方法では、名前の入力を省き、息のみで個人を特定する試みが行われました。

こちらは被験者のIDが入力されないぶん高難易度でしたが、AIは全体の半数のケースで、呼吸した人物を2人まで絞り込むことに成功しました。

(※この2人のうち1人は正解となる個人を含んでいました)

研究者たちは、最初期のテストで既にこの成績ならば、学習対象の拡大など将来的な性能向上によって、息による認証システムが実現できると結論しています。

また息による認証システムには、指紋や顔を使った認証にはない、独自のアドバンテージが存在します。

アクション映画などの主人公はしばしば、倒した警備員を引きずって指紋認証システムや顔認証システムを突破する様子が描かれています。

また現実でもFBIが指紋認証システムを突破するために、死亡した人間の指紋の採取を求める事例が確認されています。

指紋や顔を使った認証システムは鍵のように、物理的な模倣さえうまくいけば、本人の許可なく突破することが可能だからです。

しかし息を使った認証システムではこのようなことは不可能です。

本人と同じ空気の乱流を生成するには、横隔膜、肺、気道、喉、口腔といった複合的な構造を全て模倣した上で、肺活量なども一致させる必要があるからです。

研究者たちも「死んだ人をこのテストに合格させることはできません。息を吐き出す必要があるからです」と述べています。

息を用いたこの認証システムは、指紋や顔認証とは一線を画します。

物理的な模倣が困難なため、より安全な認証方法となり得るのです。

また今回の研究は、息から読み取れる個人の特徴という新たな領域に、未知の可能性が秘められていることを、この研究は教えてくれています。

息吹一つで個性を読み解くこの技術は、私たちの身元確認の方法を根本から変え、新しい時代のセキュリティスタンダードを築くかもしれません。

元論文

User authentication system based on human exhaled breath physics
https://arxiv.org/abs/2401.02447

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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