1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 春を呼ぶ節分のしつらえ 〜季節の節目を手作りで〜

春を呼ぶ節分のしつらえ 〜季節の節目を手作りで〜

  • 2024.1.19

旧暦の立春を新年としていた古来より、邪気を払い無病息災を願う行事として始まったという節分は、子供の頃から「鬼は外!福は内!」と、私たち日本人にとって馴染み深い行事の一つ。そして、文字通り冬から春へ「季節を分ける」節目でもあります。 今回は、春を呼ぶ節分のしつらえを神奈川県で小さな庭のある暮らしを楽しむ前田満見さんにご紹介していただきます。

手作りの節分飾り

節分飾り

旧暦の立春を新年としていた昔、その前日の節分は、現在に例えるなら大晦日。歳神様を迎える松飾りと同じように、手作りの節分飾りを大黒柱にしつらえます。

節分飾りに欠かせない柊(ヒイラギ)は、実家の庭のもの。毎年、年末になると、母が柊のほかに松竹梅や南天、椿、熊笹など、いわゆる「縁起物」の植物を送ってくれます。じつは、それら全てを植栽したのは父です。お正月飾りも、節分飾りもこうして手作りできるのもそのおかげ。若い頃は、あまり興味がなかった「縁起物」の植物ですが、歳を重ねる毎に、その一つひとつに家族の健康と幸福を願う父の思いが込められているような気がして、今ではとても有難く感じています。

節分飾り

そして、柊といえば鰯(イワシ)。焼いた鰯の頭を柊の枝に刺すとよいそうですが、室内に飾るとなると、なんとなく見た目も匂いも気になります。そこで、乾物の小さな片口鰯を代用してみたところ、なかなかいい感じに。鰯の代りにお多福や鬼のお面でアレンジを加えると、ちょっと目新しい節分飾りになります。

節分飾り

最近は、お正月飾りもおしゃれで独創性があり見た目も華やか。節分飾りもこんなふうにちょっとアレンジを加えてみるのも楽しいものです。

仕上げに、邪気払いのしめ縄と紙垂を結んでヤナセ杉の大黒柱に。美しい木目に映える柊のキリッとした深緑。普段あまり目にすることのない柊ですが、こうして見ると何と端正で美しいこと。そのうえ、堅く棘のあるこの猛々しさ。きっと、鬼(邪気)も慌てて逃げていくに違いありません。

節分飾り

節分の花あしらい

節分飾り

真冬から春にかけて凛と咲き誇り、その様子から「忍耐」や「生命力」の象徴とされ、古来より「神聖な木」として日本人に親しまれてきた椿。「柊」と「椿」は、まさに「冬」から「春」へ季節の節目に相応しい花木です。嬉しいことに、実家の庭から届く椿にも花やつぼみがたくさん。もちろん、所々虫食いや傷みはありますが、それさえも愛おしく、花のないこの時季に、節分を祝う椿の花あしらいは何よりの楽しみでもあります。

ツバキ

そんな野趣溢れる椿の風情を生かせるよう、器に活ける時は、あえて一種活けの投げ入れに。自然の趣はそのままに、艶やかな葉と上品な花の美しさを堪能します。また、一輪挿しにあしらうと茶花のような風情に。その無駄のない楚々とした佇まいに心が洗われます。

ツバキ

さらに、水を張った浅皿に満開の花を浮かべると、一枚一枚の花びらが際立ち、まるで薔薇のような華やかさ。たった一輪でこれほど魅せられる花はなかなかありません。

ツバキ

春浅い室内に、凛とした空気感と春の息吹を運んでくれる表情豊かな美しい椿。わが家の節分に欠かせない、まさに「神聖な木」です。

豆のお茶菓子でほっこりと

大豆

節分に食べると縁起のよい食べ物といえば、真っ先に浮かぶのが恵方巻き。節分に恵方巻きを食べる文化は江戸時代末期からだそうで、その他にも、鬼が嫌がる鰯や厄を断ち切る蕎麦、長寿を願う大豆(福豆)など、地方によってもさまざまあるようです。わが家でも恵方巻きは定番メニュー。さほど豪華なものではありませんが、毎年手作りしています。そして、節分のお茶菓子に欠かせないのが椿餅とぜんざいです。

椿餅

椿餅は、椿の葉で餡子を包んだお餅を挟んだ和菓子。何と、平安時代に生まれた日本最古の和菓子で源氏物語にも描かれているのだとか。葉っぱでお餅を挟む和菓子といえば、桜餅や柏餅がお馴染みですが、じつは、この椿餅から派生したものなのですね。当時は、甘葛(あまずら)という木の葛からわずかしか取れない甘味料を使って作られた、大変貴重な餅菓子だったようですが、今では、節分が近づくと和菓子屋さんに並んでいるのをよく見かけます。

手作り椿餅

以前、見よう見まねで手作りしてみたところ、意外と簡単で、嬉しくて毎年手作りするように。もちろん、和菓子職人さんの椿餅には及びませんが、手作りのいいところは、ちょっと不恰好でも好みの甘さや食感を加減できたり、出来立てを思う存分味わえること。さらに、餅米を蒸すほのかな甘い香りも、ストーブの上でコトコトと小豆を煮るふくよかな香りもご馳走です。そして、何より実家の庭の椿の葉で作れる有り難さ。やっぱりこれが一番です。

手作り椿餅

一枚一枚きれいに洗って並べた椿の葉は、より光沢を増し色鮮やかに。香りたつ餅米と小豆を椿の葉で挟むひと手間ひと手間に、不思議と心身が清められるような感覚を覚えます。

節分

それにしても、平安時代の人々と同じものを作り食べられるなんて……。何だかタイムスリップしたようで嬉しくなります。

春を待ちわびる気持ちを神宿る椿の葉で挟んだ椿餅と、厄除けの小豆で作る温かいぜんざい……。その滋味深い味と香りが、新たな春へと心を誘います。

Credit
写真&文 / 前田満見

まえだ・まみ/高知県四万十市出身。マンション暮らしを経て30坪の庭がある神奈川県横浜市に在住し、ガーデニングをスタートして15年。庭では、故郷を思い出す和の植物も育てながら、生け花やリースづくりなどで季節の花を生活に取り入れ、花と緑がそばにある暮らしを楽しむ。小原流いけばな三級家元教授免許。著書に『小さな庭で季節の花あそび』(芸文社)。

元記事で読む
の記事をもっとみる