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わが子がいじめの加害者だった…その根本は親の不安から始まっていた!?【つぶさない子育て Vol.3】

  • 2024.1.18

今回は、編集部に寄せられたお悩み、「わが子が他の子をいじめていた。その時、母親がすべきことは?」について、花まる学習会の高濱正伸さんにお話を伺いました。

■いじめはなくならない

――わが子が他の子をいじめていた。母親にとっては衝撃的です。どう考えればいいんでしょうか?

この話は、脳の進化の過程、とりわけ「原始脳」についての知識があると、理解が早いです。人間は、理性だけで割り切れるほど、単純な生き物ではありません。

【原始脳】

大脳辺縁系とも呼ばれ、動物として生きるための必要な機能を担う。感情が生まれる中枢であり、情動と密接に関係する部位と言われています

――「いじめの話」と脳の話はどう結びつくんですか?

人間を理解する前提として、「原始脳が司っている『人間らしい感情』は、全員が持っているものなんだ」と、知っておくことが大切です。

お母さんが、子どもを「心の底から愛している!」と感じるのも、この部分の脳です。一方で、怒ったら「自分でもどうしてここまでオーバーヒートしてしまうんだろう?」と、理性で制御がきかない状態になってしまう。それも、「原始脳だから」と捉えれば、納得できるわけです。

――感情は「原始脳に由来する」ということですか?

はい。それで私が言いたいのは、「いじめはなくなりません」ということです。なぜなら動物としての人間は、残酷な生き物だからです。

そこを「ないこと」にせずに、まずは認める。その上で、心のバランスをコントロールする。この二段階のステップが必要です。

つまり、いじめについては「絶対にあってはならないものだ」と言い出す人がいますが、「いや、いや。普通にあるでしょ」という話です。

「絶対にいじめちゃいけないのはわかっているけれど、どうしてだか腹が立つ」とか、「言っていることはわかるんだけど、なんかイラッとする」とか…。「生きていればそういうことの連続で、それが自然なことである」という人間理解が必要です。

――「『いじめたい』」いう感情があることは人間としては自然だ」ということですか?

こういった負の感情を飼い慣らしながら生きていくのは、大人だって難しいですよね…。だからこそ、お母さん方に考えて欲しいのは、「いじめている側の子の根底にあるのは何か?」ということです。

――いじめている側の根底にあるのは、何なんですか?

不足や不安です。「自分が認められていない」「欲求が満たされていない」という時に、人は他者をいじめたくなります。

世の中に、満たされてる人、満たされない人がいるのは、当然です。お金持ちの人、そうではない人がいるのと同じで、必ずアンバランスになっています。

不満に思っている側は中傷したくなるし、いじめたくなるし、満足している人を嫌な目に遭わせたくなってしまうのです。「社会で生きていく」というのは、そういったことをどうかいくぐっていくのか? という話なんです。

■もし子どもがいじめをしている側だったら?

――いじめている側の親になった時は、どうすればいいのでしょうか?

「わが子が加害者である」という事実は、とてもショックです。けれども、その勢いのまま子どもを叱ってしまわずに、一呼吸置いて考えてみて欲しいのです。「この子に何が足りていなかったのかな?」と。親御さん自身で、問いを持って欲しいと思います。

――「この子に何が足りていなかったのかな?」という問いとはどうすればいいですか?

特効薬は、「1対1で、親が向き合うこと」です。親も忙しいですから、子どもを理解する時間が少なくなってしまっていたのかもしれません。

子どもが本当に欲しいのは、ぎゅーっと抱きしめて、「あなたさえいれば、お母さんは何もいらない」と言ってもらう時間です。もしくは、「うん、うん、そうだよね、お母さんもそう思うよ」と、親にしっかりと話を聴いてもらう時間です。いじめている子は、結局、根本的なところの愛が足りないだけなんです。

――「根本的なところの愛」ですか?

はい。その前段として、「母親である自分自身が、大丈夫なのかな?」というモニタリングがすごく大切です。

お母さんは、わが子がいじめっ子だと聞けば「子どものいじめを止めなければ!」と思いますが、「その根本は、あなたの不安から始まっています」と、言いたい時もあります。

――何だか、耳が痛くなってきました。親はいつも不安なので…

大丈夫です。完璧な人なんていませんから。ただ、周囲に対して、「これ以上は、言っちゃいけない」「ここは、引かなきゃいけない」とコントロールができる程度には、自分をモニタリングできる余力は残しておいたほうがいいですね。

――正直言えば「余力なんて、ありません!」という場合も多いと思いますが、どうすればいいでしょうか?

働くお母さんからの相談で一番多いのは、「時間がない」ということです。「子育ても仕事も、どっちつかずで中途半端になってしまい、自己嫌悪を感じている」という声もよく聞きます。

そんな時、私がよくお伝えするのは、「(1)人との比較」「(2)やらされ感」「(3)コンプレックス」は、3悪なんですよということです。

――働くお母さんが持ってしまう自己嫌悪をどうすればいいですか?

働くお母さんは、自分を専業主婦のお母さんと無意識に比較していませんか? そんなお母さんたちに言いたいのは、「専業主婦と働く主婦は、スポーツの種別が違うんだ」ということです。

サッカーをやっている人が、「あっちは野球バットがあっていいな!」なんて言っても、意味がないでしょう? 「あなたは、サッカーをやっているんですよね?」と。「共働き」という種目でベストを尽くせばいいだけです。専業主婦のお母さんや自分の母親世代と比較してもしょうがない。

――「仕事と家庭の両立」は幻想だと私も思います。でもどうモニタリングすればいいでしょうか?

働くお母さんなりの「安心できる自分」をどうモニタリングするかは、「今日の私、何だかイライラしている。どうしてかな?」と、あくまで「自分の安心」を中心に考えることです。うまくやれているように見える人と比較をしない。自分自身をちゃんと見る。それがもっとも大切なポイントです。

また、仮に他者から嫌なことを言われたら、「この人、心に穴があるのだろうな、可哀そうに」と思いながら、こなしていく力を持つ。嫌な上司に対しても「哀れだな」と思えば、腹も立たなくなるじゃないですか。

――「お母さんを楽にするには、どうしたらいいんだろう?」と、記事を書きながら、いつも思います。お母さんが大変だから、子どもに「とばっちり」が行ってしまうのではないかと…

解決の基本は、シンプルです。子どもと話をたくさんする。その子との二人の時間を楽しむだけで充分です。それだけで、子どもは動物的に嬉しいのです。「解決策をちゃんと出そう」などと思うと、苦しくなります。

もし、「子どもと会話ができない」と思うのであれば、「指示命令だけになっていないかな? 対話やコミュニケーションできていたかな?」と振り返ればいいんです。

――「子どもと話をたくさんする」でいいんですか?

自分の心持ちだけの話なんです。そして、今、子どもと対話やコミュニケーションができていない大人が多いのは、あなた自身の問題でもないのです。

正直なところ、教育の仕組みに大きな穴があると思っています。端的にいえば、評価基準にさらされ続けている教育です。偏差値、いい大学、いい会社、高い年収といった数値指標ばかりを見せられているのです。

――「教育の評価基準がそもそもおかしい」ということですか?

そうです。他人の尺度で評価するのではなく、自分の軸を持つ。自分の選んだ道が正解です。子どもたちには、自分の幸せを自分の心で決められる人になって欲しいです。

そのためには、親がそういう メンタリティを獲得する必要があるんです。だからこそ、まずは大人が自分の決めた場所で面白がることから始めてみませんか?

いかがでしたか? 筆者は、高濱先生の取材を「高濱先生浴」と呼んでいます。高濱先生の肯定的で前向きな言葉や思考を浴びると、ものすごく元気になります。私自身、「自分の決めた場所で面白がること」から始めてみようと思います!

■今回お話を伺った高濱 正伸先生の著書

『どんな時代でも幸せをつかめる大人にする つぶさない子育て』

高濱 正伸 (著)/ PHP研究所(1,540円(税込))

子どもの人生の選択肢を増やしてあげたい。あの時、子どもに「あれをやらせておけばよかった」と後悔したくない。そんな深い親の愛が時に暴走してしまうことがある…。

「どうしてできない!?」と子どもを責めたり、「そんな点数じゃ、○○中学なんて入れないぞ!」と脅してしまったり…。それで、子どもがつぶれては本末転倒です。

そんなお母さん、お父さんたちに意識して欲しいのが「伸ばすよりも、つぶさない子育て」。子どもとの適切な距離感がわかり、子育て不安が軽くなる1冊です。高濱 正伸(たかはま まさのぶ)先生

1959年熊本県生まれ。東京大学農学部卒。

花まる学習会代表、NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長。算数オリンピック作問委員。日本棋院理事。

武蔵野美術大学客員教授。環太平洋大学(IPU)特任教授。

(楢戸ひかる)

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